「“認知症と相続”──判断能力が失われる前にできる準備とは」

2026年01月01日

認知症は誰にでも起こり得る身近な問題です。もし判断能力を失ってしまったら、財産の管理や相続の準備はどうなるのでしょうか?本人の意思が反映できなくなり、家族が思わぬ困難に直面することも少なくありません。本記事では、認知症と相続の深い関わりをわかりやすく解説し、「元気なうちに備えること」の大切さをご紹介します。

目次

  1. 認知症と相続の意外な関係
  2. 判断能力が失われたら何ができなくなるのか
  3. 家族が直面する3つの現実的なリスク
  4. 認知症になる前にできる生前対策の具体例
  5. 実際の相談事例から学ぶ「備えの重要性」
  6. まとめ──"想定外"を避けるために

1. 認知症と相続の意外な関係

 日本では高齢化が急速に進み、65歳以上の5人に1人が認知症を発症する時代が目前に迫っています。香川県内でも「親が施設に入ったけれど財産の整理が進まない」「相続の話をしたいが本人に判断力がなくなってしまった」という声が増えています。

 相続というと「亡くなったときに発生するもの」と思われがちですが、実は認知症の発症がその前に大きな壁として立ちはだかるのです。なぜなら、相続の準備に必要な手続きは「本人の意思表示」が前提になるからです。

2. 判断能力が失われたら何ができなくなるのか

 一度判断能力が失われると、以下のようなことができなくなります。

  • 遺言書の作成
    有効な遺言書を残すには「意思能力」が必要です。認知症が進行して判断が難しくなれば、遺言を作ること自体が無効になる可能性があります。
  • 不動産の売却や名義変更
    施設費用や介護費用をまかなうために自宅を売りたい、という場面でも、本人の署名・捺印がなければ売却できません。
  • 生前贈与や信託契約
    子や孫に財産を譲りたいと考えても、契約の理解ができない状態では実行不可能です。

 つまり「認知症になる前にしかできない手続き」が多く存在し、時間との戦いでもあるのです。

3. 家族が直面する3つの現実的なリスク

 認知症と相続が重なると、家族には次のようなリスクが待ち受けています。

財産が"凍結"される
銀行口座が使えず、介護費用や生活費が出せない。

不動産が動かせない
売却も活用もできず、空き家が放置されるリスクが高まる。

相続時に争いが起きやすい
「本人の意思が分からない」ことで、兄弟姉妹間の話し合いがまとまらず、争続へと発展することも少なくありません。

 これらの問題は、家族に精神的・経済的な負担を大きく残すことになります。

4. 認知症になる前にできる生前対策の具体例

 認知症と相続のリスクを回避するには、「元気なうちに準備する」しかありません。代表的な方法を3つご紹介します。

(1)遺言書の活用

公正証書遺言を作成しておけば、判断能力があるうちに「財産の分け方」を確実に残せます。後々、争いを避ける強力な武器になります。

(2)任意後見制度

将来、判断能力が低下したときに備えて「この人に財産管理を任せたい」と決めておく仕組みです。家族が安心してサポートできる体制を整えられます。

(3)家族信託

「親の財産を子が管理しつつ、親の生活費や介護費用に充てる」といった柔軟な仕組みです。相続登記義務化とも相性がよく、近年注目度が高まっています。

 これらを組み合わせることで、認知症が進行しても財産が適切に管理され、家族が困らずに済むようになります。

5. 実際の相談事例から学ぶ「備えの重要性」

 当事務所に寄せられたご相談の中に、次のようなケースがありました。

  • ケース1:遺言が間に合わなかった例
    80代のお母様が認知症を発症。相続人である兄弟が話し合いを始めたが、遺言がなく意見がまとまらず、家庭裁判所での調停に発展。結果、時間も費用もかかってしまった。
  • ケース2:家族信託でスムーズに対応できた例
    一方で、別のご家族は70代の段階で家族信託を締結。認知症発症後も子が代理して施設費用を支払い、不動産も活用できた。相続も事前に定めたルール通りに進み、争いは起きなかった。

 この対比が示す通り、「準備の有無」がその後の家族の負担を大きく左右します。

6. まとめ──"想定外"を避けるために

 認知症は誰にでも訪れる可能性があります。そして一度発症すれば、財産管理や相続の準備は一気に難しくなります。

 「まだ元気だから大丈夫」と思っている今こそ、備えを始めるタイミングです。遺言・任意後見・家族信託といった制度を使いこなすことで、将来の"想定外"を防ぎ、家族を守ることができます。

 生前対策は「家族への最大のプレゼント」と言っても過言ではありません。

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