第3回:「相続放棄」だけが解決策ではない ─ “マイナスの遺産”との向き合い方

2025年11月26日

「借金があるから相続放棄をすれば安心」と思っていませんか?
しかし、実際の相続では"放棄すればすべて終わる"わけではありません。特に不動産が絡むと、思わぬトラブルや管理責任が残るケースもあります。本記事では、相続放棄の誤解と正しい判断の仕方を司法書士が解説します。

【目次】

  1. 相続放棄とは? ─ 「財産を一切受け取らない」手続きの基本
  2. 「放棄したのに残る責任」とは?
  3. 負動産を放棄しても安心できない理由
  4. 相続放棄と「遺産分割協議」の違い
  5. 放棄すべきかどうか判断するための3つの視点
  6. 相続放棄以外の選択肢(限定承認・名義変更・寄付など)
  7. 実際の相談事例:高松市での"放棄トラブル"から学ぶ
  8. 専門家と一緒に"負動産の出口"を探す

1. 相続放棄とは? ─ 「財産を一切受け取らない」手続きの基本

 相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切受け継がないという法的手続きです。
 借金が多い、使えない山林がある、老朽化した家屋を維持できない──そんな場合に「放棄すれば全部なかったことに」と考える方も多いでしょう。

 しかし、実際の相続放棄は「家庭裁判所に申述(しんじゅつ)」という正式な手続きを行う必要があり、亡くなったことを知ってから原則3か月以内という期限もあります。
そのため、「とりあえず様子を見よう」としているうちに期限を過ぎてしまうケースが少なくありません。

2. 「放棄したのに残る責任」とは?

 多くの方が誤解されているのが、「相続放棄=もう何も関係ない」という考え方です。
確かに法的には相続人でなくなりますが、現実問題として"管理責任"が完全に消えるわけではありません。

 たとえば、放棄した不動産が放置され、倒壊や雑草、害虫被害などが発生した場合、近隣トラブルとして行政から連絡が来ることがあります。
特に**誰も登記名義を引き取らない「空き家」や「山林」**は、次の相続人にも放棄が続き、最終的には行政が処理に困る"負動産連鎖"を引き起こすことも。

3. 負動産を放棄しても安心できない理由

 「相続放棄したのに、不動産の管理をお願いされた」といった声は珍しくありません。
理由はシンプルで、相続放棄をしても、すぐに所有権が国や他人に移るわけではないからです。

 民法上では、相続放棄者以外の相続人がいなくなると、「相続財産管理人」という専門職が選任されます。
しかし、この申立てにも費用と時間がかかるため、現実には手続きが進まず、放置されてしまうことが多いのです。

4. 相続放棄と「遺産分割協議」の違い

 相続放棄は"相続人の地位を失う"制度。
 一方で、遺産分割協議は「相続人として財産をどう分けるか」を話し合う制度です。

 つまり、「自分は現金だけをもらい、不動産は放棄したい」といった調整は、相続放棄ではなく遺産分割協議で対応すべきです。
 誤った判断で放棄してしまうと、他の財産(預金や保険金)までも受け取れなくなることがあるため注意が必要です。

5. 放棄すべきかどうか判断するための3つの視点

 相続放棄を検討する際には、次の3つの視点で判断することをおすすめします。

  1. 財産と負債の全体像を把握すること
     → 亡くなった方の通帳、登記簿、借入先の資料を確認。
  2. 管理コストの見通しを立てること
     → 固定資産税、維持費、売却の難易度を試算。
  3. 他の相続人との話し合いができるかどうか
     → 分割協議で解決できる余地があるか確認。

 司法書士や税理士に相談すれば、財産調査や評価も含めて「放棄が最適かどうか」のアドバイスを受けられます。

6. 相続放棄以外の選択肢(限定承認・名義変更・寄付など)

 相続放棄以外にも、次のような手段で"負動産"を整理できる場合があります。

  • 限定承認:プラスの財産の範囲でマイナスを引き受ける制度。
  • 共有解消・売却:相続人間で不動産を整理・換価して現金化。
  • 自治体やNPOへの寄付:条件付きで引き取ってくれる制度もあり。

いずれの方法も一長一短がありますが、「放棄=唯一の答え」ではないという認識が大切です。

7. 実際の相談事例:高松市での"放棄トラブル"から学ぶ

 香川県高松市内のご相談で、「築60年の空き家を相続放棄したが、近隣から苦情が来て困っている」というケースがありました。
 放棄後に誰も管理せず、草木が伸び放題になった結果、行政から改善指導が入りました。

 司法書士が介入し、相続財産管理人を選任して整理を進め、最終的に取り壊し・土地売却へ。
 結果的に、放棄の前に専門家へ相談していれば、もっとスムーズに処理できたケースでした。

8. 専門家と一緒に"負動産の出口"を探す

 「放棄したい」と思った時点で、すでに"手放したい財産"を抱えている証拠です。
 しかし、放棄だけでは"出口"にならないケースが多くあります。
 相続財産の性質を見極め、「譲渡」「共有整理」「登記変更」など複数の方法を比較検討することが大切です。

 香川県では、司法書士が中心となって自治体や税理士と連携し、こうした"負動産対策"を支援しています。
 一人で悩まず、専門家に相談することで、最適な解決策が見つかります。

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