第3回:それでも放棄できない? 相続放棄と負動産の誤解
「使わない土地はいらない」「古い家を相続したくない」──そう思っても、単純に"放棄"すれば済むとは限りません。実は相続放棄には"期限と手順"があり、うっかり放置してしまうと、結果的に"負動産の所有者"になってしまうことも。今回は、相続放棄の誤解と正しい対応方法を司法書士が解説します。

「使わない土地はいらない」「古い家を相続したくない」──そう思っても、単純に"放棄"すれば済むとは限りません。実は相続放棄には"期限と手順"があり、うっかり放置してしまうと、結果的に"負動産の所有者"になってしまうことも。今回は、相続放棄の誤解と正しい対応方法を司法書士が解説します。
目次
1. 相続放棄とは? ─ 「いらない」と言うだけでは成立しない

「相続放棄」は、"相続人としての地位そのものを放棄する"という法的手続きです。
つまり、「財産はいらない」と口頭で伝えるだけでは効力がなく、家庭裁判所に正式な申述をして受理されることで初めて成立します。
この相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことになります。
しかし、ここで大きな誤解が生じやすいのが、「放棄すれば全て終わり」という考え方です。
2. 相続放棄の"落とし穴"と期限の重要性

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行わなければなりません(民法915条)。
この「3か月」という期間は非常に短く、しかも、不動産の登記名義や借金の有無を調べる時間が足りないことも多々あります。
また、放棄の意思があっても、期限を過ぎてしまうと、**単純承認(すべて相続したとみなされる)**扱いとなり、負動産の所有者となってしまうケースが実務でも頻発しています。
司法書士の現場でも、「古い家だから誰も住まないと思って放置していたら、いつの間にか相続登記義務が発生していた」という相談は後を絶ちません。
3. 放棄しても責任が残るケースとは?

実は、相続放棄をしても、相続開始時点で占有・管理していた場合の責任が残ることがあります。
たとえば、相続放棄後も建物が倒壊して第三者に被害を与えた場合、「相続人ではないが管理責任が問われる」ケースもあり得ます。
また、自治体によっては「相続放棄済み」と説明しても、所有者不明土地の管理責任の照会が届くことがあります。
これは、実務上の行政運用と民法上の整理が完全に一致していないためであり、放棄すれば全て解決するとは言い切れない現実があるのです。
4. 負動産を巡る「相続放棄」の誤解
「相続放棄すれば家を手放せる」と思っている方は多いのですが、実際には「誰も相続しない=所有者不明土地」になってしまい、結果的に地域全体の管理負担が増すことになります。
自治体によっては、相続放棄済みであっても、老朽化した建物の撤去命令や火災防止の指導が相続人に届くこともあり、「放棄したのになぜ?」と混乱を招きます。
これは、法的には放棄済みでも、実質的な管理者として扱われる期間が生じることがあるためです。
特に田舎の空き家や山林では、「誰も引き取らない財産」の行方が社会問題化しています。
5. 放棄以外の選択肢 ─ 分割協議・管理委託・寄附など

相続放棄は"最終手段"として位置づけるべきであり、その前に検討できる選択肢があります。
これらを適切に選ぶためにも、相続開始前に専門家と相談することが非常に重要です。
6. 実務で見た「放棄の失敗」と防止策
実際の相談では、「3か月を過ぎてしまい放棄が認められなかった」「放棄をしたが管理責任でトラブルになった」という例が少なくありません。
こうしたトラブルを防ぐためには:
これらの基本ステップを踏むことで、「知らなかった」「間に合わなかった」というリスクを回避できます。
まとめ
相続放棄は「いらない」と言うだけで済む簡単な手続きではありません。
特に、負動産が絡む相続では、放棄したつもりが"責任だけ残る"という逆転現象も起こり得ます。
「相続放棄をすれば楽になる」という誤解を避け、法的手順と実務の両面から慎重に対応することが、これからの相続トラブル回避の鍵となります。

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