相続人が認知症の場合、相続財産の不動産は売れるのか?

2023年04月09日

今まで、相続手続きを受任してきましたが、一番困った「相続人が認知症だった場合」について、どのような手続きをすれば、相続財産である不動産を売却することができるのかについて解説していきます。

目次

1.事例で考える

2.認知症で判断能力が低下するとどうなるのか

3.家庭裁判所に成年後見人の選任の申し立てをする

4.売却する不動産が居住用不動産である場合

5.相続財産の不動産を売却した後成年後見人はどうなるのか?

6.成年後見制度を利用したくないがどうすればいい?

7.まとめ


1.事例で考える

 母親名義にしていた土地建物があったとします。母親が亡くなり相続が発生しました。父親は認知症を患っているため施設へ入所させ、この土地建物については売却をして、その施設利用料に充てたいと考えました。

 この場合、売却の前提として、母親名義から相続を原因とする所有権の名義変更が必要となります。

2.認知症で判断能力が低下するとどうなるのか

 法律行為に制限がかかりますので、遺産分割協議ができません。遺産分割協議で話し合う必要があるのですが、その話を理解できない状態ということになります。強引に遺産分割協議書を作成しても、それは「無効」になります。

 ということは、相続不動産の売却はできないということになります。

 どうしても遺産分割協議をして、当該土地建物を売却する必要性がある場合、何も手立てはないのでしょうか。

3.家庭裁判所に成年後見人の選任の申し立てをする

 すでに父親は認知症になっていますので、「法定後見」一択になります。

 どうしても遺産分割協議をして不動産を売る必要性がある場合には、成年後見人を付けて、成年後見人が遺産分割協議に参加し協議をまとめ相続登記を実施いたします。その後、不動産の売却をすることで実現できます。

 (家庭裁判所への成年後見人の選任の申し立ての流れ)

 ①申し立てできるのは、「本人、配偶者、4親等内の親族など」です。

  申立人が後見人選任の申し立てをいたします。

 ➁後見人選任の最終的な判断は家庭裁判所になります。

  申し立て時に「親族」を後見人にしてほしいとの要望は、提出することができるのですが、家庭裁判所の判断で、専門職後見人(弁護士や司法書士)が選任される場合もあります。

  親族が後見人になった場合には、専門職が「後見監督人」として就任する場合があります。

 ※遺産分割協議をする場合の注意点として、「親族(相続人)が後見人」となった場合、認知症の父親の立場と自身の立場が利益相反の関係となってしまいます。この場合、父親の立場を親族後見人から分けるために「特別代理人」選任申し立てを家庭裁判所に申し立てなければなりません。

 ただし、専門職が後見人もしくは後見監督人に就任している場合には、特別代理人の選任申立ては不要で、専門職の方が遺産分割協議に参加すれば問題ありません。

4.売却する不動産が居住用不動産である場合

 仮に、相続登記により、土地建物を父親名義として登記申請した場合、当該土地建物は父親にとって「居住用不動産」となります。この居住用不動産を売却する場合に、成年後見人は、「居住用不動産の処分許可申立」を家庭裁判所にしなければなりません。

 家庭裁判所の許可が取れれば、父親の代わりに成年後見人が当該土地建物を売却することができるようになります。

5.相続財産の不動産を売却した後成年後見人はどうなるのか?

 不動産売却後も、父親の認知症が改善するか、亡くなるまでは、成年後見人は引き続き父親の財産管理をすることになります。

 すでに「スポット後見」なる制度の話し合いは行われているようですが、現状(令和5年4月9日現在)では、まだこの制度は施行されていません。

6.成年後見制度を利用したくないがどうすればいい?

 成年後見制度を利用すると、財産の価額にもよるのですが、月額2万円から6万円が発生します。当然、この制度を利用したくないという方もいらっしゃると思います。

 この場合、父親が亡くなるのを待って、母親名義の不動産を子供たちが父親の立場を相続(数次相続)したうえで遺産分割協議をすることも選択肢の一つになってくると思われます。

7.まとめ

 成年後見制度を利用する場合、費用がかかってしまいます。子供たちの収入に余裕があれば、土地建物の売却は後に回しても問題ないと思いますが、どうしても現金が必要という場合には、成年後見制度の利用は悩ましいところですね。

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