【第5回】(最終回) 共有者の一人が死亡していたら抹消できる? 法務局で取扱いが分かれる実務の現実

2026年04月17日

抵当権抹消登記は、一見すると単純な手続きに見えます。
住宅ローンを完済し、金融機関から書類を受け取り、登記申請をすれば終わり。
多くの方は、そのようなイメージを持っています。

しかし実務では、
「共有者の一人がすでに亡くなっている」
というケースに直面することがあります。

この場合、
「残っている共有者だけで抵当権抹消はできるのか」
という問題が生じます。

実はこの点について、
法務局ごとに取扱いが分かれる可能性がある
という、実務上の難しさがあります。

最終回では、この核心部分を整理し、
現実的で安全な対応策をまとめていきます。

目次

  1. 所有者A・Bの共有という前提
  2. 抵当権抹消は保存行為という原則
  3. 共有者Bが死亡していた場合の問題
  4. 名古屋法務局の取扱い(抹消可能とする見解)
  5. 一部法務局の取扱い(相続登記を先行すべき)
  6. 法務局ごとの運用差の可能性
  7. 実務上の安全な対応
  8. シリーズ全体のまとめ

1.所有者A・Bの共有という前提

まず、典型的な事例を整理します。

  • 不動産の所有者:A・Bの共有
  • 抵当権設定:A・Bの持分全体に設定
  • ローン完済後
  • Bがすでに死亡している

この状態で、
Aが抵当権抹消登記をしようとした場合、
手続きはどのようになるのでしょうか。

2.抵当権抹消は保存行為という原則

民法上、共有物に関する行為は、

  • 保存行為
  • 管理行為
  • 変更行為

に分類されます。

このうち、抵当権抹消は保存行為と解されています。

保存行為とは、
「共有物を維持するための行為」であり、
各共有者が単独で行うことができる
とされています。

したがって原則論としては、

  • 所有者A・Bの共有であっても
  • A単独で抵当権抹消登記は可能

という結論になります。

3.共有者Bが死亡していた場合の問題

ところが、ここに一つ問題が生じます。

共有者Bが死亡している場合、

  • 登記簿上の所有者:A・B
  • 実際の権利者:AとBの相続人

という状態になります。

つまり、
登記簿と現実の権利関係が一致していない状態
です。

この状態で、

「Aだけで抵当権抹消をしてよいのか」

という点について、
法務局の運用が分かれることがあります。

4.名古屋法務局の取扱い(抹消可能とする見解)

名古屋法務局と司法書士会の質疑応答では、
次のような趣旨の取扱いが示されています。

  • 抵当権抹消は保存行為である
  • 共有者の一人が
    • 死亡していても
    • 住所変更していても
  • 抵当権抹消の結果には影響しない

したがって、

申請に参加しない共有者に事情があっても、
他の共有者単独で抵当権抹消は可能

という考え方です。

この見解に立てば、
Bが死亡していても、
Aと金融機関だけで抵当権抹消登記ができる
という結論になります。

5.一部法務局の取扱い(相続登記を先行すべき)

一方で、別の取扱いをしている法務局もあります。

その根拠となる考え方は、次のとおりです。

  • 所有者が死亡している
  • しかし相続登記が未了である
  • しかも抵当権抹消の原因日が
    • 相続発生後である場合

この場合、

担保抹消の前提として
所有権の相続登記を先に行うべき

とする運用です。

この見解に立つと、

  • 共有者Bが死亡している場合
  • Bの相続登記を行わない限り
  • A単独では抵当権抹消ができない

という結論になります。

6.法務局ごとの運用差の可能性

ここまで見てきたように、

  • 抹消可能とする見解
  • 相続登記を先行すべきとする見解

という、二つの運用が存在する可能性があります。

つまり、同じ事案であっても、

  • 管轄法務局によって
  • 受理される場合と
  • 補正や却下になる場合

があり得るということです。

これは実務上、非常に重要なポイントです。

7.実務上の安全な対応

このように取扱いが分かれる可能性がある以上、
実務では次のような対応が安全です。

管轄法務局へ事前照会をする

  • 共有者の一人が死亡している
  • 相続登記未了
  • この状態で抹消可能か

を事前に確認します。

原則として相続登記を先に行う
運用差によるリスクを避けるためには、

  • Bの相続登記
  • その後に抵当権抹消

という順序で進める方が、
確実でトラブルも少なくなります。

8.シリーズ全体のまとめ

今回のシリーズでは、

  • 抵当権抹消の基本構造
  • 金融機関の商号変更や組織変更
  • 所有者が死亡している場合
  • 共有者の一人が死亡している場合

といった、
実務でよく直面する論点を整理してきました。

そして、最終的に見えてくる結論は
とてもシンプルです。

現実的には、相続登記はすでに義務化されています。
抵当権抹消の前後にかかわらず、いずれは行わなければならない手続きです。

であれば、最初から
「相続登記をしてから抵当権抹消をする」
という順序で進めた方が、結果的に安全で確実です。

たかが抵当権抹消登記。
されど抵当権抹消登記。

実務経験を積むごとに、その奥深さを感じる手続きの一つです。

このシリーズが、日々の実務の整理や、
依頼者への説明の一助になれば幸いです。

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