(論点)遺言書作成前のエンディングノートの意義

2025年06月06日

――自分の人生と財産を棚卸する大切な作業――

終活が注目される現代、遺言書の作成は相続対策の重要な一環として広く認識されています。しかし、遺言書をいきなり書き始めるのではなく、まずはエンディングノートを作成することが推奨されています。エンディングノートは法的拘束力を持たないものの、自分の人生を振り返り、財産や希望を整理することで、遺言書をより明確かつスムーズに作成する助けとなります。本稿では、遺言書作成前にエンディングノートを活用する意義について考察します。

目次

  1. エンディングノートとは何か
  2. 遺言書との違いと補完関係
  3. 人生や財産の棚卸としてのエンディングノートの役割
  4. エンディングノート作成の具体的なステップ
  5. エンディングノートを通じた家族への配慮
  6. 最後に

1. エンディングノートとは何か

 エンディングノートとは、自分の死後に向けて家族や親しい人に伝えたい情報や希望をまとめるためのノートです。内容は、遺言書ほど正式ではなく、自由な形式で書けるため、自分の言葉で気持ちや意思を残せるという特徴があります。

 具体的には、自分の財産の状況、葬儀の希望、家族や親しい人へのメッセージ、デジタル遺品の管理方法、臓器提供の意思などを記載します。また、銀行口座や生命保険の契約情報、所有不動産の一覧など、遺族が手続きを進めやすいように具体的な情報も整理できます。

2. 遺言書との違いと補完関係

 遺言書とエンディングノートは混同されがちですが、両者には明確な違いがあります。遺言書は法的な効力を持ち、財産の分配や後継者の指名など、相続に関わる正式な意思表示を行うものです。一方、エンディングノートは法的拘束力がないため、あくまで補助的な役割を果たします。

 しかし、この補完関係は非常に重要です。遺言書の作成は法的手続きや正確な表現が求められるため、事前にエンディングノートを作成しておくことで、自分の財産や人生の状況を整理し、遺言書に反映させる内容を明確にできます。エンディングノートを活用することで、漠然としたイメージを具現化し、遺言書作成時の迷いを減らすことができます。

3. 人生や財産の棚卸としてのエンディングノートの役割

 エンディングノートを作成する作業は、単なる情報の整理にとどまりません。それは、これまでの自分の人生や現在の財産を「棚卸し」するプロセスでもあります。エンディングノートを通じて、今までの人生で何を大切にしてきたのか、自分の財産がどのように形成されてきたのかを改めて振り返ることができます。

多くの人は、自分の財産や持ち物が具体的にどのような状態になっているかを把握していないことが多いです。エンディングノートを作成する過程で、預貯金や不動産の有無、保険契約などを整理し、記載することにより、遺族が相続手続きで混乱することを防ぐことができます。また、自分の希望や価値観を明確にすることで、どのように遺産を分けるべきか、自分の意思が明確になり、遺言書作成時の参考資料となります。

4. エンディングノート作成の具体的なステップ

 エンディングノートを作成する際は、次のステップに従って進めるとスムーズです。

ステップ1: 情報収集
 まず、自分の財産に関する情報を収集します。銀行口座、証券口座、不動産、保険契約、借入金などの詳細を確認し、それぞれの管理情報を記載します。これにより、財産状況が一目で把握でき、相続人にとってもわかりやすくなります。

ステップ2: 自分の意思や希望を整理
 次に、自分がどのような最期を迎えたいか、葬儀の形態や供養の方法などの希望を整理します。家族へのメッセージや、特に伝えたいことがあれば、それも記載しておくとよいでしょう。

ステップ3: 定期的な見直し
 エンディングノートは、一度作成したら終わりではありません。人生の節目や財産の変動に応じて、定期的に内容を見直し、必要があれば修正を行います。これにより、常に最新の情報が反映され、いざというときに遺族が迷うことなく手続きを進められるようになります。

5. エンディングノートを通じた家族への配慮

 エンディングノートは、自分自身のためだけでなく、家族への大きな配慮でもあります。遺族が相続手続きを進める際、故人の意思や希望がわからないまま進行することは、しばしばトラブルの原因となります。エンディングノートに自分の意思を明確に記載しておくことで、遺族が安心して手続きを進めることができ、感情的な摩擦も軽減されるでしょう。

 また、デジタル遺品に関する情報を残しておくことも、近年ますます重要になっています。パソコンやスマートフォンに保存されているデータ、SNSアカウントなども、遺族が管理する必要がありますが、エンディングノートにその詳細を記載しておくことで、手続きがスムーズに行われるようになります。

6. 最後に

 遺言書の作成は、法的に有効な相続対策ですが、その前にエンディングノートを作成することは、非常に有益な作業です。エンディングノートを通じて、自分の財産や人生を振り返り、遺言書に盛り込むべき内容を明確にすることができます。また、エンディングノートを残すことで、家族への配慮を示し、相続手続きが円滑に進むことにもつながります。定期的に見直し、更新することで、常に最新の状況を反映させたノートを保つことが重要です。

 自分の最期に向けた準備を通じて、安心した老後を送るためにも、エンディングノートを積極的に活用していきましょう。

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