(論点)過去の相続の「応急措置法」って何?

2024年12月09日

日本国憲法の施行に伴う相続法の改正は、日本の法制度に大きな変革をもたらしました。この過渡期において、旧民法から新憲法に基づく新しい民法へと移行する際に、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急措置に関する法律」(以下、応急措置法)が制定されました。この法律は、1947年(昭和22年)5月3日の日本国憲法の施行に伴い、旧民法の相続規定を改正し、新憲法の理念に沿った相続制度を準備するための一時的な措置として施行されました。

目次

1. 応急措置法の背景と目的

2. 旧民法における相続制度とその問題点

3. 応急措置法による相続制度の主な変更点

4. 応急措置法の施行後の影響と新民法への移行

5. まとめ


1. 応急措置法の背景と目的

 応急措置法は、日本国憲法が掲げる新しい基本原則――特に平等の理念――に基づき、戦前の家父長制度に基づく相続法規を改正する必要がありました。旧民法のもとでは、家制度を中心とした家督相続が行われており、長男や戸主が家と財産を一括して相続する仕組みが取られていました。これは、家という単位が経済的・社会的に重要だった時代の制度ですが、日本国憲法では男女平等や個人の尊厳が重要な原則として採用されました。そのため、相続においても、家督相続ではなく、すべての相続人に対して平等な権利が与えられるべきとされました。

 しかし、新しい相続制度の整備には時間がかかるため、この間を埋めるために応急措置法が施行されました。この法律の目的は、新しい憲法の理念に反しないように、旧民法の規定を改正・調整しながら、新しい民法が整備されるまでの間、暫定的に相続制度を運用することでした。

2. 旧民法における相続制度とその問題点

旧民法(明治民法)は、特に家督相続を中心に構築されており、以下のような特徴がありました。

家督相続の優先:相続においては、家督相続人である長男や戸主が家財を一括して受け継ぎ、他の子供や親族の相続権は極めて制限されていました。

女性の相続権の制限:女性の相続権は著しく制限されており、特に未婚の娘や後妻などは、ほとんど相続の権利を持たないか、極めて限られた範囲に留まっていました。

家制度の優先:個人の財産権よりも家の存続が重視され、家名を守ることが最優先されていたため、財産が家督相続人一人に集中することが一般的でした。

これらの点が、新憲法のもとでの平等な権利や個人の尊厳を損なうものであったため、改正が求められたのです。

3. 応急措置法による相続制度の主な変更点

 応急措置法の施行により、旧民法の相続規定が一部修正され、新しい相続の枠組みが暫定的に導入されました。具体的な変更点は以下の通りです。

3.1 男女平等の相続権の確立

旧民法では、女性の相続権が極めて制限されていましたが、応急措置法では男女平等の原則が導入されました。これにより、男性だけでなく、女性も相続権を持つことが保証されました。これまで長男が優先されていた家督相続に代わり、子供たちが平等に相続することが可能となったのです。

3.2 家督相続の廃止

家制度を支えていた家督相続制度は応急措置法によって廃止されました。家督相続は、戸主(家長)が家の財産と地位をすべて受け継ぐ制度でしたが、これは家制度に基づくものであり、新憲法の理念に反するため、個別の財産を相続人間で分割する制度へと移行しました。

3.3 法定相続分の導入

応急措置法では、相続財産の分割について、法定相続分が明確に規定されました。これにより、相続人ごとの相続権が明確にされ、財産の公平な分配が図られるようになりました。具体的には、配偶者、子供、直系尊属、兄弟姉妹などの相続人がそれぞれ一定の相続分を持つことが定められました。

3.4 遺留分の保障

旧民法では、遺言による相続の自由が広く認められていましたが、応急措置法では、一定の相続人には最低限の相続分(遺留分)が保障されるようになりました。これにより、遺言で不当な分配が行われた場合でも、相続人が一定の財産を受け取る権利が守られました。

4. 応急措置法の施行後の影響と新民法への移行

 応急措置法は、新民法が整備されるまでの一時的な措置として施行されましたが、この法律により、相続に関する多くの問題が改善されました。特に、男女平等の相続権の確立や、家督相続の廃止は大きな進展であり、新憲法の理念に沿った法制度への移行をスムーズに行うための重要な役割を果たしました。

 その後、1947年に日本国憲法が施行され、翌1950年には改正された新しい民法(現行民法)が施行されました。新民法では、応急措置法で導入された原則が正式に定められ、相続においても完全な男女平等や個人の尊厳が保障されるようになりました。これにより、家制度から解放された現代の相続制度が確立され、相続人全員が平等に財産を分け合う仕組みが定着しました。

5. まとめ

 「日本国憲法の施行に伴う民法の応急措置に関する法律」は、新憲法の理念に基づいて旧民法の相続制度を一時的に修正し、新しい相続制度の基盤を築くために制定されました。この法律により、家督相続制度の廃止や男女平等の相続権が導入され、遺産相続における公平な分配が実現されました。応急措置法は、新民法が施行されるまでの重要な橋渡しの役割を果たし、現在の相続制度の基礎を築いた重要な法律として位置づけられます。

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