しかし、これらの制度には厳格な要件や審査基準、実績報告の義務が課されます。よくある落とし穴として、以下が挙げられます。
- 購入対象の備品に「単価要件(例:5万円以上)」がある
- 経費の支出順序や証拠書類の保存方法に細かい指定がある
- 事後に不備が発覚すると、返金を求められる可能性もある
- 補助金の入金が事業実施のかなり後になる(キャッシュフローに注意)
5. 司法書士事務所開業時の実体験
私が司法書士事務所を立ち上げた際にも、スタートアップ向けの補助金を活用しようと考え、実際に1次審査(書類選考)は通過しました。
ところが、申請内容に記載した備品購入に関して、「1品あたり5万円以上の支出が対象」とされていたため、実際には必要ない高額備品を買わなければ要件を満たせない状況に直面しました。
たとえば、2万円台で十分な性能をもつ事務チェアを、5万円以上の高機能チェアに変える必要がありました。プリンターやキャビネット、応接セットも同様です。
結果として、必要性より「申請要件を満たすための出費」が優先されてしまうという、本末転倒な状態になりかけました。
6. 助成金にこだわりすぎないという判断
最終的に私は、補助金の申請を辞退しました。理由は、「制度の要件に合わせることが目的化してしまっている」と気づいたからです。
本当に必要な設備や備品を、自分の事業計画に合わせて適切に選ぶことが最優先。助成金のために不自然な出費を増やすのは、長期的に見て逆効果だと判断しました。
助成金を受けることで短期的には金銭的なメリットがあるかもしれませんが、その過程で生じるストレスや時間的コスト、キャッシュフローの硬直化も見逃せません。
7. まとめ:制度を「使う」より「活かす」視点を
スタートアップ支援制度は、うまく活用すれば非常に有効な資源です。しかし、制度ありきで動くと、自分の事業方針とズレが生じることもあります。
補助金や助成金は「使う」ことが目的ではなく、「事業をスムーズに立ち上げ、成長させる」ための手段です。制度の存在を知った上で、必要に応じて柔軟に取捨選択していく姿勢が重要です。
事業主として、自分の経営判断と制度の要件を天秤にかけ、「自分にとって本当に有益かどうか」を見極めることこそ、成功するスタートアップの第一歩と言えるでしょう。