第3回:それでも放棄できない? 相続放棄と負動産の誤解

2025年12月17日

「使わない土地はいらない」「古い家を相続したくない」──そう思っても、単純に"放棄"すれば済むとは限りません。実は相続放棄には"期限と手順"があり、うっかり放置してしまうと、結果的に"負動産の所有者"になってしまうことも。今回は、相続放棄の誤解と正しい対応方法を司法書士が解説します。

目次

  1. 相続放棄とは? ─ 「いらない」と言うだけでは成立しない
  2. 相続放棄の"落とし穴"と期限の重要性
  3. 放棄しても責任が残るケースとは?
  4. 負動産を巡る「相続放棄」の誤解
  5. 放棄以外の選択肢 ─ 分割協議・管理委託・寄附など
  6. 専門家が実務で見た「放棄の失敗」と防止策

1. 相続放棄とは? ─ 「いらない」と言うだけでは成立しない

 「相続放棄」は、"相続人としての地位そのものを放棄する"という法的手続きです。
 つまり、「財産はいらない」と口頭で伝えるだけでは効力がなく、家庭裁判所に正式な申述をして受理されることで初めて成立します。

 この相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことになります。
 しかし、ここで大きな誤解が生じやすいのが、「放棄すれば全て終わり」という考え方です。

2. 相続放棄の"落とし穴"と期限の重要性

 相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行わなければなりません(民法915条)。
 この「3か月」という期間は非常に短く、しかも、不動産の登記名義や借金の有無を調べる時間が足りないことも多々あります。

 また、放棄の意思があっても、期限を過ぎてしまうと、**単純承認(すべて相続したとみなされる)**扱いとなり、負動産の所有者となってしまうケースが実務でも頻発しています。

 司法書士の現場でも、「古い家だから誰も住まないと思って放置していたら、いつの間にか相続登記義務が発生していた」という相談は後を絶ちません。

3. 放棄しても責任が残るケースとは?

 実は、相続放棄をしても、相続開始時点で占有・管理していた場合の責任が残ることがあります。
 たとえば、相続放棄後も建物が倒壊して第三者に被害を与えた場合、「相続人ではないが管理責任が問われる」ケースもあり得ます。

 また、自治体によっては「相続放棄済み」と説明しても、所有者不明土地の管理責任の照会が届くことがあります。
 これは、実務上の行政運用と民法上の整理が完全に一致していないためであり、放棄すれば全て解決するとは言い切れない現実があるのです。

4. 負動産を巡る「相続放棄」の誤解

 「相続放棄すれば家を手放せる」と思っている方は多いのですが、実際には「誰も相続しない=所有者不明土地」になってしまい、結果的に地域全体の管理負担が増すことになります。

 自治体によっては、相続放棄済みであっても、老朽化した建物の撤去命令や火災防止の指導が相続人に届くこともあり、「放棄したのになぜ?」と混乱を招きます。

 これは、法的には放棄済みでも、実質的な管理者として扱われる期間が生じることがあるためです。
 特に田舎の空き家や山林では、「誰も引き取らない財産」の行方が社会問題化しています。

5. 放棄以外の選択肢 ─ 分割協議・管理委託・寄附など

 相続放棄は"最終手段"として位置づけるべきであり、その前に検討できる選択肢があります。

  • 遺産分割協議で、他の相続人に負動産を集中させる(代償金を調整する)
  • 管理委託契約を結び、業者に空き家・土地の維持を任せる
  • 地方自治体への寄附(ただし受け入れ条件は厳しい)
  • 相続土地国庫帰属制度の活用(管理コストを国に移す制度)

 これらを適切に選ぶためにも、相続開始前に専門家と相談することが非常に重要です。

6. 実務で見た「放棄の失敗」と防止策

 実際の相談では、「3か月を過ぎてしまい放棄が認められなかった」「放棄をしたが管理責任でトラブルになった」という例が少なくありません。

こうしたトラブルを防ぐためには:

  • 相続が発生したら、まず相続財産の調査(登記簿・固定資産税納税通知書の確認)を行う
  • 放棄を検討するなら、家庭裁判所への申述期限を厳守する
  • 司法書士・弁護士への初期相談を早めに行う

 これらの基本ステップを踏むことで、「知らなかった」「間に合わなかった」というリスクを回避できます。

まとめ

相続放棄は「いらない」と言うだけで済む簡単な手続きではありません。
特に、負動産が絡む相続では、放棄したつもりが"責任だけ残る"という逆転現象も起こり得ます。

「相続放棄をすれば楽になる」という誤解を避け、法的手順と実務の両面から慎重に対応することが、これからの相続トラブル回避の鍵となります。

(無料相談会のご案内)

生前対策・相続対策に関する無料相談は随時受付中です(完全予約制)。

📞 電話予約:087-873-2653

🌐 お問い合わせフォームはこちら

📆 土日祝も可能な限り対応いたします。

また、相続税対策・登記相談も含めた無料相談会も開催中です:

・第3水曜開催:087-813-8686(要予約)

・詳細はこちら:相談会ページへ

香川県外にお住まいの方も、オンライン・Zoomでのご相談が可能です。
お気軽にお問い合わせください。

最新のブログ記事

「使わない土地はいらない」「古い家を相続したくない」──そう思っても、単純に"放棄"すれば済むとは限りません。実は相続放棄には"期限と手順"があり、うっかり放置してしまうと、結果的に"負動産の所有者"になってしまうことも。今回は、相続放棄の誤解と正しい対応方法を司法書士が解説します。

令和7年12月17日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

相続財産と聞くと「もらえるもの」と思いがちですが、近年は「誰も引き取りたくない不動産」が増えています。
実家、山林、畑──売れず、貸せず、管理も難しい。
相続人同士の話し合いがまとまらずに数年が経つケースも少なくありません。
本記事では、司法書士の立場から「負動産をめぐる遺産分割協議」の現実を解説します。

相続といえば「財産を受け継ぐ」ものと思われがちですが、近年では"負の遺産"──いわゆる「負動産(ふどうさん)」が社会問題となっています。
空き家や使い道のない土地が増え続ける背景には、人口減少・家族構成の変化・登記未了など、複数の要因が絡んでいます。本記事ではその現実を司法書士の視点で解説します。

<