第1回:「相続で生まれる“共有不動産”」──なぜ今、放置が危険なのか

2025年12月09日

相続によって、兄弟や親族の名義が並ぶ「共有不動産」が増えています。登記義務化の流れの中で、共有のまま放置された不動産は、売却も利用もできない"負動産"になるおそれがあります。今回は、共有不動産の仕組みと、放置が招くトラブルを司法書士の立場から解説します。

目次

  1. 共有不動産とは──なぜ相続で「共有」が生まれるのか
  2. 共有状態のまま放置するリスク
  3. よくあるトラブル事例
  4. 「共有解消」を検討する前にすべきこと
  5. 司法書士に相談すべきタイミング
  6. まとめ──早めの「整理」が家族を守る

1. 共有不動産とは──なぜ相続で「共有」が生まれるのか

 不動産の相続では、相続人が複数いる場合、その不動産を分けずに「共有」という形で引き継ぐことがあります。
 たとえば、父親が亡くなり、母と子ども二人が相続人である場合、遺言書や遺産分割協議がなければ、登記上は母と子ども二人の「共有名義」になります。

 このような共有状態は一見「平等に分けたようで安心」と感じられますが、実は将来的なトラブルの芽を抱えています。
 不動産は物理的に分けることが難しいため、誰かが使う・売る・貸すといった行為をするときには、原則として共有者全員の同意が必要となるからです。

 近年は、相続登記の義務化(2024年4月施行)によって登記自体は進みましたが、結果として共有不動産の件数が増加しているのが実情です。
 「相続登記をしたら安心」ではなく、「共有のまま放置しないこと」がこれからの課題となります。

2. 共有状態のまま放置するリスク

 共有不動産を放置すると、次のような問題が時間の経過とともに顕在化します。

(1)売却や利用ができない

共有不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。
たとえ一人でも反対すれば、売却は進められません。
「兄弟のうち一人が海外在住で連絡が取れない」など、現実的な問題が障害になります。

(2)固定資産税などの負担だけが続く

共有者全員が等分に税負担を負うのが原則ですが、実際には「代表者だけが払い続けている」ケースも多く見られます。
税負担をめぐって感情的な対立が起こることもあります。

(3)管理責任・修繕義務の所在が曖昧になる

建物が老朽化しても「誰が修繕するのか」が決まっていないため、結果的に誰も手を付けず、近隣から苦情が入る事態も。
香川県内でも、空き家対策特別措置法に基づき「管理不全空き家」として行政指導を受けたケースが増えています。

(4)次の相続でさらに複雑化する

共有者の一人が亡くなると、その持分がさらに複数の相続人へ引き継がれ、**"二重・三重の共有"**になります。
こうなると、実務上の解消は非常に困難です。

3. よくあるトラブル事例

 司法書士の現場で多いのは、次のようなケースです。

  • 行方不明の共有者がいる
     相続登記をしたきり、音信不通の兄弟が所在不明。売却も処分もできない。
  • 意見がまとまらない
     長男は売りたい、次男は残したい。感情的な対立で協議が進まない。
  • 固定資産税をめぐる不公平
     代表名義人だけが納税しており、「自分ばかり損をしている」と不満が噴出。
  • 相続が連鎖して解決不能に
     共有者が亡くなり、その子どもがさらに相続人に。関係者が10人以上に広がり、誰が代表なのか分からなくなる。

 このような状況では、司法書士が関与しても「調整役」だけでは限界があります。
登記・法的整理と同時に、「誰がどう引き継ぐか」を家族で早期に話し合うことが重要です。

4. 「共有解消」を検討する前にすべきこと

 共有状態を見直す第一歩は、現状の登記内容を正確に把握することです。

  • 現在の登記簿謄本を取得し、共有者の氏名・持分割合を確認
  • 相続関係が未整理であれば、法定相続情報一覧図を作成
  • 共有者が亡くなっている場合は、その相続関係を調査

 これらを整理することで、初めて「共有解消の方法」を検討できるようになります。
実際の方法には「売却」「分割」「持分買取」「持分放棄」などがありますが、
それぞれに法的要件や注意点があり、個別事情に応じた判断が必要です。

 特に農地が含まれる場合は、農地法の許可が必要になることがあります。
 ただし、共有者間での調整として「持分放棄」により許可を不要とするケースもあります。
この"許可不要の実務テクニック"については、第4回の記事で詳しくご紹介します。

5. 司法書士に相談すべきタイミング

 次のような場合は、司法書士への相談を強くおすすめします。

  • 登記簿の共有者の中に、連絡が取れない人がいる
  • 他の相続人が共有状態をそのままにしている
  • 農地や山林など、扱いにくい不動産がある
  • 共有状態を整理したいが、方法がわからない

 司法書士は、法的整理だけでなく、家族間の利害を調整しながら実務的な落としどころを提案する専門家です。
 「解消する」ことが目的ではなく、**「家族の関係を壊さずに次の世代へつなぐ」**視点で支援できます。

 香川県内でも、共有不動産に関する相談は年々増加しており、
「相続登記を済ませた後に問題が発覚した」というケースも多いのが実情です。
 登記が終わった段階で一度現状を確認し、今後の方針を話し合っておくことが、最も効果的な"トラブル予防策"です。

6. まとめ──早めの「整理」が家族を守る

 共有不動産は、時間が経てば経つほど整理が難しくなります。
 関係者が増え、思い出や感情も複雑に絡み、手続きが進まなくなることがほとんどです。

 相続登記をしたタイミングこそ、「共有のままで良いのか」を見直すチャンス。
 司法書士は、その整理を法的・実務的にサポートする専門家です。

※争いがある場合は、弁護士にご相談ください。

次回は、具体的な「共有解消の3つの方法」──売却・分割・買取──について詳しく見ていきます。

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