【第3回】信頼される専門家になるために ~正論だけでは築けない“相談者との関係性”~

2025年09月12日

「専門的な知識もあるし、誠実に答えている。それなのに、なぜか信頼されていないように感じる…」。
そんな違和感を抱いたことはありませんか?

司法書士をはじめとした士業や専門家は、正しい情報を伝えることが仕事の根幹です。
しかし、それだけでは相談者との信頼関係を築くことはできません。

このシリーズでは、
第1回「正論が届かない理由」、
第2回「伝える順番を変えるテクニック」、
とお届けしてきましたが、最終回となる第3回では、「信頼される専門家」になるために必要な姿勢・言葉・距離感について掘り下げていきます。

「知識と信頼は別物」。その現実をふまえたうえで、日々の相談対応に活かせるヒントをご紹介します。

目次

  1. 専門知識は"信頼の前提"でしかない
  2. 信頼される人が自然と使っている言葉の特徴
  3. 「距離感の設計」が関係性を左右する
  4. 正論の"後"に求められるものとは
  5. 知識と信頼のバランスを取る実践的な方法
  6. まとめ:相談者の「心の窓」が開いたときが、本当のスタート

1. 専門知識は"信頼の前提"でしかない

 専門家として一定の知識や経験があることは、「信頼されるための条件」にはなります。
 しかし、それはあくまでスタート地点に過ぎないのです。

 知識があるから信頼されるのではなく、「この人なら、自分の話をちゃんと受け止めてくれる」と感じてもらえるかどうか。
 その印象が、最初の5分の応対で決まってしまうこともあります。

 つまり、信頼は「知識の多寡」ではなく、**「自分ごととして受け止めてくれる人かどうか」**で判断されるのです。

2. 信頼される人が自然と使っている言葉の特徴

 信頼される専門家が共通して使っている言葉があります。それは、

  • 「〇〇してもいいかもしれませんね」
  • 「こういう見方もあると思います」
  • 「私の考えですが、参考にしてみてください」

 一見、曖昧な言い回しに思えるかもしれません。
 しかし、これらはすべて、相談者に「選ぶ余地」を残した言葉です。

 正論や結論を押しつけるのではなく、「あなたにとってどうか」という視点を尊重する姿勢。
 この"余白"が、相談者の安心感につながります。

3. 「距離感の設計」が関係性を左右する

 専門家と相談者の関係において、距離感の設計は非常に重要です。
 近すぎると「馴れ合い」に、遠すぎると「冷たい人」に映ることもあります。

 私が意識しているのは、「感情の部分は親身に、判断の部分は中立に」という二重構造です。

 たとえば、

  • 感情を受け止めるときは、「それはつらかったですね」としっかり寄り添う。
  • しかし、結論を導くときには、「ご自身にとってどうするのが納得できるか、一緒に考えていきましょう」と、一歩引いて伝える。

 この**"寄り添いと客観の両立"**が、ちょうどよい距離感をつくります。

4. 正論の"後"に求められるものとは

 前回まででお話ししたように、正論は"後出し"することで効果的になります。
 しかし、正論を伝えた「その後」がもっとも重要なフェーズです。

 そこで必要なのは、**"選択肢の整理"と"相談者の気持ちの確認"**です。

「〇〇という方法が法的にはあります。ですが、ご自身としてどう感じますか?」
「ご事情をふまえると、こちらの選択肢もあり得ます」

そうしたやりとりを通して、「自分で決めた」と感じられるプロセスをつくること。
 それが信頼を生む土台になります。

5. 知識と信頼のバランスを取る実践的な方法

信頼を得るために、以下の3つのポイントを実践しています。

正解を焦って言わない
あえて沈黙の時間をとることで、「しっかり考えてくれている」という印象を与えます。

②"わからない"と言う勇気を持つ
即答できない場合、「確認してお伝えします」と言うことが、誠実さを伝えます。

相談者の「解釈の余地」を残す
「こうでなければならない」ではなく、「こういう見方もあります」という表現が、信頼の伸びしろを生みます。

6. まとめ:相談者の「心の窓」が開いたときが、本当のスタート

 正論は武器になりますが、それは相手の"心の窓"が開いているときだけ。
 その窓を開くのは、知識ではなく「関心」と「姿勢」です。

 相談者にとって、司法書士や専門家は人生の一場面でしかありません。
 しかしその短い時間の中でも、「この人と話してよかった」と思ってもらえるかどうかが、プロとしての分かれ道になります。

 「正論+共感+距離感」。この3つの視点を意識することで、
正しいだけでは終わらない、信頼される専門家としての対応力が磨かれていくと感じています。

最新のブログ記事

令和7年9月17日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

<