「10年後に遺言発見」最高裁は何を初判断したのか(令和6年3月19日)

2024年04月17日

法定相続人が不動産を相続して10年以上たった後、他にも相続人がいるとする遺言が見つかった場合、誰が不動産を所有できるのか?セミナーなどでよく質問がある論点です。これについて、先日、最高裁が初めて判断を示したみたいです。

目次

1.事件の概要(令和6年3月19日 日経新聞記事引用)

2.相続回復請求権とは

3.まとめ


1.事件の概要(令和6年3月19日 日経新聞記事引用)

法定相続人が不動産を相続して10年以上たった後、他にも相続人がいるとする遺言が見つかった場合、誰が不動産を所有できるのか――。こうした点が争われた訴訟の上告審判決が19日、最高裁第3小法廷(渡辺恵理子裁判長)であった。同小法廷は法定相続人による相続財産の取得は遺言によって妨げられないとする初判断を示した。

民法は、所有する意思を持ち善意・無過失で10年間、不動産などを占有した場合はその所有権を取得できるとする「時効取得」を定める。下級審では最近も「時効取得は成立しない」とする判断が出ていた。

 最高裁が時効取得の成立を認め、遺言に基づく相続権の主張では既にある登記を覆すことはできないとしたことで、同種の事案は今回の結論に沿って判断されるとみられる。

 判決などによると、原告の女性は2004年、養子縁組をしたおばの不動産を唯一の法定相続人として相続、登記した。

 ところが、10年以上過ぎた18年に遺言の存在が判明。裁判官が立ち会って開封する「検認」が行われたところ、女性や女性のいとこを含む3人に「遺産を等分する」と書かれていた。

 女性は既に時効取得が成立しており、いとこらに遺産の返還を求める権利はないとして19年に提訴した。

裁判でいとこ側が主張したのは、民法が規定する「相続回復請求権」と呼ばれる権利だ。本来、相続人でない人に相続権を侵害された場合、侵害を知ってから5年以内なら財産を取り戻すことができるとする。

 いとこ側は、侵害の事実を知ったのは検認を経て遺言の内容を把握した時点で、まだ5年が経過していないと強調。家督相続に関する訴訟を巡り、相続回復請求権を行使できる状態では時効取得は成立しないとした1932年の大審院(現在の最高裁)の判例などを根拠に、女性に対して不動産を返すよう求められると反論した。

 第3小法廷は、回復請求権に5年間などの期限が設けられた目的は「相続権の帰属や法律関係を早期、終局的に確定させること」にあると確認。行使できなくなるまで時効取得を認めないのは「趣旨に整合しない」とした。

 相続回復請求権が残っている状態でも時効取得は成立すると結論付け、女性側の請求を認めた二審・東京高裁判決を支持。いとこ側の上告を棄却した。

 いとこ側が言及した大審院の判例については「家督相続制度を前提とするものだ」として、今回の判断は「抵触しない」と述べた。

相続回復請求権が主張されるのは、遺言などによって自身に相続権があることを後から知るケースに限られる。ベテラン裁判官は「こうした場面はあまり想定されず、判決の影響は限定的だろう」とみている。」(記事引用終わり)

(原告 法定相続人の主張)

 時効取得が成立しており、いとこらに遺産の返還を求める権利はない。

(被告 いとこ側の主張)

 相続回復請求権を行使できる状態では時効取得は成立しないとした1932年の大審院(現在の最高裁)の判例などを根拠に、女性に対して不動産を返せ。

(最高裁の判断)

 いとこ側の上告を棄却。原告の主張を支持した。

※却下という のは「要件を備えていない不適法な訴えなどと して内容が審理(検討)される前に退けられるこ と」をいいます。これに対して内容が審理されたうえで訴えが 退けられることを「棄却(ききゃく)」といいます。

2.相続回復請求権とは

 「民法(相続回復請求権)

第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。」

3.まとめ

 今回は、法定相続した後に、遺言書が発見されたものですが、期間が取得時効の善意取得の期間である10年を超えていたため、原告が時効取得を主張し、それが最高裁判所に認められたという内容でした。それでは、取得時効の善意取得できる期間である10年を下回った場合、どうなるのか?現状では、まだ判断は出ていませんので何とも言えません。

 しかし、今回取り上げた内容は、完全に争いが生じておりました。裁判では、途中、和解を勧められますが、最高裁まで争ったところを見ると相当揉めていたことがうかがえます。

 遺言書を作成された方は、ご家族に内容は伝えないまでも、その「想い」を確実に伝達できるように、その保管場所を伝えておきましょう。

 アイリスでは、相続関連(相続登記だけでなくその生前対策も)の無料相談を随時受け付けております。いろいろとお話を聞くために、あえて時間設定は設けておりません。ただし、予約優先となりますので、必ず事前にお電話で予約をしてください。手続きが発生するまでは、相談の費用は掛かりません。(登記の方法を教えてほしい等、ノウハウを相談事項とする方は、ご遠慮ください)

 また、別事務所で「相続法律・税務無料相談会」を月1で実施しております。こちらは完全予約制になっておりますので、必ず事前に電話で予約状況を確認の上、予約を確定してください。

最新のブログ記事

令和7年2月12日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

遺産分割は、被相続人が遺した財産を相続人間で分配する過程であり、これを適切に行わなければトラブルや紛争の原因となる可能性があります。遺産分割手続きを進めるためには、まず「相続人の範囲」と「遺産の範囲」を特定することが前提となりますが、それが完了した後、次に進むべきは「遺産分割手続き」です。この手続きは、遺言書の有無やその有効性により異なってきます。

遺産の調査を行う際、特に不動産についての調査は重要です。不動産は高額な財産であり、相続手続きや分割の際に正確な把握が求められるからです。被相続人が所有していた不動産を正確に特定するには、固定資産税納税通知書や固定資産税評価証明書などの書類を使用して調査を進める必要がありますが、これらの書類だけでは不十分な場合もあります。今回は、現行の不動産調査の方法と、2026年2月に施行予定の「所有不動産記録証明制度」について解説します。

生命保険金は、相続が発生した際に、被相続人が契約者として加入していた生命保険契約に基づいて受取人に支払われるものです。この生命保険金が相続財産に含まれるかどうかについては、法律上および税法上で異なる扱いがされており、その理解が重要です。今回、法律上の観点から、生命保険金が相続財産に含まれない理由と、税法上「みなし相続財産」として扱われるケースについて解説します。

<