相続放棄が返ってくる事例

2022年11月20日

先日、書士会の研修で実務交流会があったのですが、その中で実際に会った事例として放棄したはずの相続権が、相続放棄をした本人に帰ってくる事例を聞きました。「えっ!そんなことってあるんですか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんのでお話ししたいと思います。

通常、相続人が複数名いらっしゃり、その中の何人かが相続放棄をして、相続権を残りの方が受ける場合には、今回の事例は発生しません。しかし、第1相続で相続人の全員が放棄をしてしまったために、相続権が第3順位の兄弟姉妹に渡った場合に、今回の事例は起こりえます。

まずは、上記の図のように「父親の相続」を単独の相続人である子が、相続放棄をします。すでに祖父母は他界しているため第3順位の兄弟姉妹に父親の相続権が移転します。そこで、弟姉妹が父親の相続発生後に亡くなった場合、甥名(兄弟姉妹の子)が相続放棄をしますと、その相続権が代襲相続(既に父親が亡くなっているのでその子に相続権が移転すること)が発生し、父親の相続権を放棄した子に戻ってくるのです。

通常、相続放棄した場合、他に相続人がいない場合には「相続人不存在」となり、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てなければなりません。しかし、本事例では「相続人不存在」の場合ではないことに注意してください。

そもそも相続放棄の申述書には、「被相続人」を特定して申述します。つまり、今回の事例で子が申述した相続放棄は「父親」の相続放棄となります。次に発生した父親の兄弟姉妹の相続とは、別の事件と扱われますので、叔父の相続を知ったときから3か月以内に「叔父」の相続放棄を家庭裁判所に申述しなければ、相続放棄したはずの「父親の相続財産(債務も含む)」+「叔父の相続財産(債務含む)」を引き受けなければならなくなります。そのため、相続放棄をする際も、その後の相続権の移転先(叔父と甥)と連絡を取り合い、相続放棄の意向があるのかどうか確認をしていないと、相続放棄したはずの父親の相続権が戻ってくることになります。

ここで、法定期限内に相続放棄をした場合に、これらの相続財産は「相続人不存在」の状態になります。

今回の事例は、かなりのレアケースにはなりますが、相続放棄をする際には、専門家への相談をお勧めいたします。

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