根抵当権における債務者の相続について

2024年04月16日

根抵当権とは、特定の債務を担保する抵当権と異なり、契約・登記の「極度額」まで去っていされた取引から生じる債務を担保します。しかし、「元本確定事由」が発生しますと、それまでの債務と利息、遅延損害金を担保する抵当権のようになります。この根抵当権で、債務者に相続が発生した場合、どのような手続きが発生するのでしょうか。

目次

1.根抵当権と抵当権の違い

2.相続発生後6ケ月以内にできる対応

3.相続発生後6か月経過後にできる対応

4.債務者が法人で、その代表者に相続が発生した場合


1.根抵当権と抵当権の違い

(抵当権)

 抵当権とは、住宅ローンで融資を行う金融機関が、借入を受ける人が購入する不動産などをローンの担保として設定する権利のことです。

担保となる不動産などは債務者が利用できますが、もしローンを返済できなくなった場合は、代わりに担保に設定された不動産を金融機関に差し押さえられます。

 つまり、「借入金=抵当権で担保する債権」ということになります。

 抵当権の債務者に相続が発生した場合には、相続による債務者の変更の登記が必要になります。

(根抵当権)

根抵当権とは抵当権の一種であり、複数回の貸付・借入を行う契約において利用されます。根抵当権では、担保となる目的物から貸付の限度額を定め、その範囲内で貸付・借入を行います。

抵当権は、一度の貸付・借入ごとに設定する必要があり、同じ債務者・債権者同士で契約を行う場合でも、その都度、抵当権を設定しなければなりません。しかし、根抵当権であれば、貸付限度額の範囲で何度でも貸付・借入を行えます。カードローンの借り入れに似ています。要は、借入金も担保されますが、それ以外に借りた借入金も担保でき、発生消滅を繰り返しても、根抵当権の効力は継続します。

 抵当権の場合、借入金を全額返済した場合、抵当権はその担保権としての効力が無くなり抵当権を抹消することができます。

 一方で、根抵当権の場合には、元本確定事由が発生しない限り、債務を全額返済しても根抵当権の効力は無くなりません。この点が一番抵当権と異なる部分です。勿論、債務者が債権者である金融機関等と話をして、根抵当権がもう必要なければ、「解除」により抹消することは可能です。

2.相続発生後6ケ月以内にできる対応

(元本を確定させないための登記)

 元本確定前の根抵当権の債務者が亡くなったときは、相続開始後6カ月以内に指定債務者の合意の登記をしないと担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなされます。金融機関と相談した上、指定債務者を選び登記するように指定があった場合、指定債務者の合意の登記をするためには、その前提として被相続人の相続人全員を債務者とする債務者の変更登記をしなければなりません。つまり、①相続人全員の債務者変更登記、➁指定債務者の合意の登記、の2回の登記が必要となります。債務者の変更の登記となりますので、登録免許税は、共同根抵当権が設定されている物件の数×2回分×1000円となります。

 また、相続発生から合意までの間の各相続人が承継した債務を担保するためには、さらに③債権の範囲の変更登記も必要になります。

(事例)

 根抵当権者X銀行、債務者Yの根抵当権があり、Y所有の不動産があったとします。Yの相続人はA,Bで、Aが不動産を遺産分割協議で相続登記をしているものとします。

 ①相続人全員の債務者変更登記

 「登記権利者 X銀行

  登記義務者 A

  変更後の事項 債務者(被相続人 甲) A B」

 ➁指定債務者の合意の登記

 「登記権利者 X銀行

  登記義務者 A

  指定債務者 A」

 ③債務者及び債権の範囲の変更登記

 「登記権利者 X銀行

  登記義務者 A

  変更後の事項

  債務者 A

  債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権

        ○年○月○日債務引受(旧債務者B)にかかる債権

        ○年○月○日相続によるAの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権

※AがYの相続により承継した債務及びBが相続した債務を免責的に引き受けたものにかかる債務は根抵当権によって担保されませんので、特定債権として追加する必要があります。債務者をAとする変更登記は交替的変更となりますので、変更前に生じたXのAに対する債権の範囲に属するものにかかる債権も根抵当権によって担保されることになります。

 元本確定前の根抵当権において、債務者が変更した場合、新たな債務者の債権は担保するものの、今までの債権は外れてしまいますので、このような特定債権として、根抵当権の債権の範囲を変更することで、根抵当権の担保範囲に加えることができます。

3.相続発生後6か月経過後にできる対応

 先にも書いた通り、元本確定前の根抵当権の債務者が亡くなったときは、相続開始後6カ月以内に指定債務者の合意の登記をしないと担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなされます。

 元本が確定すると、その後は通常の抵当権のように相続時の債権を担保する抵当権と同じになりますが、極度額まで「利息」「遅延損害金」を担保することができます。当然、相続後に発生した債権については、当該根抵当権では担保できなくなってしまいます。そして、確定後の債務を全額返済すれば、根抵当権は効力を失います。

 それでは、具体的にどうなるのかと言いますと、以前のブログの抵当権の債務者の相続と同じ手順で行うことになります。金融機関から指定があると思うのですが、①遺産分割協議による相続登記を行う方法と、➁相続登記後に免責的債務引受による債務を承継する相続人の債務引受けの登記の2種類となります。

 これらの登記は、元本が確定していないとできませんので、相続発生から6か月経過後に行うことができます

 ①相続人全員の債務者変更登記

 「年月日相続」を原因として

 「登記権利者 X銀行

  登記義務者 A

  変更後の事項 債務者A B」(法定相続人全員を登記)

 ➁免責的債務引受けにおける債務者の変更

  「年月日Bの債務引受」を原因として

 「登記権利者 X銀行

  登記義務者 A

  変更後の事項 債務者 A」(債務を引き受ける相続人を登記)

※➁の登記原因証明情報として「根抵当権変更契約書(債務者相続による免責的債務引受)」の契約書を作成します。

※すべての根抵当権変更登記において、登記権利者(根抵当権者)、登記義務者(所有権の名義人)となります。

4.債務者が法人で、その代表者に相続が発生した場合

 法人の代表者が死亡した場合、債務者が法人の根抵当権はどうなるのでしょうか?

 確かに代表者の方は亡くなっていますが、法人そのものは存続していますし、法人の代表者は別の方が鳴っていたとしても、法人と金融機関が交わした契約そのものが無効になるわけではありません。先にも書いた通り根抵当は、継続取引を想定した担保権です。ですので、故人が債務者の根抵当権とは異なり、代表者に相続が発生しても登記は発生しません。

 しかし、法人と金融機関との間の債務を代表者が個人として、連帯保証人になっているようなケースでは、連帯保証人の脱退加入の契約が必要となります。このような場合には、取引先の金融機関にお問い合わせください。

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