2.相続放棄のデメリット
①資産を相続できない
➁全員が相続放棄をすると、先祖代々の資産が失われる
③後順位の相続人に迷惑がかかることがある
④相続財産の管理義務が残る場合もある
➄相続放棄は原則として撤回できない
⑥死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない
などが挙げられていました。どの項目も、当然相続人ではなくなる制度なので相続人であることのメリットは失われます。ここで着目したいのは、相続財産の管理義務が残る場合がある点です。➁相続人全員が相続放棄をした場合と密接に関係するのですが、いったいどのようになっていくのでしょうか。
3.相続財産の管理義務が残る場合
それでは、相続放棄の民法の条文を確認していきましょう。
「第三節 相続の放棄
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。」
民法938条では、相続放棄の申述する先が家庭裁判所であること、民法939条では、相続放棄をした者は、初めから相続人ではなかったとみなされ、民法940条では、相続放棄したものが占有する相続財産を自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない、とあります。
つまり、自分が抱えている相続財産を引き渡すまでは、善管注意義務ほど厳格ではないですが、自分の財産と同じくらいの管理責任を負うことになります。
そして、相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産はすべての相続人のものではなくなります。民法では、清算人に引き継ぐまでは、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければなりません。相続人全員が相続放棄をしているので、この場合、「相続財産清算人」に引き渡すまでは、管理義務を負うことになるのです。ところが、「相続財産清算人」は、だれがどのように申請して、そしてその費用はいくらぐらいかかるのでしょうか?
被相続人に債務が多い場合だと、奇特な債権者の方が、わざわざ家庭裁判所に清算人の申し立てをしてくれて、予納金数十万円から百万円ぐらいをポンと出してくれるかもしれません。しかし、債務がなかったり、その額が少なかった場合、このような方が現れることはまずはありませんので、管理責任を逃れたい相続人の方が申立てをし、予納金を支払うことになります。