父が亡くなり相続が発生したのちに母が亡くなってしまった(遺産分割協議書事例)
「父が亡くなり相続が発生したのちに母が亡くなってしまった」場合、父の相続登記を母(2分の1)・長男(4分の1)・次男(4分の1)として申請し、その後、母の相続分を長男(4分の1)・次男(4分の1)を申請することになります。母親の相続登記については、租税特別措置法第84条の2の3第1項により令和7年3月31まで移転に係る登録免許税は非課税となりますが、司法書士の報酬は発生するわけです。登記の数を最小限にして、長男単独所有とすることは果たして可能なのでしょうか。それでは話していきたいと思います。
(法定相続登記ではなく相続人の1人に単独相続させる方法)
法定相続による相続登記を回避して長男様に単独です属させるには、2つの方法があります。
①父による遺言書により「長男に相続させる」旨の記載による。
➁残った相続人長男及び次男で遺産分割協議をしたのち、遺産分割協議書をまとめる。
私が携わった相続案件では、ほとんどの場合、遺言書のケースはありませんでした。数件あったのは、被相続人の方が生前、専門家に相談をして遺言書を作成していたケースでした。となると➁の遺産分割協議書によることとなるのですが、長男と次男だけで協議することは可能なのでしょうか?
答えは、「可能」です。なぜなら、母親の地位を相続により長男・次男が承継しているからです。
今回のケースとは異なるのですが、長男のみ(一人っ子)のケースではどうなのでしょうか?この場合、「遺産分割協議書によることができない」場合が存在します。なぜなら「協議」とは、複数人ですべきものという見解が裁判所の判例により示されたからです。(東京高判平26.9.30)
これにより、一人っ子の場合、母親と生前に協議している場合以外は、法定相続による母親(2分の1)、長男(2分の1)を申請し、その後の母親の相続として持ち分2分の1を長男に移転しなくてはならなくなりました。遺産分割協議書も一人っ子の場合は、万能ではないケースがあるということです。
それでは、長男・次男が協議をして長男単独相続の合意ができている場合には問題は起こらないのですが、長男・次男でもめている場合はどうなのでしょうか?
この場合、弁護士による裁判もしくは調停による遺産分割協議が必要となります。司法書士単独では、この事案については携わることができません。弁護士により、裁判の判決書又は調停書を元に、司法書士が相続登記をすることとなります。
以前、先輩の司法書士先生に聞いたのですが、この調停書を弁護士の先生が取得して、相続登記をしたのちに、遺産不動産の漏れが発見されました。で、再度相続登記をしようとしたときに、遺産分割協議調停書内条項に「仮に、記載された以外の財産が発見された場合には、再度協議による。」と記載されていて、取下げになったと話されていました。もめて調停したのに、また調停をすることになったそうです。この条項は、「仮に、本遺産分割協議書に記載された財産以外の財産が発見された場合には、長男が引き継ぐものとし、次男はこれに異議のないものとする。」とすべきです。でないと、兄弟間の争いを蒸し返すような形になってしまい好ましくないからです。
弁護士の先生方を批判しているのではなく、やはり登記の専門家である司法書士も打ち合わせ等によりご依頼者の利益のために積極的に動くべきであると思ったから、今回の事例を書きました。
相続が複雑化した場合、まずは相続登記の専門の司法書士に、相談すべきだと思います。
(共有の相続登記ではなく単独所有の相続登記にした方がいい理由)
それでは、なぜ遺産分割協議書により長男単独の相続にした方がいいのかをお話ししたいと思います。
母親・長男で相続登記をした場合、いったい何が問題となるのでしょうか。
事例で見ていきましょう。父が亡くなり、母親と長男で相続登記をした後、母親が認知症になってしまい介護施設に入所することとなりました。長男はすでに家を出て家庭を持ち自立されていました。しかし予想以上に介護施設の費用がかさみ、もう実家も必要ないから売却して、そのお金で介護費用を賄おうとしたとき・・・・。売却できないことに気づきます。
なぜなら、実家の不動産の名義は、「母親・長男」となっているため、双方の売却の意思表示が必要となるのですが、母親は認知症になっており、「成年後見人」の選任をしなければ、売却ができません。成年後見人を選任すると、母親が亡くなるまで月数万円の費用が発生します。介護費用捻出のための売却で、別の費用が発生するということになるのです。これでは本末転倒という事態になりかねません。
相続登記を自分でするということ自体は否定は致しませんが、「今後のこと」を念頭に専門家に相談をすることは、非常に重要だと思います。