根抵当権の元本確定請求通知書の送付先

2023年09月15日

根抵当権元本確定請求は、根抵当権者(金融機関)がいつでもすることができます。設定者からの通知のように、3年経過や到達後2週間での効力発生などの要件はなく、到達すればその日付が確定日となります。これは、根抵当権に確定期日が設定されていても変わりません。しかし、設定者の状況により通知先が異なってきます。備忘録として残しておきます。

目次

1.根抵当権とは

2.根抵当権者の元本確定請求通知書とは

3.根抵当権の元本確定請求書の送付先

 3-1.既に破産管財人である弁護士がいる場合

 3-2.債務整理中で弁護士がついている場合

4.根抵当権の元本確定登記の添付書類


1.根抵当権とは

 「根抵当権」とは、不動産などの財産に対して設定される抵当権の一種です。抵当権は、債務の担保として財産を利用するための制度であり、債務者が債務を履行しなかった場合に債権者がその財産を差し押さえて売却することによって債務を充当することができる制度です。

「根抵当権」は、不動産や土地などに対して設定される抵当権で、一般的には不動産担保とも呼ばれます。これは、土地や建物などの不動産を担保として融資を受ける際に、債権者(通常は金融機関)が担保として不動産に対して設定する権利です。

 抵当権との違いは、抵当権が特定の債権を担保することになるが、根抵当権の場合、債権を債権の範囲の中の取引で生じた不特定の債権を担保します。

 つまり、住宅ローンのように1つの契約で貸し付けられた1つの債権を担保するのが抵当権です。一方、法人のように金融機関との間でなされる複数取引の債権を担保するのが根抵当権というわけです。融資返済が複数発生するカードローンのようなイメージだと考えていただければわかりやすいかと思います。

2.根抵当権者の元本確定請求通知書とは

 「民法398条の19第2項

  根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。」

 この規定に基づき、金融機関が設定している根抵当権の元本確定請求を行います。この確定請求をすると、確定前に発生した債権を担保し、その後に発生する取引については担保されなくなります。ですので、通常、金融機関は、取引中止と同時にこの元本確定請求を行います。

3.根抵当権の元本確定請求書の送付先

 通常、金融機関は、全設定者(不動産の所有者)に向けて、根抵当権の元本確定通知書を送付し、その到達時が元本の確定日となります。

 元本確定請求書を出すということは、「何らかの問題」が発生していると考えられます。

 例えば、設定者が破産宣告された場合、設定者が個人の場合、不動産の登記簿謄本に記載されるため、根抵当権の元本確定登記そのものが不要となります。しかし、法人所有の不動産で法人が破産した場合には、不動産登記簿には破産の記載はないため、根抵当権の元本確定登記が必要となります。

 それでは、破産前に債務整理が行われ、金融機関に代理人の「弁護士、司法書士」から受任通知が送付された場合、送付先は原則通り設定者なのか、それとも弁護士・司法書士なのか、迷うところです。登記簿上にはなにも記載されないため、元本確定登記が必要となります。元本確定登記をする際に添付する通知証明書のあて先が弁護士事務所だった場合、登記がスムーズに行えるかどうかで判断をいたしました。

 3-1.既に破産管財人である弁護士がいる場合

  弁護士事務所に送付した通知証明書と、当該弁護士が破産した設定者の代理人であることを証明する「破産管財人証明書」を添付すれば、登記は受理されます。

 3-2.債務整理中で弁護士がついている場合

  貸金業法21条第1項9号によれば、債務者が弁護士・司法書士(または弁護士法人・司法書士法人)に債務整理を依頼した後に、債権者が債務者本人へ直接取り立ての連絡をすることは許されないことになっているが、「元本確定請求」は「取り立て」ではありません。

  しかも、根抵当権の元本確定登記は、権利者が設定者であり、義務者が金融機関になります。そうすると、権利者に実質的な不利益はないものと解されます。よって、本人に対して通知することは許されると解されます。

  それでは、債務整理を受任した弁護士に送った場合にはどうなるのでしょうか。本件の弁護士が有する代理権は債務整理についてのものです。債務整理は、多重債務等により返済に窮する依頼者の負担を軽減するを目的とします。元本確定が前述の性質を有するのならば、その代理権は「確定請求通知を受領すること」を包含していると考えることもできなくはありません。それでは、いざ元本確定登記をする際に、その弁護士の代理権限を証明する資料は何なのでしょうか?債務整理開始通知(受任通知)で証明できるのでしょうか?債務整理開始通知では、かなり厳しいと思います。だって、取り立てについて制限する通知ですから。

 となると、債務整理中の設定者への通知は、「直接本人にする」のが正解ということになります。

 その後の、根抵当権の元本確定登記は、金融機関からの単独申請となります。

4.根抵当権の元本確定登記の添付書類

 破産管財人が選任される前の債務整理状態での添付書類となります。

 ①登記原因証明情報

  司法書士作成の報告形式の書類と併せて、郵便等配達証明書を添付します。

 ➁権利証

 ③代理権限証明情報(金融機関の委任状)

5.まとめ

 今回、金融機関からの相談で話を聞いている時に、「違和感」を覚えました。それが、破産管財人の代理権限証明はできるが、果たして、債務整理中の設定者への通知が正解なのか、受任している弁護士に通知するのが正解なのかという点です。即答はできませんでしたが、持ち帰り、調べてみると上記のことがわかりました。登記という観点で考えると無理筋ですからね。債務整理中の弁護士の代理権限は、取り立てについてなので、元本確定請求が設定者に有利な行為と判断すると、なんとなく見えてきました。そこで、裏付けをとって金融機関様に報告をし、今後の対応について案内することができました。

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