(元本を確定させないための登記)
元本確定前の根抵当権の債務者が亡くなったときは、相続開始後6カ月以内に指定債務者の合意の登記をしないと担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなされます。金融機関と相談した上、指定債務者を選び登記するように指定があった場合、指定債務者の合意の登記をするためには、その前提として被相続人の相続人全員を債務者とする債務者の変更登記をしなければなりません。つまり、①相続人全員の債務者変更登記、➁指定債務者の合意の登記、の2回の登記が必要となります。債務者の変更の登記となりますので、登録免許税は、共同根抵当権が設定されている物件の数×2回分×1000円となります。
また、相続発生から合意までの間の各相続人が承継した債務を担保するためには、さらに③債権の範囲の変更登記も必要になります。
(事例)
根抵当権者X銀行、債務者Yの根抵当権があり、Y所有の不動産があったとします。Yの相続人はA,Bで、Aが不動産を遺産分割協議で相続登記をしているものとします。
①相続人全員の債務者変更登記
「登記権利者 X銀行
登記義務者 A
変更後の事項 債務者(被相続人 甲) A B」
➁指定債務者の合意の登記
「登記権利者 X銀行
登記義務者 A
指定債務者 A」
③債務者及び債権の範囲の変更登記
「登記権利者 X銀行
登記義務者 A
変更後の事項
債務者 A
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
○年○月○日債務引受(旧債務者B)にかかる債権
○年○月○日相続によるAの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権」
※AがYの相続により承継した債務及びBが相続した債務を免責的に引き受けたものにかかる債務は根抵当権によって担保されませんので、特定債権として追加する必要があります。債務者をAとする変更登記は交替的変更となりますので、変更前に生じたXのAに対する債権の範囲に属するものにかかる債権も根抵当権によって担保されることになります。
元本確定前の根抵当権において、債務者が変更した場合、新たな債務者の債権は担保するものの、今までの債権は外れてしまいますので、このような特定債権として、根抵当権の債権の範囲を変更することで、根抵当権の担保範囲に加えることができます。
3.相続発生後6か月経過後にできる対応
先にも書いた通り、元本確定前の根抵当権の債務者が亡くなったときは、相続開始後6カ月以内に指定債務者の合意の登記をしないと担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなされます。
元本が確定すると、その後は通常の抵当権のように相続時の債権を担保する抵当権と同じになりますが、極度額まで「利息」「遅延損害金」を担保することができます。当然、相続後に発生した債権については、当該根抵当権では担保できなくなってしまいます。そして、確定後の債務を全額返済すれば、根抵当権は効力を失います。
それでは、具体的にどうなるのかと言いますと、以前のブログの抵当権の債務者の相続と同じ手順で行うことになります。金融機関から指定があると思うのですが、①遺産分割協議による相続登記を行う方法と、➁相続登記後に免責的債務引受による債務を承継する相続人の債務引受けの登記の2種類となります。
これらの登記は、元本が確定していないとできませんので、相続発生から6か月経過後に行うことができます。
4.まとめ