一件一申請情報主義の原則とその例外について

2024年02月22日

連件申請に規定がないことはすでに述べましたが、登記には「一申請情報申請」「同時申請」「連件申請」というものが存在しています。一つの申請に複数の申請をする場合などの例外的な扱いの要件について解説したいと思います。

目次

1.一件一申請情報主義と位置情報申請の例外

2.一申請情報申請の要件

3.一申請情報申請の可否

 3-1.一つの申請情報によって申請することができる場合

 3-2.一申請情報申請が法定されている場合

 3-3.一つの申請情報によって申請ができない場合

4.まとめ


1.一件一申請情報主義と位置情報申請の例外

 一つの申請で複数の申請を登記申請する場合として「一申請情報申請」「同時申請」「連件申請」があります。

 ①一申請情報申請

  同一登記所管轄区域内の数個の不動産につき同一の申請情報で登記申請することが認められるもの。同一の申請書に複数の登記申請情報が記載できるものをいいます。

 ➁同時申請

  同一の不動産に関して同時に数件の登記申請がされ、同一の受付番号が記載されるもの。申請書は別になりますが、同じ申請で複数の申請を同一順位で登記されるものです。

 ③連件申請

  連続して数件の登記申請がされ、連続した受付番号が付されるもの。別々の申請書を一つの申請でおこなうものです。

 一件一申請情報主義の原則とは、登記の申請は、1個の不動産ごとに、格別の申請情報を作成すべきであるという原則をいいます。しかし、申請人の負担軽減と登記事務の迅速処理のため、一定の場合に一の申請の申請情報によって申請することが認められています。

「不動産登記令4条(申請情報の作成及び提供)

申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。」とあります。

 しかし、この規定は「一申請情報申請」(一つの申請書に一つの申請情報)について述べています。

2.一申請情報申請の要件

 登記の一申請情報申請をするには、原則として次の要件を充たさなければなりません。

 (一申請情報申請の要件)

 ①管轄登記所が同一であること

 ➁登記の目的が同一であること

 ③登記原因及びその日付が同一であること

 ④申請人が同一であること

3.一申請情報申請の可否

 一の申請情報によって申請ができる場合、できない場合、そして一申請情報申請が法定されているケースについて、具体例を例示します。

 3-1.一つの申請情報によって申請することができる場合

  ①共同(根)抵当権の設定・変更、更正、抹消(昭39.3.7民甲588号)

   (所有者を異にする場合も同様に一つの申請情報で可能です)(明32.6.29民刑1191号)(昭41.4.21民甲1119号)(昭42.3.12民甲305号)

  ➁共有者AB(別住所)が、同一の住所に変更する場合(登研575号)

  ③仮登記及びこれに基づく本登記を解除を原因として、その抹消登記を申請する場合

  (登記の目的:〇番所有権本登記及び仮登記抹消 となります)(昭36.5.8民甲1053号)

  ④A所有の土地すべてをBに売却。その中に権利証がなく事前通知による申請をする場合(昭37.4.19民甲1173号)

などが挙げられます。

 3-2.一申請情報申請が法定されている場合

  ①信託による不動産の所有権移転の登記と信託の登記(不動産登記令5条2項)

  ➁受託者が信託財産である不動産を処分・受託者の固有財産・信託終了などした場合の所有権移転登記と信託登記の抹消登記(不動産登記令5条3項、不動産登記法104条1項)

  ③公売処分による登記の嘱託(不動産登記法115条)

  ④民事執行法の強制競売による売却、又は担保権の実行による売却に基づく所有権移転と、それに付随する各種の抹消登記の嘱託(民事執行法82条1項)

  ➄民事保全法の処分禁止の仮処分の登記と、保全借り登記の嘱託(民事保全法53条2項)

  ※法定のものについては、「信託登記」と「裁判所の嘱託登記」であることが分かります。

 3-3.一つの申請情報によって申請ができない場合

  ①所有者が異なる数個の不動産を、同時に取得した場合(明33.8.21民刑1176号)

  ➁未登記不動産及び既登記不動産を同一の登記原因(売買、贈与など)により取得した場合(明33.12.28民刑2044号)

  ③単有名義から共有名義への所有権移転登記と、当該共有者間で定めた共有物分割禁止の定めがされた場合の共有物分割禁止の定めの登記を申請する場合(昭49.12.27民三6686号)

  ④根抵当権の相続による債務者の変更登記と指定債務者の合意の登記

 などが挙げられます。

4.まとめ

 今回は、一申請情報申請について解説してきました。それでは、他の「同時申請」や「連件申請」についてはどうなのかと言いますと、「同時申請」については、登記の順位番号を同一にしてほしいというものですが、登記簿中の甲区の所有権ではありえず、乙区の担保権(抵当権など)で、使われる場合が多いです。この場合の表記は、「1番(あ)抵当権、一番(い)抵当権」と記載されます。

 そして、「連件申請」ですが、その中身は別々の登記であり、受付番号も申請順に割り当てられますので、一申請情報申請とは異なります。別々に登記することもできるのですが、便宜1つの申請で行うものです。しかし、連件申請には、明確な規定がありません。不動産売買の決済などでは、「①名義変更」「➁担保権抹消」「③所有権移転」「④担保権設定」の順序で連件申請をします。なぜなら、④担保権設定には、金融機関の融資が新しい所有者になされており、登記申請後に発行される受付番号を迅速に知らせなければならないためです。

 このように実務上、連件で行う必要の者もあれば、数次相続で祖父の土地と父親の建物を子が相続する場合、連件でなくてもいいのですが、添付する書類に共通する資料が多い場合には連件で申請することもできます。

 ただし、全く性質の異なる複数の登記申請を連件申請した場合、一方を却下される場合もありますので、注意が必要です。

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