「(平成14年2月7日 さいたま地方裁判所 平成11(ワ)2300)
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じたとき)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。
そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることは言うまでもないとしても、当該遺産については、上記の協議又は審判を経る余地はない。」
(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)
「しかしながら、このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は、相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、これと異なる内容の遺産分割が善相続人によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。
被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別、そうでなければ、被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく、むしろ全相続人の意思が一致するなら、遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。
法的には、一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが、このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるし、その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。
また従前から遺言があっても、全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり、ただ事案によって遺産分割協議が難航している実情もあることから、前記判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。」
難しくいっていますが、最高裁では、遺言書の内容を優先するがあまり、不要な相続トラブルを起こしたんじゃ本末転倒。だから、遺産分割協議によってもいいですよと言っており、さいたま地裁では、「相続させる旨の遺言」(特定財産承継遺言 民法1014条第2項)の場合は、遺言が優先されると言っています。
5.まとめ
原則として、遺言書が残されている場合は遺産分割協議をせずに、その内容に沿って遺産を分配しなければなりません。とはいえ、遺言の内容とは違う方法で遺産を分けたい、という方もいらっしゃるかと思います。そのような場合、次の条件を満たしていれば、遺言書があったとしてもその内容と異なる遺産分割協議を進めることが可能です。
①遺言書で遺産分割を禁止していない
➁相続人全員の合意がある
③遺言執行者の同意がある
④受遺者の同意がある
以上です。よくわからない場合には、専門家への相談をしてください。