受託者の権限の幅が非常に大きいため、信託財産の管理・運用・処分をするだけでなく、信託契約で定めた権限を行使することができます。受託者は、自分自身の財産と信託財産はわけて管理し、自分の財産以上に慎重に扱う義務を負っています。つまり、受託者だけの判断で財産管理ができてしまうので、場合により横領のリスクもあります。このようなことから、財産管理をしっかりと任せられる人がないない場合には家族信託をすべきではありません。
③不動産の売却・活用や多額の金銭の支払いなどの予定がないケース
委託者の自宅や賃貸物件(アパートなど)の貸付・売却などの予定がない、親の認知症によって凍結される財産がないもしくは凍結されても困らない、親の介護や治療、生活、施設への入居などの出費に関して信託財産からの収益を当てにしなくてもいいなどが挙げることができます。
このような場合には、遺言書で相続の対策をしておけば十分対応できるため、家族信託を要しません。
④生前贈与などによって資産譲渡が完了しているケース
つまり、父親から生前に子供たちに資産譲渡等により管理すべき財産が承継されている場合です。わざわざ家族信託を新たに結ぶ必要はありません。
家族信託は、本人の財産を管理する制度であり、子供たちに贈与済みの財産を管理することはできません。
➄資産より身の回りの管理をしてほしいケース
家族信託で対応できるのは、あくまで信託財産に係る範囲のみであり、介護・治療・施設への入所などの法律行為をする「身上監護」がご希望である場合には、任意後見などの成年後見制度を検討すべきです。
また、成年後見制度利用による身上監護がなくても、介護を受ける本人のご家族が近くに住んでいる時は、手続きの代行を認めてくれることが多いです。
※私が勤めていた有料老人ホームでも、契約時、ご家族の署名で大丈夫でした。しかし、本来は契約は当人同士、つまり、サービス提供者とそれを受ける方との間で行うのが通常ですが、「ご本人のためになる」との理由でOKにしていました。
⑥家族信託できない財産が対象の場合
(1)農地
農地は信託法とは別に農地法という法律の規制を受けるため、信託財産とするには、農業委員会等の許可や届け出が必要となります。
(2)借地
借地権の譲渡に当たるため地主の承諾が必要となります。承諾なしに信託財産として管理してしまいますと、「無断譲渡」とみなされ、民法612条2項の規定により契約を解除される可能性があります。
(3)上場株式や投資信託
上場株式や投資信託について家族信託に対応する証券会社が現状少ないため、信託口口座が開設できないことが多いです。
このように、家族信託できない財産については、裁判所の監督は受けますが、後見制度で管理するという手法を使うことができます。
4.まとめ
このように、家族信託は万能ではありません。また、全ての家族に当てはまることもありません。他の制度との併用で、ご利用者とそのご家族が納得いく形で、信頼できる方に管理してもらうことが重要となってきます。