株式譲渡の手続きについて

2023年02月24日

株式譲渡によるM&Aの場合、株主総会で譲渡の承認を取り付ける必要があります。総会があれば議事録が作成されるところまではわかっても、どんな目的で使われるのか、書式に決まりはあるのかなどわかりにくいところです。これらの点を解説いたします。

目次

1.株式譲渡の議事録とは?

2.株式譲渡の承認で議事録が必要となるケース

3.株主譲渡の承認手続きの流れ

4.株式譲渡の議事録作成時の注意点

1.株式譲渡の議事録とは?

  株式の譲渡には株主総会や取締役会の議決が必要で、その事実を証明するのがそれぞれの議事録です。つまり議事録は、株式譲渡の成否を握る重要な文書です。

  株式譲渡の際、一般に株式に譲渡制限が設けられています。(登記簿又は定款から確認できます)企業にとって好ましくない相手にみだりに株式が譲渡されないようにする仕組みですが、この制限を解除しないと株式の譲渡ができません。

 取締役会を設置する会社では原則的に取締役会の承認が、そうでない場合は株主総会での承認が必要です。これらの議事録には協議での決定事項、出席者、議事経過などが記され、承認を得た重要な証拠として作成が必要になります。

2.株式譲渡の承認で議事録が必要となるケース

  株式譲渡に際して株主総会や取締役会での承認が必要で、その事実を証明するものとして議事録を作成するわけですが、実際に使用する場面はあるのでしょうか?主に4つの場面がありますので解説します。

 ①株式譲渡契約書

  株式譲渡のM&Aにおいて、最終的な契約書となるのが株式譲渡契約書です。契約書には、株式の譲渡が完了するまでに必要な売り手、買い手双方の義務などが明記されます。譲渡制限株式の譲渡をする場合、契約書に承認決議が必要なことが盛り込まれます。そして決議が得られたことの証拠書類として、議事録の作成も義務付けられるわけです。

 ➁登記にかかわる添付資料

  株式譲渡にかかわる株主総会後、株式会社としての登記事項に変更が生じた旨を登記しなければなりません。変更が生じた(つまり株式譲渡が完了した)ときから2週間以内に法務局に登記します。

その際に提出する株式会社変更登記申請書に、株主名簿と合わせて株主総会の議事録の提出が求められます。もしも申請内容と議事録の間に齟齬があれば正しく登記できない可能性があります。ここでもきちんとした議事録の作成が必要になるわけです。

 ③裁判の際の証拠書類

  株式譲渡が株主総会や取締役会で承認されず、会社や指定買取人による協議も不調となった場合、裁判所で買取価額を決定する必要が生じます。このとき譲渡承認の請求者、または会社が株式譲渡価格決定の申立書をもって申請するのですが、添付資料として議事録が求められます。

また株式譲渡後などにM&Aの当事者間で株主総会などでの決議に関して裁判が起こされた場合、決議の証拠書類として議事録の提出が求められるでしょう。こうした裁判の証拠として提出する場合、議事録がなかったり不備があったりすれば、作成責任者の立場がかなり不利になるのは避けられません。

  ④議事録の閲覧謄写

   議事録はその保管期限が定められています。株主総会議事録は本店で10年、支店で5年、取締役会議事録は本店のみ5年間据え置くこととされています。

株主総会の議事録は株主からの請求があれば必ず閲覧や謄写に応じなければなりません。正当な理由なくこれを拒否すれば代表取締役は100万円以下の過料の処分を受けます。(取締役会議事録については機密事項が含まれるので裁判所の許可が必要な場合もあります)

これは株主の議決権、単独株主権、少数株主権などの権利を保障するもので、株式譲渡の議事録に関しても当然同様の求めに応じる準備が必要です。

3.株主譲渡の承認手続きの流れ

 譲渡制限のある株式を譲渡する場合に株主総会や取締役会の議事録が必要なのは、承認が必要だからです。では株式譲渡の承認手続きはどのように進められるのでしょうか?

①承認の請求

譲渡したい株式に譲渡制限があるかどうかは登記簿謄本(履歴事項全部証明書)で確認できます。譲渡制限株式である場合、取締役会設置会社なら原則的に取締役会の、それ以外は株主総会での譲渡承認が必要ですので、株式を取引したい当事者が当該企業に対して株式譲渡承認請求書を提出します。

➁承認決議

請求書の提出後、受領した企業は原則的には請求された株主総会や取締役会を開かねばなりません。このことは、株主に対して請求書提出から2週間以内に通知する必要があります。通知を怠ると、企業は譲渡を承認したものと見なされます。

株主総会での譲渡承認は、一般に株主の議決権の過半数を定足数とし、出席株主の過半数の議決権を獲得することで決議されます。取締役会の場合は、取締役の過半数の出席、出席者の過半数の賛成で決議されます。いずれも企業の定款で特に定めがある場合は、それに従う必要があります。

③議決内容の通知(譲渡契約の実行)

株主総会、または取締役会の承認を得たら、2週間以内に承認請求を提出した取引当事者に通知します。通知を受けた取引当事者は、株式譲渡契約を実行することになります。

不承認の場合は、株式の譲渡人は当該企業または指定買取人による株式の買取を請求します。企業で買い取る場合、買取対象とする株式数を株主総会で決定します。定款に特に定めがない場合は特別決議となり、株主の議決権の過半数を定足数とし、出席株主の2/3以上の賛成をもって決議されます。

④株主名簿の書き換え

株式譲渡契約が実行されても、その契約は譲渡人と譲受人の間だけでのみ有効です。両譲渡当事者は、共同で企業に対する株主名簿書換請求を行います。この請求に企業が応じて、名簿の書き換えが終了して初めて譲受人が株主としての権利を行使できるようになります。

もしも株主名簿の書き換えを行わなかった場合は、企業は譲受人を株主と認める義務は生じません。最悪の場合、株式だけは手に入っても会社の経営権は手に入らない可能性もあるので、注意しなければなりません。

4.株式譲渡の議事録作成時の注意点

  株主総会の議事録は、株式譲渡の場合に限らず、会社としての意思決定の重要な証拠となる文書ですから、くれぐれも慎重に作成する必要があります。

まず、株主総会の開催日の記載には要注意です。これを間違っただけで虚偽記載を疑われ、議事録としての客観性が失われかねないからです。時間、場所を含めて正確に記載しなければなりません。

当たり前ですが、記載内容に実際の議事との齟齬がないか不備のないようによく確認しなければなりません。万一訴訟などになった場合、事実と違う内容が記載されていたとしても議事録の内容の方が証拠として採用されかねません。

会社法では株主総会議事録に署名、押印の義務はありません。しかし多くの会社の定款では「株主総会議事録作成と印鑑を押す人」として条項を設け、議長や出席取締役、議事録作成者の押印を求めているケースがよく見られます。この場合、押印がなければ議事録は正当性を持って成立しなくなります。

また会社法では、株主総会の議事録の作成者として取締役があたることとされています。定款で議事録作成者の署名、捺印が求められている場合、これを取締役が行わないと意味を成さないことになるので注意が必要です。

株主総会後、登記は2週間以内と定められています。登記申請には株主総会議事録の添付が求められますから。議事録の作成は速やかに行わなければなりません。

そして株主総会議事録は本店で10年、支店で5年保管し、閲覧、謄写に応じなければなりません。誤って期間を満たさずに廃棄してしまったり、支店に写しを送ることを忘れたりすると法令違反を問われますので、この点も注意が求められます。

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