宗教法人からの不動産の譲渡について

2023年03月17日

宗教法人の財産に含まれる不動産を譲渡する場合には、どのような手続きが必要なのかについて解説をしております。

目次

1.宗教法人が不動産を譲渡する場合

2.宗教法人が不動産を処分する場合に必要な手続き

3.3つのルールを守らなかった場合どうなるのか

4.24条但し書きの善意の相手方又は第三者って誰?

5.財産の種類を見分ける方法

6.手続きの流れ

7.登記に必要な添付書類

8.司法書士報酬について


1.宗教法人が不動産を譲渡する場合

 宗教法人が不動産を譲渡する際には、一般の個人や株式会社などの法人が売主になる場合とは異なる規制が及びます。

 「宗教法人法」や「宗教法人の規則」が定めるルールに従わないと、売買契約が無効になってしまう恐れもあるので注意が必要となります。

 今回は宗教法人が不動産を譲渡するときの注意点(宗教法人法による規制内容)や譲渡の流れを解説いたします。

 ※譲渡とは、「売買」「贈与」のことを意味します。

2.宗教法人が不動産を処分する場合に必要な手続き

 宗教法人が不動産の「処分」を行うとき、以下の手続きを踏まねばならないと規定されています。

 ①規則または責任役員決議による承認

  当該宗教法人の規則において不動産処分に関する手続き方法が定められていれば、その手続きにしたがって売却を決定する必要があります。規則に特段の定めがない場合には、「責任役員の過半数による決議」で不動産処分を承認しなければなりません。

 ➁財産処分等の公告

「(財産処分等の公告)

第二十三条 宗教法人(宗教団体を包括する宗教法人を除く。)は、左に掲げる行為をしようとするときは、規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第十九条の規定)による外、その行為の少くとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。但し、第三号から第五号までに掲げる行為が緊急の必要に基くものであり、又は軽微のものである場合及び第五号に掲げる行為が一時の期間に係るものである場合は、この限りでない。

一 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること。

二 借入(当該会計年度内の収入で償還する一時の借入を除く。)又は保証をすること。

三 主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除却又は著しい模様替をすること。

四 境内地の著しい模様替をすること。

五 主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し、又はこれらを当該宗教法人の第二条に規定する目的以外の目的のために供すること。」

 つまり、少なくとも当該譲渡行為をする1か月前に信者や利害関係者に対して公告をしなければなりません。

 ③代表役員が契約を締結すること

  宗教法人が不動産を処分するには、責任役員の中から「代表役員」を定めなければなりません。その代表役員が買主との間で譲渡契約を締結します。

 宗教法人の所有する不動産の処分には、「役員決議による承認」「公告」「代表役員との契約」の3つのルールを守る必要があります。

 今回ご相談があった案件は、すでに代表者との契約と公告は済まされていました。話の限りでは、承認決議もあったみたいでしたので、登記の準備にかかりました。

 「責任役員決議を行わなかった」「売却の1ヶ月以上前に信者や利害関係者に公告をしなかった」「代表役員ではない人が売買契約書に署名押印

3.3つのルールを守らなかった場合どうなるのか

した」場合はどのようになるのでしょうか。

 「(行為の無効)

第二十四条 宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について、前条(23条)の規定に違反してした行為は、無効とする。但し、善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない。」

 つまり、基本的に無効なります

 また、宗教法人代表者には10万円以下の過料が科されます。

 「第八十八条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、宗教法人の代表役員、その代務者、仮代表役員又は清算人は、十万円以下の過料に処する

    省略

三 第二十三条の規定に違反して同条の規定による公告をしないで同条各号に掲げる行為をしたとき。

    省略」

4.24条但し書きの善意の相手方又は第三者って誰?

 「取引の相手が宗教法人の内部事情について知らないケース」「買主から事情を知らない第三者が不動産を買い受けるケース」も考えられます。こうした「宗教法人法が守られていないことを知らない相手方や第三者」は保護されるべきです。宗教法人法の規定に従わなかったことを知らない取引相手や第三者に対しては、契約の無効を主張できません。

 しかし、取引相手や第三者に重過失がある場合には保護の必要性が低いので、契約の無効を主張できると理解されています

5.財産の種類を見分ける方法

 5-1.宗教法人から「財産目録」の提出を受けます。

  宗教法人はその事務所に「常に」財産目録を備えなければならない(第25条2項)とされており、信者その他の利害関係人であって、閲覧に正当な利益があり、かつ、閲覧請求が不当目的でないと認められる者から請求があったときは、これを閲覧させなければならない(第25条3項)となっています。

 5-2.今回処分対象となっている財産が「境内建物」「境内地」「宝物」として登録されていないかチェックします。

  財産目録内の境内地・境内建物と記載されている場合には、手続違反が一切ないように注意が必要です。(先に解説した通り罰則規定が適用されるため)

宗教法人・財産目録様式例(文化庁・宗教法人運営のガイドブックより)

6.手続きの流れ

 ⓪司法書士へのご相談

  手続きについて解らない関係者の方は、司法書士に相談することをお勧めいたします。

 ①法人登記情報の確認

  ※宗教法人23条の不動産は、境内及び境外に適用されます。

   また、不動産は、所有権だけでなく地上権、借地権、鉱業権等を含むものと解されています。(登記先例546・56)

 ➁宗派の代表役員の承認(法人登記情報から規則で定めているため)

  ※規則に定めていない場合、又は別の規定がある場合は、「責任役員の承認決議」が必要です。

 ③事務所掲示場の公告開始

  ここから10日間の定めがあるので規則に従います。

 ④宗教法人法第23条の据置期間開始から1か月経過後

  譲渡契約締結ができるようになります。

  この契約の内容について下記特約を定めておく必要があります。

  ④―1.宗教法人法及び内規(規則)に定められた手続の完了をもって契約の効力が発生する旨(停止条件付

  ④―2.条件が整わなければ白紙解約とする旨

  ④―3.(売買契約の場合には)条件成就後に売買代金が支払われた時期が所有権移転時期となること※贈与の場合には不要。

7.登記に必要な添付書類

 ①登記原因照明情報:司法書士が作成し、署名、押印を行っていただきます。

 ➁権利証:宗教法人が保管している権利証又は登記識別情報

 ③印鑑証明書:法人代表の印鑑証明書(作成後3か月以内のもの)となります。

        会社法人等番号の提供で省略が可能です。

 ④住所証明書:譲渡を受ける方の住民票の写しとなります。

 ➄代理権限証明情報:宗教法人代表者と譲受人双方の委任状となります。

        宗教法人代表者の委任状には、届出印での押印が必要です。

8.司法書士報酬について

 宗教法人から譲渡を受ける手続きに関する司法書士報酬につきまして、司法書士主導で行うケースと、宗教法人様主導で行うケースと、司法書士報酬が異なります。

 通常の所有権移転登記の報酬に加算して以下の金額が加算されます。

 ①宗教法人様主導(書類等の作成、取得を行っていただける)

  10万円(税抜)~

 ➁司法書士主導(司法書士で登記簿、財産、手続等の確認、書類作成を行う)

  20万円(税抜)~

となっております。

※上記には、法令違反にならないための確認作業を含めた費用も含まれます。

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