(論点)デジタル遺産の取り扱いに関する関心の高まり

2025年05月22日

インターネットとデジタル技術が私たちの生活に深く浸透した現代、デジタル遺産の問題は相続においても無視できない課題となっています。従来の財産管理とは異なり、デジタル遺産は特有の扱いが必要であり、その重要性は近年ますます注目されています。特にSNSアカウントやオンラインバンク、クラウドストレージに保存されたデータなど、これらデジタルな資産が遺族間でのトラブルを引き起こすこともあります。本稿では、デジタル遺産とは何か、どのような点に注意すべきか、そして生前からどのように準備するべきかを探っていきます。

目次

  1. デジタル遺産とは?
  2. デジタル遺産に関する課題
  3. 生前整理の重要性
  4. トラブルを避けるための対策
  5. 専門家への相談とサポートの活用

1. デジタル遺産とは?

 デジタル遺産とは、インターネットやデジタル機器を通じて生成・管理される財産や情報のことを指します。具体的には、以下のようなものが該当します。

  • SNS(Facebook、Twitter、Instagram など)のアカウント
  • インターネットバンキングや仮想通貨口座
  • 電子メールやクラウド上に保存されたファイルやデータ
  • オンラインサブスクリプション(Netflix、Spotify など)
  • 電子書籍やデジタル音楽、映画などのコンテンツ購入履歴

 これらの資産は、従来の不動産や銀行口座のように、物理的に手元に残るものではありません。そのため、相続時に遺族がアクセスできない、内容を把握できないという問題が発生しやすいのです。

2. デジタル遺産に関する課題

 デジタル遺産は物理的な資産と異なり、見つけること自体が難しいという点で特殊な課題を抱えています。さらに、以下のような問題も考えられます。

  • アクセス権の問題: アカウントのパスワードやアクセス権限が遺族に渡っていない場合、法律やプラットフォームの規約により、遺族がアカウントにアクセスすることができないことがあります。多くのプラットフォームでは、ユーザーの死亡時にアカウントを閉鎖するか、プライバシー保護のためにアクセスを制限する方針をとっています。
  • 資産の評価と管理: デジタル遺産は、例えばビットコインのように価値が変動するものや、クラウド上のデータのように金銭的価値が測りにくいものも含まれます。これらの資産をどのように扱うか、またそれらの存在を証明するための手続きが必要になります。
  • 相続の法的問題: デジタル遺産の相続に関する法整備はまだ完全ではなく、相続法やプライバシー保護法との兼ね合いで、相続人が正当に管理できるかどうかがケースバイケースで変わることがあります。

3. 生前整理の重要性

 デジタル遺産に関して、遺族が混乱を避けるためには、生前からの整理が不可欠です。生前整理には、次のようなポイントを押さえることが重要です。

※以下の内容について、「エンディングリスト」に記載しておく必要があります。

  • アカウント情報のリスト化: 自身が利用している全てのオンラインアカウント、SNS、バンキング、メール、サブスクリプションなどのアカウント情報をリスト化しておくことが大切です。このリストには、各アカウントのIDやパスワード、連絡先などを含め、信頼できる人に保管してもらうことが望ましいです。
  • 遺言書への記載: デジタル遺産も遺産として扱う意志を遺言書に明記しておくと、相続の際にトラブルを回避しやすくなります。どのアカウントを誰に引き継ぐかなどを具体的に記載することが有効です。
  • デジタル遺産管理サービスの利用: 最近では、デジタル遺産の管理を専門に行うサービスも登場しています。こうしたサービスを利用することで、遺族に混乱を与えることなく、スムーズに遺産を引き継ぐことが可能です。

4. トラブルを避けるための対策

 デジタル遺産に関する相続トラブルを避けるためには、いくつかの具体的な対策が考えられます。

  • パスワード管理: パスワードマネージャーを活用し、すべてのパスワードを一元管理しておくことで、相続人がアクセスしやすくなります。また、信頼できる人にこれらの情報を生前に共有することも検討すべきです。
  • プラットフォームごとの対策: 一部のSNSやクラウドサービスでは、アカウントを死亡後にどう処理するか事前に設定できる機能があります。たとえば、Facebookでは「記念アカウント」として残すか、削除するかの選択が可能です。各サービスでこうしたオプションを利用しておくことも、トラブル防止に役立ちます。

5. 専門家への相談とサポートの活用

 デジタル遺産の相続に関しては、従来の遺産分割とは異なる点が多いため、相続に詳しい弁護士や司法書士などの専門家に相談することが推奨されます。

  • 法律のサポート: デジタル遺産に関する法的な問題や、相続税の評価についてのアドバイスを受けることで、適切な相続手続きを進めることが可能です。また、遺言書作成の際にデジタル遺産をどのように取り扱うかについても、専門家の助言が役立ちます。
  • 新しいサービスの活用: デジタル遺産に関する専門的な管理サービスやツールを利用することで、相続手続きの複雑さを軽減することができ、遺族にとっても負担が少なくなります。

結論

 デジタル遺産は、今後ますます重要性が高まると考えられ、相続においても無視できない課題です。遺族がスムーズにデジタル資産を引き継げるように、生前からの整理と準備が不可欠です。適切な対策を講じ、専門家のサポートを受けることで、デジタル時代にふさわしい相続手続きを行うことが可能です。

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