相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
【第5回】(最終回) 共有者の一人が死亡していたら抹消できる? 法務局で取扱いが分かれる実務の現実

抵当権抹消登記は、一見すると単純な手続きに見えます。
住宅ローンを完済し、金融機関から書類を受け取り、登記申請をすれば終わり。
多くの方は、そのようなイメージを持っています。
しかし実務では、
「共有者の一人がすでに亡くなっている」
というケースに直面することがあります。
この場合、
「残っている共有者だけで抵当権抹消はできるのか」
という問題が生じます。
実はこの点について、
法務局ごとに取扱いが分かれる可能性がある
という、実務上の難しさがあります。
最終回では、この核心部分を整理し、
現実的で安全な対応策をまとめていきます。
目次
- 所有者A・Bの共有という前提
- 抵当権抹消は保存行為という原則
- 共有者Bが死亡していた場合の問題
- 名古屋法務局の取扱い(抹消可能とする見解)
- 一部法務局の取扱い(相続登記を先行すべき)
- 法務局ごとの運用差の可能性
- 実務上の安全な対応
- シリーズ全体のまとめ
1.所有者A・Bの共有という前提

まず、典型的な事例を整理します。
- 不動産の所有者:A・Bの共有
- 抵当権設定:A・Bの持分全体に設定
- ローン完済後
- Bがすでに死亡している
この状態で、
Aが抵当権抹消登記をしようとした場合、
手続きはどのようになるのでしょうか。
2.抵当権抹消は保存行為という原則

民法上、共有物に関する行為は、
- 保存行為
- 管理行為
- 変更行為
に分類されます。
このうち、抵当権抹消は保存行為と解されています。
保存行為とは、
「共有物を維持するための行為」であり、
各共有者が単独で行うことができる
とされています。
したがって原則論としては、
- 所有者A・Bの共有であっても
- A単独で抵当権抹消登記は可能
という結論になります。
3.共有者Bが死亡していた場合の問題

ところが、ここに一つ問題が生じます。
共有者Bが死亡している場合、
- 登記簿上の所有者:A・B
- 実際の権利者:AとBの相続人
という状態になります。
つまり、
登記簿と現実の権利関係が一致していない状態
です。
この状態で、
「Aだけで抵当権抹消をしてよいのか」
という点について、
法務局の運用が分かれることがあります。
4.名古屋法務局の取扱い(抹消可能とする見解)
名古屋法務局と司法書士会の質疑応答では、
次のような趣旨の取扱いが示されています。
- 抵当権抹消は保存行為である
- 共有者の一人が
- 死亡していても
- 住所変更していても
- 抵当権抹消の結果には影響しない
したがって、
申請に参加しない共有者に事情があっても、
他の共有者単独で抵当権抹消は可能
という考え方です。
この見解に立てば、
Bが死亡していても、
Aと金融機関だけで抵当権抹消登記ができる
という結論になります。
5.一部法務局の取扱い(相続登記を先行すべき)
一方で、別の取扱いをしている法務局もあります。
その根拠となる考え方は、次のとおりです。
- 所有者が死亡している
- しかし相続登記が未了である
- しかも抵当権抹消の原因日が
- 相続発生後である場合
この場合、
担保抹消の前提として
所有権の相続登記を先に行うべき
とする運用です。
この見解に立つと、
- 共有者Bが死亡している場合
- Bの相続登記を行わない限り
- A単独では抵当権抹消ができない
という結論になります。
6.法務局ごとの運用差の可能性

ここまで見てきたように、
- 抹消可能とする見解
- 相続登記を先行すべきとする見解
という、二つの運用が存在する可能性があります。
つまり、同じ事案であっても、
- 管轄法務局によって
- 受理される場合と
- 補正や却下になる場合
があり得るということです。
これは実務上、非常に重要なポイントです。
7.実務上の安全な対応

このように取扱いが分かれる可能性がある以上、
実務では次のような対応が安全です。
① 管轄法務局へ事前照会をする
- 共有者の一人が死亡している
- 相続登記未了
- この状態で抹消可能か
を事前に確認します。
② 原則として相続登記を先に行う
運用差によるリスクを避けるためには、
- Bの相続登記
- その後に抵当権抹消
という順序で進める方が、
確実でトラブルも少なくなります。
8.シリーズ全体のまとめ
今回のシリーズでは、
- 抵当権抹消の基本構造
- 金融機関の商号変更や組織変更
- 所有者が死亡している場合
- 共有者の一人が死亡している場合
といった、
実務でよく直面する論点を整理してきました。
そして、最終的に見えてくる結論は
とてもシンプルです。
現実的には、相続登記はすでに義務化されています。
抵当権抹消の前後にかかわらず、いずれは行わなければならない手続きです。
であれば、最初から
「相続登記をしてから抵当権抹消をする」
という順序で進めた方が、結果的に安全で確実です。
たかが抵当権抹消登記。
されど抵当権抹消登記。
実務経験を積むごとに、その奥深さを感じる手続きの一つです。
このシリーズが、日々の実務の整理や、
依頼者への説明の一助になれば幸いです。

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