(論点)改めて相続登記義務化を考える

2024年11月12日

相続登記義務化がはじまりましたが、行政が取り組んできた施策にはいくつかの重要な要素があります。これらの取り組みは、相続登記の遅れや相続財産の管理が不明確になることによる社会的な問題(所有者不明土地問題)を解決するために行われています。特に、戸籍の集中管理や相続登記義務化に関する法整備が中心的な役割を果たしています。

目次

1. 相続登記義務化の背景

2. 戸籍の集中管理(法務省の取り組み)

3. 法務省によるその他の施策

4. 相続土地国庫帰属制度の導入

5. 相続登記義務化の施行と罰則

まとめ


1. 相続登記義務化の背景

 相続登記義務化が導入された背景には、相続登記が行われないまま放置される「未登記土地」の増加が深刻な問題となっていたことがあります。登記がされない土地は、相続人が複数いる場合に共有状態となり、管理や処分が難しくなります。また、長期間登記が放置されると、相続人の中にはすでに亡くなっている人も出てくるため、さらなる相続が発生し、権利関係が複雑化します。このような土地は「所有者不明土地」と呼ばれ、公共事業の進行や土地の適切な利用を阻害する要因となっていました。

 これらの問題に対処するため、政府は相続登記の義務化を進め、土地の権利関係を明確にし、土地の適切な管理と利用を促進しようとしています。

2. 戸籍の集中管理(法務省の取り組み)

 相続登記を進めるために不可欠なもののひとつが、相続人を確定するための戸籍情報の管理です。これまでは、戸籍は各市町村が管理しており、相続登記を行う際には相続人が必要な戸籍をそれぞれの市町村から取得しなければなりませんでした。しかし、これは時間と手間がかかる作業で、特に古い戸籍を探す場合には複数の自治体に問い合わせが必要になることも多々ありました。

 法務省はこの問題に対応するため、戸籍のデジタル化および集中管理を進めてきました。具体的には、以下の施策が行われています:

戸籍の電子化:各自治体が管理している紙の戸籍をデジタル化し、電子データとして管理できるようにする取り組みです。これにより、相続登記の際に戸籍をオンラインで取り寄せることが可能になり、登記手続きが効率化されました。

法務省の集中管理:戸籍情報を法務省のシステムで一元的に管理する仕組みを整備することで、相続登記に必要な戸籍の収集が容易になります。これにより、相続人が全国の自治体を回る手間を減らし、時間の短縮とコスト削減が実現されました。(広域制度の実現)

3. 法務省によるその他の施策

 法務省は相続登記義務化を円滑に進めるため、他にもさまざまな施策を実施しています。

相続登記の申請手続きの簡素化:相続登記を怠った場合でも、相続人が多数いる、遺産分割協議が難航しているなどの正当な理由があれば過料が免除されることがあります。相続登記の義務化に伴い、手続きの簡素化が進み、相続人申告登記制度や必要書類の簡略化(全部ではありません)により、不動産相続がより円滑に行えるようになりました。スムーズな相続登記のためには、専門家の助言を受けることが重要です。

相続登記の登録免許税の減免措置:一定の条件を満たす場合には、相続登記にかかる登録免許税を免除する制度を導入しました。これにより、経済的な理由で登記を行わなかったケースを減少させ、相続登記の促進を図っています。ただし、適用には期限がありますのでご注意ください。

4. 相続土地国庫帰属制度の導入

 また、相続登記義務化の一環として、相続人が相続した土地を国に引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」も導入されました。これは、相続によって取得したものの、維持管理が困難な土地を国に帰属させることで、管理負担を軽減する制度です。この制度により、放置されがちな土地が国の管理下に置かれ、適切に利用されることが期待されています。

※相続土地国庫帰属制度に関するQ&A(法務省HP内)

リンクhttps://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00459.html

「6 却下事由・不承認事由一般関連

(Q3)相続登記が義務化されたと聞きましたが、まだ相続登記をしていません。このような土地は相続土地国庫帰属制度の申請ができますか。

(A3) 相続登記が未了であっても、申請する土地を相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限ります。)によって取得したのであれば、申請することができます。ただし、所有者であることを証する書面(戸籍事項証明書等)を添付する必要があります。また、申請を取り下げたり、申請が却下・不承認となった場合は、承認申請者が引き続きその土地の所有者となりますので、相続登記を申請する必要があります。」(引用終わり)

ポイントは、相続土地国庫帰属制度に申請する場合には相続登記は必須ではありませんが、却下・不承認の場合は、相続登記の義務が生じることになります。

5. 相続登記義務化の施行と罰則

 相続登記の義務化は、2024年4月1日から正式に施行されました。この制度により、土地を相続した人は相続が発生してから3年以内に登記を行う義務が課されます。もしこの義務を怠った場合、10万円以下の過料(罰金)が科される可能性があります。これにより、相続登記の放置が減り、所有者不明土地の問題が解消されることを狙っています。

まとめ

 相続登記義務化を進めるうえで、行政が行ってきた主な取り組みとしては、戸籍の電子化と集中管理、相続登記手続きの簡素化、登録免許税の減免措置、登記手続きのデジタル化などが挙げられます。これらの施策は、相続登記を促進し、所有者不明土地問題を解決するために重要な役割を果たしています。

最新のブログ記事

令和7年2月12日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

遺言書が必要な方とは、将来の相続に備え、自分の財産や遺産をどう分けるかを明確にしておきたい方のことを指します。特に以下のような状況にある方は、遺言書を作成することが重要です。

遺言書には大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の二つがあります。それぞれの形式には、作成方法や保管方法、そして法的な効力や手続きに違いがあり、遺言者がどの形式を選ぶかによって、相続手続きが大きく左右されます。ここでは、それぞれのメリットとデメリットを比較しながら、最終的に遺言者の意思を確実に相続人に伝えるために、公正証書遺言が推奨される理由について説明します。

遺言書がある場合とない場合の相続に関する比較を項目に分けてまとめた内容となります。遺言書の有無が相続手続きに与える影響について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを整理していますので参考にしてみてください。

<