相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
【第4回】所有者が亡くなっていたら? 相続登記が必要になる抵当権抹消の基本ルール

住宅ローンを完済したあと、多くの方が「これで不動産の手続きは終わり」と考えます。
しかし、実務の現場ではそう単純にはいかないケースが少なくありません。
特に問題となるのが、抵当権抹消の前に所有者が亡くなっている場合です。
この場合、
「ローンは完済しているのだから、そのまま抵当権を消せばよいのでは?」
と考えがちですが、登記の世界ではそうはいきません。
所有者が亡くなっている場合、原則として
相続登記を先に行う必要があります。
第4回では、単独所有のケースを中心に、
抵当権抹消と相続登記の関係について、基本ルールを整理していきます。
目次
- 抵当権抹消の当事者関係をもう一度確認
- 登記権利者が死亡している場合の扱い
- 単独所有のケースの基本的な流れ
- なぜ先に相続登記が必要なのか
- 相続登記義務化との関係
- 読者への気づき
1.抵当権抹消の当事者関係をもう一度確認

まず、抵当権抹消登記の基本構造を確認しておきましょう。
抵当権抹消登記では、
- 登記義務者:金融機関(抵当権者)
- 登記権利者:不動産の所有者
という関係になります。
つまり、
金融機関が「抵当権を消します」と同意し、
所有者が「その登記を受けます」と申請する
という構造になっています。
この「所有者」が誰なのか、という点が非常に重要です。
2.登記権利者が死亡している場合の扱い

では、登記権利者である所有者が、すでに亡くなっていた場合はどうなるのでしょうか。
たとえば、
- 所有者A(単独所有)
- 抵当権付き不動産
- ローン完済後にAが死亡
というケースです。
この場合、登記簿上の所有者は依然としてAのままですが、
現実にはAは亡くなっており、法律上の権利は相続人に移転しています。
つまり、
登記簿上の所有者と、実際の権利者が一致していない状態
になっているのです。
登記は、この「現実の権利関係」を反映させる制度です。
そのため、まず行うべきは、
Aから相続人への所有権移転(相続登記)
ということになります。
3.単独所有のケースの基本的な流れ

単独所有者が亡くなっている場合、手続きの基本的な順序は次のとおりです。
① 相続登記
A → 相続人(Bなど)
② 抵当権抹消登記
金融機関 → 新所有者B
この順序が、実務上の原則です。
もし相続登記をせずに、
亡くなったAの名義のままで抵当権抹消をしようとすると、
- 登記権利者が死亡している
- 本人の意思確認ができない
- 代理関係も成立しない
という問題が生じます。
そのため、原則として
相続登記を先に行う必要がある
という結論になります。
4.なぜ先に相続登記が必要なのか
ここで、「なぜ順序にこだわるのか」という疑問が出てきます。
理由は大きく分けて2つあります。
(1)登記の当事者が存在しないから
抵当権抹消登記では、所有者が登記権利者になります。
しかし、その所有者がすでに死亡している場合、
- 登記権利者本人が存在しない
- 委任状も取得できない
という状態になります。
つまり、
登記申請の当事者が成立しない
という根本的な問題があるのです。
(2)登記の連続性が保たれないから
登記制度では、権利の移転は順序どおりに行う必要があります。
本来の権利の流れは、
A(死亡)
↓
相続人B
↓
Bが抵当権のない完全な所有者になる
という順序です。
ところが、相続登記を省略すると、
A(すでに死亡)
↓
抵当権だけ消える
という不自然な登記の流れになります。
このような状態は、登記制度の原則に反するため、
相続登記を先に行う必要があるのです。
5.相続登記義務化との関係

さらに重要なのが、
相続登記の義務化制度です。
2024年4月から、相続によって不動産を取得した場合、
- 相続を知った日から3年以内に
- 相続登記を申請する義務
が課されています。
これに違反すると、
過料(行政罰)の対象になる可能性もあります。
つまり、
- 抵当権抹消のために相続登記が必要
- そもそも相続登記自体が義務化されている
という二重の意味で、
相続登記は避けて通れない手続きになっているのです。
6.読者への気づき
今回のポイントをまとめると、次のようになります。
- 抵当権抹消の登記権利者は所有者
- その所有者が死亡している場合
- 先に相続登記が必要になる
つまり、
「ローンを完済しただけでは終わらない」
ということです。
完済後も、
- 抵当権抹消
- 相続登記
- 名義の整理
といった手続きをきちんと行っておかないと、
将来の売却や相続の際に大きな負担となってしまいます。
次回は、
共有者の一人が亡くなっていた場合という、
さらに実務で悩ましいケースについて解説していきます。

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