こちらも依頼の際にニーズがある話なのですが、遺産分割協議書は一般的には、不動産、預貯金等の相続財産をどのように分けるのかを相続人全員で協議し合意して成立します。つまり、相続財産全てについて記載があるわけなのですが、この遺産分割協議書は、各種相続手続きに使用しますので、それぞれの手続きをする際に遺産分割協議書を提出すると、不動産をどれだけ持っているかなどの手続き先以外の財産の状況も、手続き先に全て知られてしまいます。これを嫌う方もおり、不動産登記には不動産の遺産分割内容だけなど財産ごとに作成する場合もあります。もちろん、このような形の遺産分割協議書も、各財産について、相続人全員の署名と実印の押印があれば成立することになります。
「遺産分割協議書は必ず1通で作成しなければならないという制限はない。(昭35.12.27民甲3327号)」
4.相続人ごとに作成した遺産分割協議書
遺産分割協議書が相続人ごとに作成されている場合であっても、遺産分割協議書の内容が同一であり、相続人全員が合意できている事実が書類上で確認できるものであれば、遺産分割協議書として取扱うことができます。
つまり、このような遺産分割協議書を有効に成立すると認めてもらうには
①遺産分割協議書の内容が同一
➁相続人全員が合意できている事実が書類上でわかる
ことが要件になります。
不動産登記の実務上も、遺産分割協議書と同一の内容を、相続人の人数分「遺産分割証明書」として作成し、当該証明書に相続人全員が署名(記名)と実印を押印することで相続登記が可能です。
可能であれば、1枚の遺産分割協議書に連署・押印する形が望ましいですが、時間が限られている場合や、一部の相続人が海外に居住している場合などは、前述の遺産分割証明書の形が適しているケースもあります。例えば、相続人の一人が海外に住んでいる場合などがこれにあたると思います。
「(『登記研究』170号・100頁・質疑応答)
質問:同一内容の遺産分割協議書を、共同相続人が各人別に夫々作成(連署せず)した場合は、遺産分割の協議を証する書面といえないか。
回答:同一内容の遺産分割協議書を数通作成し、それに各自が各別に署名捺印したものであっても、その全部の提出があるときは、遺産分割の協議書とみて差しつかえないものと考えます。」
5.まとめ
相続登記義務化に伴い、相続発生後の相談件数が増加しております。その中で、とりまとまった遺産分割協議の内容を反映した遺産分割協議書作成の依頼も多数ありました。
専門家に依頼した場合、こういった細かい内容についても必ずチェックしています。
インターネットにも各種雛形が掲載されていますが、どのケースでも利用できるとは限りませんので、ご自身に合った内容にすることが重要です。少しでも不安がある場合には、専門家への相談をお勧めいたします。