つまり、今現存していない・価額が減少していても、贈与時の価額を相続財産に加算し、そこから相続分を乗じて自身の取得できる財産の価額を算出し、そこから受けた贈与の価額を減じることで産出されます。
仮に、その計算結果がゼロ又はマイナスの場合には、特別受益者が相続で取得する財産は有りません。マイナスの場合でも、他の相続人にその価額を返還する必要はないことに注意が必要です。
贈与・遺贈の価額≧相続分の価額:具体的な相続分はありません。
6.特別受益の確定手続
持戻しを適正に行うためには、特別受益である贈与の有無や目的物の価額を確定する必要があります。これは、原則として、共同相続人間の協議でされます。
(最判平7.3.7)
「ある財産が特別受益財産にあたるかどうかは、遺産分割申立て事件、遺留分侵害額請求に関する訴訟など具体的な相続分又は遺留分の各手を必要とする侵犯事件又は訴状事件における前提問題として審理判断されるのであり、それらの事件を離れて、特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法である。」
遺産分割事件・遺留分侵害額請求の訴訟で審理判断されるから、特別受益かどうかの判断を別の確認訴訟ですることは不適法であると言っています。
7.持戻しの免除(民法903条第3項)
被相続人が特別受益の持戻しに関する民法規定と異なる意思表示(方式は問わない)をした時は、その意思表示に従うとあります。遺言書などに、これらの事項が記載されている場合などが該当します。
8.夫婦間における持戻しの免除の意思表示推定規定(民法903条第4項)
長年連れ添った配偶者に対する持戻し免除の推定規定があります。
次の3つの要件を満たした場合、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
①婚姻期間が20年以上の夫婦であること。
➁①の夫婦の一方である被相続人が他の一方に対する遺贈又は贈与であること。
③遺贈又は贈与の対象物が、居住の用に供する建物またはその敷地であること。
持戻し免除推定規定では、婚姻期間・遺贈、贈与の対象物について制限を設けています。
※推定規定とみなし規定の違い
推定規定は、裁判になった場合に推定はされるものの、相手方の証拠などにより覆る可能性がある規定です。一方、みなし規定は、裁判になった場合でもみなされますので、相手方の証拠などにより覆ることがありません。
9.まとめ