利益供与について

2023年04月27日

顧客からの相談で、収益を分配する手法としてどのような方法があるのか、また、法令上問題がないのかの質問を受けました。株式会社が利益を上げその一部を協力会社や協力してくれた個人に供与する場合、会社法上、また税法上どのような制限があるのか解説いたします。

目次

1.利益供与とは

2.利益供与が会社法上制限される場合

3.利益供与に関する株主の範囲

4.利益供与によって発生する役員の責任と罰則

5.税務面での問題

1.利益供与とは

 利益供与(りえききょうよ)とは、企業などが従業員や取引先などに対して、金銭やプレゼントなどの形で利益を与えることを指します。利益供与は、企業や組織とその関係者との信頼関係を築くために行われることがあります。具体的には、従業員のモチベーション向上や取引先との良好な関係維持、社会的な貢献活動への支援などが挙げられます。ただし、利益供与は一定の法律上の制限があり、法令に違反することがないように注意する必要があります。

2.利益供与が会社法上制限される場合

 株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、当該株式会社又はその子株式会社の計算で、財産上の利益の供与をしてはなりません(会社法120条1項)。 この規制は、企業経営の健全性を確保するとともに、株式会社財産の浪費を防止する趣旨で設けられたものです。つまり、総会屋などに利益供与をして総会の運営を役員に都合よく運用していくことなどが挙げられます。

 ①財産上の利益の供与

  財産上の利益とは、金品の供与だけでなく、金員貸与、債務免除などを含みます。また、無償の場合だけでなく、有償の場合も含まれます。

 ➁供与の相手方

  株主(総会屋)に限定されません。株主である総会屋自身ではなく、その妻子などに対して利益を供与する場合も該当します。

 ③株式会社又は子会社の計算における利益供与

  株式会社又は子会社の計算において財産上の利益を供与することが禁止されます。取締役などが自分の計算で利益を供与する場合には、会社法120条の適用はありませんが、それをすることにより取締役の報酬を増加させようとした場合には、会社法120条の適用となります。

3.利益供与に関する株主の範囲

 利益供与となる株主の権利は、その会社の株主だけではありません。以下の株主などについても対象となります。

 ①適格旧株主

  株式交換や株式移転などによって会社の完全親会社の株主となっている者のうち、株式交換等の日の原則6ヶ月前から株式交換等の日まで、会社の株式を引き続き保有していた元株主をさします。

 ➁最終完全親会社

  最上位にあたる親会社である。完全親会社や、その会社の100%の株式を完全子会社とで保有する会社など。

4.利益供与によって発生する役員の責任と罰則

 それでは、実際に役員が会社法上の利益供与をしてしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか。

 利益供与を受けた者には返還義務が発生し、利益供与に関与した役員には連帯して利益供与の額を会社に支払う義務が発生する。役員個人にも責任が及ぶということです。

 ただし、職務に対して注意を怠らなかったことを証明できれば、役員にこの義務は生じません。総株主の同意で責任を免除することができます。

 利益供与を行った役員には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が定められています。利益供与の事情を知って利益供与を受けた者も同様です。

(会社法120条第3項から第5項、会社法970条第1項から第2項)

5.税務面での問題

 税法では、会社から個人や法人に「経済的な利益の供与」を行うと、会社の経費にならなかったり、利益供与の相手側に課税されたりする場合があります。

 「経済的な利益の供与」の範囲は広く金銭の支払いはもちろん、債務の免除、債務の肩代わり、低額の資産売却など、さまざまな利益が該当します。

 特に役員や従業員に対する利益供与は、給与や福利厚生費、交際費などの区別をしづらいです。

 交際費には損金算入限度額がありますが、期末の資本金が1億円以下であれば、一事業年度で800万円まで経費にできます。交際費にあたれば税務上のメリットは比較的大きいです。

 しかし、その利益供与が給与や寄附金にあたると後になってわかった場合、源泉所得税や法人税の納税が適切に行われていないため、加算税が発生しかねないという問題も発生する恐れがあります。

 事前に、交際費による損金算入で経費にできるのか、給与や寄付金にあたるのかを税理士に相談しておくのが得策です。


※会社法上の利益供与と、税法上の利益供与の範囲が異なる点に注意してください。

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