【香川県相続事例】「父の家が他人名義!?相続人が70人以上?共有名義の落とし穴と現実的な解決策」

2025年06月29日

共有名義の不動産は、時として想像を絶する相続トラブルを引き起こします。香川県高松市で実際にあった「名義人が知らない人」「相続人が70人以上」という事例をもとに、現実的な対応策と注意点を司法書士が解説します。

目次

  1. ご主人の死後、自宅の名義が他人だった
  2. 遠縁の共有者、その数なんと70人超
  3. 相続放棄はもう間に合わない?
  4. 現実的な選択肢とご提案
  5. 相続放棄の限界──債務への注意点
  6. 法的な補足と制度の説明
  7. まとめ:親の代で対応しないと、子に重荷が

1. ご主人の死後、自宅の名義が他人だった

 特にこの数か月、相続に関するご相談が増加しております。そんなある日、ご相談者様がご主人を亡くされ、その相続登記を行うためにご自宅の登記簿を確認したところ、なんと名義人は見知らぬ名前になっていました。しかも複数名による「共有持分」の形で登記されていたのです。

 この時点で「何かおかしい」と気づかれたご相談者様は、信頼できる別の専門家に相続関係の調査を依頼。すると驚くべき事実が明らかになりました。

2. 遠縁の共有者、その数なんと70人超

 調査の結果、ご自宅は過去にご主人の遠い親戚と共有名義になっており、しかもその親戚側にもすでに複数回の相続が発生していたのです。そのため、現在の所有者(共有持分権利者)は約70名にのぼることが判明しました。

 こうなると、ご主人の相続人である配偶者とお子様が不動産の名義をすべてまとめるには、70人全員の同意による遺産分割協議が必要です。現実的に見て、所在不明の方や協力が得られない相続人が出てくることは避けられず、「事実上、不可能」と判断されました。

3. 相続放棄はもう間に合わない?

 ご主人が亡くなってから数年が経過していたため、一般的な相続放棄(家庭裁判所への申述)は法定の3ヶ月以内の期限を過ぎています。ただし、「相続放棄ができない」とは限りません。

 相続人が相続の開始を知った時点が明確でない場合や、実質的な相続財産の存在を知らなかったと合理的に判断される場合には、家庭裁判所に申立てることで相続放棄が認められる可能性があります。しかし、これは準備と説得力ある資料提出が必要で、認められるかどうかはケースバイケースです。

4. 現実的な選択肢とご提案

 そのため、私はご相談者様に次のような対応策を提案しました。

  1. 今回の父親の遺産分割協議において、配偶者(母親)に遺産をすべて相続させる形にする。
  2. 将来、母親の相続が発生した際に、子どもであるご相談者様が「相続放棄」を行う。

 こうすることで、問題の不動産を自分たちの手に引き継がず、最終的には法定相続人不在で国庫に帰属させる流れも選択できます。

 ただし、これは時間をかけて解決を先送りする「消極的対処法」であり、他の相続財産がある場合や将来の事情変更にも注意が必要です。

5. 相続放棄の限界──債務への注意点

 注意すべきは、「相続放棄は借金も放棄できるが、放棄の時期や対応を誤ると効果がない」ことです。
 さらに、今回のように「不動産に固定資産税などの負担がある場合」は、放棄しても管理責任を問われるケースもあり得ます。

 また、いったん相続を承認したとみなされる行為(遺産の処分や取得)をしてしまうと、相続放棄はできなくなることもあります。

6. 法的な補足と制度の説明

▼相続放棄の根拠(民法第915条)
 相続放棄は「自己のために相続があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。ただし、開始時期の特定や事情次第では、期限を過ぎても受理される可能性があります。

▼不動産の共有(民法第249条〜)
 共有名義の不動産は、持分ごとの処分・相続が可能であり、1人の行為で全体を動かすことはできません。共有者の1人でも協力が得られないと、名義変更や売却は原則できません。後々の手続きの複雑さを考えて、共有名義はお勧めしておりません。ただし、ご本人がどうしてもそうしたいというご要望であれば、ご説明をしたうえで対応しております。

▼国庫帰属制度(相続土地国庫帰属法)
 令和5年から施行された制度により、一定の条件下で相続人が不要な土地を国に引き渡すことが可能となりました。ただし、負担金の支払いや除外条件も多く、誰でも使える制度ではありません。※対象は土地のみで建物は対象外。

7. まとめ:親の代で対応しないと、子に重荷が

 このように、長年放置された共有不動産は、いざという時に「登記が進まず」「相続人の数が爆発的に増え」「対応が実質不可能」となります。

 生前に対処しておけば、遺言書や持分整理などでスムーズに相続が進んだ可能性もあります。
 大切なのは、「子どもに負担を残さない」という親の意思決定です。
 早めの対策が、家族に安心をもたらします。

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