相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
第4回:「農地が共有のときは要注意」──“農地法の壁”を超える解消実務

相続で受け継いだ不動産の中に「農地」が含まれている場合、
共有状態のままでは簡単に分割・売却できません。
農地法という"特別なルール"があるためです。
今回は、農地の共有を解消するときに直面する「農地法の壁」と、
実務で有効な「持分放棄」の活用法を司法書士の視点から詳しく解説します。
■目次
- 相続で共有になった農地──なぜ扱いが難しいのか
- 農地法の基本ルール:許可がなければ移転できない
- 共有者間の移転でも「許可が必要」になる理由
- 実務での突破口:「持分放棄」という方法
- 放棄を使う際の注意点と登記の手順
- まとめ──"知っている人だけが得をする"共有農地の整理法
1. 相続で共有になった農地──なぜ扱いが難しいのか

農地は、宅地や山林とは違い、**「自由に売れない土地」**です。
相続で受け継いだ土地の中に農地が含まれていると、
「兄弟で分けたい」「売却したい」と思っても、すぐには動かせないことがあります。
理由は、農地法による所有・利用の制限です。
農地は、食料供給を守るため、転用や譲渡に厳しい許可制度が設けられています。
したがって、単純に「共有を解消したい」と思っても、
法律上の手続を踏まなければ、登記申請が却下されてしまうこともあります。
2. 農地法の基本ルール:許可がなければ移転できない
農地法第3条では、「農地の権利移転(売買・贈与・交換など)を行う場合は、
原則として農業委員会の許可を受けなければならない」と定めています。
この許可が必要になるのは、
- 相手が個人であっても
- 共有者同士の間であっても
- 持分の一部であっても
すべて「権利の移転」に該当するためです。
つまり、兄弟で共有している農地の持分を一方が他方に譲渡したい場合も、
農業委員会の許可がなければ登記できません。
3. 共有者間の移転でも「許可が必要」になる理由

「親から相続した土地だから、兄弟間で自由に移せるのでは?」
と感じる方も多いですが、農地法ではそうはいきません。
なぜなら、農地を「所有できるのは原則として農業従事者のみ」とされており、
農業を行っていない者が取得すると"遊休農地化"のおそれがあるためです。
このため、
- 都市部に住む相続人が農地を取得したい
- 共有状態を解消したい
といったケースでは、許可が得られず手続きが止まってしまうことがよくあります。
司法書士の実務でも、「農地があるだけで登記が進まない」というご相談は非常に多いのが実情です。
4. 実務での突破口:「持分放棄」という方法

ここで登場するのが、**「持分放棄」**という考え方です。
共有者の一人が、自分の持分を他の共有者に「譲渡」するのではなく、
単に**「放棄」する(手放す)**ことで、残りの共有者の持分が自動的に増えるという仕組みです。
法律上、持分放棄は「譲渡」ではなく「権利の放棄」という行為。
つまり、「あげる」ではなく「やめる」という性質を持つため、
農地法第3条の"権利移転"には当たらないと解されています。
その結果、
- 農業委員会の許可が不要
- 手続きが迅速でコストが少ない
- 紛争を回避しやすい
というメリットがあります。
💡【具体例】
兄弟3人で共有していた農地(それぞれ3分の1ずつ所有)。
長男だけが農業を継ぎ、他の2人は遠方在住。
このとき、次男と三男が「持分放棄」を行えば、
長男の名義に一本化され、農地法の許可を得ずに共有を解消できます。
この方法は、特に「農地を使うのは一人だけ」「他の共有者は処分したい」
というケースで非常に有効です。
5. 放棄を使う際の注意点と登記の手順

ただし、持分放棄を使う際にはいくつかの注意点があります。
① 他の共有者が受け取ることを拒めない
持分放棄は一方的な行為なので、他の共有者が「いらない」と言っても放棄は成立します。
そのため、放棄後の責任(管理・税金など)は自動的に残りの共有者に移ります。
② 登記申請は「原因:持分放棄」で行う
登記原因を「贈与」などにしてしまうと、農地法許可が必要になります。
司法書士が登記申請書を作成する際には、「持分放棄」と明記することが重要です。
③ 放棄の意思表示は明確にする
書面(持分放棄証書など)を残しておくと、後日の争いを防げます。登記原因証明情報ないに法律の要件が記載されますが、法務局に差し入れる書類となりますので、複数作成し(もしくはコピー)、各自で保管しておけばいいでしょう。
④ 管轄の農業委員会に事前確認を
自治体によっては、放棄後の土地管理について意見を求められることもあります。
司法書士が関与している場合は、農業委員会への照会を先に行うのが安全です。
6. まとめ──"知っている人だけが得をする"共有農地の整理法
相続による農地の共有は、放置しておくと次のような問題を招きます。
- 誰も耕作しない"放置農地"の発生
- 固定資産税の負担が続く
- 共有者の一人が亡くれてさらに細分化
一方で、農地法の許可制度を理解しておけば、
「持分放棄」によりスムーズに共有を解消できるケースも多くあります。
重要なのは、
- 農地法の制限を正しく理解すること
- 適切な登記原因を選ぶこと
- 専門家に相談して安全に進めること
この3点です。
共有状態を早めに整理しておけば、将来の世代に"負の遺産"を残さずに済みます。
農地が含まれている相続こそ、司法書士への相談が最も効果を発揮する分野といえるでしょう。

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