(論点)遺留分の生前対策について

2024年06月24日

生前の遺留分対策は、相続において遺留分権利者(配偶者や子供など)が最低限保障されるべき相続分を確保しつつ、被相続人の意思を尊重した財産分配を実現するために重要です。以下に主要な対策を詳しく説明します。

目次

1. 生前贈与

2. 生命保険の活用

3. 信託の利用

4. 遺言書の活用

5. 養子縁組の活用

6. 家族間の合意形成

7.まとめ


1. 生前贈与

(1)生前贈与の意義

 生前贈与は、被相続人が生存中に財産を特定の相続人や第三者に贈与することを指します。これにより、相続開始時の遺産の総額を減少させ、相続税の負担を軽減する効果があります。ただし、贈与税及び、不動産の場合の登録免許税、その際の専門家への報酬等も興梠しなければなりません。

(2)遺留分への影響

 生前贈与は、原則として相続財産に含まれ、遺留分の計算対象となります。ただし、贈与から10年以上経過している場合、その財産は遺留分の計算に含まれません【※】。このため、長期的に計画的な贈与を行うことが重要です。

※ 2020年の民法改正により、遺留分の計算において、遺留分権利者に対する贈与については相続開始前の10年間まで遡って計算されるようになりました(民法1044条)。

(3)具体的な方法

 暦年贈与: 毎年110万円以内の非課税枠を利用して贈与を行う。ただし、相続発生後、7年間遡って、その間に贈与した財産は、相続財産となってしまいます。

 相続時精算課税:こちらは2500万円までの財産を贈与税なしで生前贈与し、相続発生時に2500万円分を相続財産とする手続きです。ここで令和6年1月1日より、年間基礎控除110万円が追加されています。相続時精算課税を使う場合、税務署への届出が必要となります。そして、一度、相続時精算課税を選択すると、暦年贈与を使うことはできなくなりますので注意が必要です。

 教育資金・結婚・子育て資金の贈与: 特定の目的で非課税枠を活用して贈与する。詳しくは税理士にご相談ください。

2. 生命保険の活用

(1)生命保険の特性

 生命保険金は、受取人の固有財産とみなされ、相続財産とは別に扱われます。生命保険金の非課税枠は「500万円 × 法定相続人の数」で設定されており、これを利用することで相続税の負担を軽減できます。

(2)具体的な方法

 受取人を遺留分権利者以外に指定: 特定の相続人が受け取れるように受取人を設定する。

保険金の受取方法の工夫: 被相続人の意向を反映するため、保険金の分配方法を工夫する。

3. 信託の利用

(1)家族信託とは

 家族信託は、被相続人が自分の財産を信頼できる受託者に託し、指定した受益者に利益を分配する仕組みです。信託財産は相続財産とみなされないことから、遺留分対策として有効です。

(2)具体的な方法

 特定信託: 特定の相続人や第三者を受益者とする信託契約を設計する。

 分割信託: 複数の受益者に財産を分割して分配する信託契約を作成する。

4. 遺言書の活用

(1)遺言書の効力

 遺言書を作成することで、被相続人の意向を明確にし、相続人間のトラブルを防ぐことができます。特別受益の持ち戻しを免除することを記載することで、特定の相続人に対して多くの財産を残すことが可能です。ただし、遺留分侵害額請求をなされた場合は、相続人への特別受益の場合、10年以内の遺産は、遺留分侵害額請求の際の遺産の対象となります。

(2)具体的な方法

 持ち戻し免除の記載: 遺言書に、特別受益の持ち戻しを免除する旨を明記する。

 配分の調整: 遺留分を侵害しない範囲で、財産の配分方法を明確に指定する

5. 養子縁組の活用

(1)養子縁組の意義

 養子縁組は、被相続人と養子との間で法的な親子関係を結ぶことを指します。養子は法定相続人となり、法定相続分が発生します。これにより、相続人の数が増え、結果的に各相続人の遺留分が減少することになります。法律上は、養子の数に制限はありませんが、税務上では制限があります。相続税の基礎控除に加算できる養子の人数には注意が必要です。

(2)遺留分への影響

 養子縁組をすることで、遺留分権利者の人数が増え、それに伴い遺留分の総額が減少します。例えば、相続人が増えることで、1人あたりの遺留分割合が減少し、相続財産を柔軟に配分しやすくなります。一人当たりの法定相続分を下げることができ、結果、遺留分の額も減少します。

(3)具体的な方法

 養子縁組による相続人の追加: 養子を迎えることで法定相続人を増やし、遺留分の減少を図る。

 特別養子縁組の活用: 20歳未満の子供を養子とすることで、相続人の数を増やし、相続財産の分配を調整する。

6. 家族間の合意形成

家族間の協議

相続において家族間の合意形成は不可欠です。被相続人の意向を尊重しつつ、遺留分権利者を含む全ての相続人が納得する形で財産分配を進めます。

具体的な方法

家族会議の開催: 定期的に家族会議を開き、相続に関する理解と合意を深める。

遺留分放棄の協議: 遺留分権利者に対して事前に遺留分の放棄を求める(家庭裁判所の許可が必要)。当然、当事者に納得していただくために相応の財産の提供が必要となります。

※ すべての相続問題に言えることですが、この家族間の合意の形成(コミュニケーション)をしっかりやらず、きっと大丈夫と思いつつ放置し、相続が始まったときに家族間に亀裂が入るといった事案が散見されます。

7.まとめ

 生前の遺留分対策は、遺留分権利者の権利を尊重しながら、被相続人の意思を最大限に実現するための重要なプロセスです。生前贈与、生命保険の活用、信託の利用、遺言書の作成、養子縁組、相続税対策の併用、そして家族間の合意形成など、様々な方法を組み合わせることで、相続が円滑に進行し、相続人間のトラブルを未然に防ぐことができます。これにより、相続財産の分配がスムーズに行われ、家族の将来に対する安心感を得ることができるます。

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