(論点)「遺産分割協議書に印鑑はつかない」という主張が意味がない場合

2025年01月08日

負動産の相続において、時折、相続人の中に次のような理由で遺産分割協議に協力しない方が見受けられます。①「子供に負動産を引き継がせたくないから印鑑を押さない」、または➁「配偶者との関係が悪いから協議に参加しない」といったものです。こうした行動が実際に脅しとして効果があるのか、法律的観点から考えてみましょう。

目次

1.「子供に負動産を引き継がせたくない」という理由で協力しない場合

2.「配偶者との折り合いが悪くそんな負動産相続したくない」という理由で協力しない場合

まとめ


1.「子供に負動産を引き継がせたくない」という理由で協力しない場合

 被相続人が亡くなり、遺言書がない場合、相続人には法定相続分に基づいた権利が与えられます。この段階で相続人全員が共有状態に置かれるため、遺産分割協議を経て各人の取り分を確定させる必要があります。しかし、「子供に負動産を引き継がせたくない」という理由で遺産分割協議書に印鑑を押さない場合、本当にその負動産の権利は子供に承継されないのでしょうか?

 実際には、その相続人が亡くなると、その相続人の子供が法定相続人となり、再び遺産分割協議に参加することになります。つまり、協議に協力しなければ、その負動産が子供に渡ることを防げるわけではなく、逆に相続が次世代に持ち越され、相続関係がさらに複雑になる可能性があります。単に遺産分割協議を先延ばしにしているだけであり、法定相続分での権利が自動的に継承されることになります。

 また、負動産の問題が解決されないまま相続が次世代に持ち越されると、その時点で相続関係はさらに複雑化し、負担が増えることもあります。協議の内容に不満がないのにもかかわらず、印鑑を押さないことは、結果的に子供の世代に負担をかける行為となりかねません。

2.「配偶者との折り合いが悪くそんな負動産相続したくない」という理由で協力しない場合

 もう一つのよくあるケースが、「配偶者との関係が悪いから協力しない」というものです。このような場合、配偶者と折り合いが悪いのであれば、生前に離婚するという選択肢も考えられたはずです。しかし、離婚せずに戸籍上の関係を続けていた以上、配偶者も法定相続人であり、遺産分割協議に参加する権利があります。

 もし遺産分割協議に協力せず、印鑑を押さないという選択をしたとしても、配偶者は法定相続分に従って権利を相続することになります。負動産を配偶者に引き継がせたくないという気持ちがあったとしても、協議に参加しないだけではその問題を回避することはできません。むしろ、遺産分割協議が進展しないまま、結果として自分の意図と異なる形で相続が進行することになります。

 つまり、「印鑑を押さない」という行動は、一見すると自分の主張を通す手段のように思えますが、実際には法定相続分がすでに自動的に適用されており、自分自身がすでに権利者となっています。このまま放置をすると、次世代に相続問題を持ち越すことで相続関係が複雑化し、自分の首を絞める結果となりかねないのです。

まとめ

 「負動産を子供に引き継がせたくない」「配偶者との関係が悪いから負動産を相続したくない」という理由で遺産分割協議に協力しないことは、相続手続きを停滞させるだけであり、結果的には法定相続分での相続が進行します。次世代に負担を先延ばしにすることになり、相続関係が複雑化するリスクもあるため、遺産分割協議には早期に協力することが重要です。そして、印鑑をつきたくない理由(子供に相続させたくない、自分が引き継ぎたくない)がそのまま現実のものとなってしまいます。

 以前もお話をしましたが、法律は知っている者の味方です。自分のルールは当然ですが、法的に効力があるかどうかはわかりません。ですので、まずは専門家にご相談されることが先決だと思います。

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