2.他法令の期間制限
それでは、今回の民法改正で10年以内に遺産分割協議をすれば安心・・・というわけではありません。他にも法令による期間制限を受ける場合があります。
①不動産登記法の改正
2024年4月1日より、不動産登記法が改正され「相続登記義務化」が始まります。
相続が発生し、不動産の所有権を取得したことを知ったときから3年以内に不動産の名義変更登記をすることが義務づけられました。また、②遺産分割協議が成立したときは、成立した日から3年以内に名義変更登記をすることが義務づけられています。これらの義務に違反すると、10万円以下の過料の対象となります。
3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合、この過料を免れるためには、いったん法定相続分による相続登記をするか、相続人全員の「相続人申告登記」をしておく必要があります。法定相続分による登記は、登録免許税等が発生しますし、「相続人申告登記」をしたとしても、そのまま不動産を売却することはできませんし、その間に新たな相続が発生するリスクも抱えています。
➁相続税申告
相続税申告が必要な場合、相続が発生したことを知った日から10カ月以内に申告し、納税しなければいけません。申告期限内に申告をしないと、無申告加算税や延滞税が課されてしまいます。
また、10カ月以内に遺産分割協議がまとまらない場合、配偶者控除の特例や小規模宅地の特例など相続税額を低くする特例が使えません。相続税申告時に「3年以内の分割見込書」を提出すれば、その後遺産分割が成立した際に更正請求を行うことで、特例の適用を受けて納めすぎた金額の還付を受けることはできます。ただし、更正請求の手間が増える、相続税申告時の納税額が高くなり納税資金を確保する必要が生じるため、できるだけ期限内に遺産分割協議を済ませておいた方が、手間はかかりません。
3.まとめ
遺産分割協議自体には法律上の期限はありませんが、特別受益や寄与分の主張が制限される期限、相続登記期限、相続税申告期限、といった期限があります。
これらの期限近くになり、焦ることのないよう、早めに専門家に相談し、期限内に遺産分割協議をまとめることをお勧めいたします。
ご相談者の中でも、収益物件を所有されている夫が亡くなり相続登記をしておらず、奥様の方も最近認知症気味で、どうすればいいのかというご相談を受けます。相続人が認知症になった場合には、遺産分割協議をするには、成年後見人を就けるしか方法はなくなってしまいますので、事前の対策を早急に検討してみてください。