遺産分割協議書作成上の注意

2023年07月11日

相続が発生した場合に、被相続人の遺言書がなかった場合、遺産分割協議を相続人全員でしなければ具体的な相続分を定めることはできません。その遺産分割協議書の様式や記載内容などについて解説いたします。

目次

1.遺産分割協議書の書式

2.遺産分割協議書作成のポイント

3.財産別に作成した遺産分割協議書

4.相続人ごとに作成した遺産分割協議書

5.まとめ


1.遺産分割協議書の書式

 遺産分割協議書は、相続人全員で相続財産をどのように分割するのかを話し合い、同意した内容を書面にまとめたものですが、法的に必ず作成しなければならない書面ではありません。 そのため、決まった書式もありません。

 しかし、適当に書けばいいのかというとそうではありません。各項目において、今まで問題なく遺産分割の協議の内容の効力を有効にするコツみたいなものがあります。

2.遺産分割協議書作成のポイント

 遺産分割協議書の各文言には、細心の注意が必要です。記載内容によっては、遺産分割協議書そのものが使えなくなってしまう場合がありますので、注意が必要です。

 ①一部の相続人の印鑑証明書の交付を渋っている場合

  その者に対する「遺産分割協議書真否確認の勝訴判決」をもって、その者の印鑑証明書変えることができます。(昭56.11.20民三6726号)

 ➁相続人の一部が遺産分割協議書への実印での押印を拒んでいる場合

  右遺産分割により、特定の不動産を単独で相続することとなった者は、押印を拒んでいる者に対する「所有権確認訴訟の勝訴判決」及び当該遺産分割協議書(他の相続人等の印鑑証明書付)を添付して、単独で遺産分割による相続の登記を申請することができます。(平4.11.4民三6284号)

 また、以前取り扱った遺産分割裁判の判決書を添付しての相続登記をする際、当該遺産分割裁判時の不動産から漏れていた建物がありました。裁判の内容とは異なる物件になりますので、「すべての相続人は、個々に記載された以外の財産又は債務があった場合は、相続人Aに相続させることに異議はないものとする。」という漏れた財産の帰属先を決めておきます。しかし、その判決書には「改めて協議することとする。」と記載していました。もめているから裁判をしたのに協議なんてできるわけありませんよね。本当にこの時は困りました。

3.財産別に作成した遺産分割協議書

作成した遺産分割協議書

 遺産分割協議書が相続人ごとに作成されている場合であっても、遺産分割協議書の内容が同一であり相続人全員が合意できている事実が書類上で確認できるものであれば、遺産分割協議書として取扱うことができます。

 つまり、このような遺産分割協議書を有効に成立すると認めてもらうには

 ①遺産分割協議書の内容が同一

 ➁相続人全員が合意できている事実が書類上でわかる

ことが要件になります。

 不動産登記の実務上も、遺産分割協議書と同一の内容を、相続人の人数分「遺産分割証明書」として作成し、当該証明書に相続人全員が署名(記名)と実印を押印することで相続登記が可能です。

 可能であれば、1枚の遺産分割協議書に連署・押印する形が望ましいですが、時間が限られている場合や、一部の相続人が海外に居住している場合などは、前述の遺産分割証明書の形が適しているケースもあります。例えば、相続人の一人が海外に住んでいる場合などがこれにあたると思います。

「(『登記研究』170号・100頁・質疑応答)

質問:同一内容の遺産分割協議書を、共同相続人が各人別に夫々作成(連署せず)した場合は、遺産分割の協議を証する書面といえないか。

回答:同一内容の遺産分割協議書を数通作成し、それに各自が各別に署名捺印したものであっても、その全部の提出があるときは、遺産分割の協議書とみて差しつかえないものと考えます。」

5.まとめ

 相続登記義務化に伴い、相続発生後の相談件数が増加しております。その中で、とりまとまった遺産分割協議の内容を反映した遺産分割協議書作成の依頼も多数ありました。

 専門家に依頼した場合、こういった細かい内容についても必ずチェックしています。

 インターネットにも各種雛形が掲載されていますが、どのケースでも利用できるとは限りませんので、ご自身に合った内容にすることが重要です。少しでも不安がある場合には、専門家への相談をお勧めいたします。

最新のブログ記事

令和6年12月18日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

司法書士試験に合格するためには、効果的な学習方法と徹底的な準備が必要です。私が合格する前年と合格年度に実施した学習法は、時間の使い方と効率的な復習を重視し、最終的には「回す道具」を整えることに集中しました。この学習法は、学習のインプットだけでなく、アウトプットを通じて知識を定着させることに焦点を当てたものです。

明治31年(1898年)7月16日から昭和25年(1950年)5月2日までの間における相続制度は、旧民法(明治民法)によって規定されていました。特に、この時代の相続制度は「家督相続」と「遺産相続」という2つの異なる制度が存在しており、家制度(家族制度)に基づく相続形態が特徴的です。

<