ご覧のように、財産が多い方は、専門家に相談の上、生前に相続対策される一環で遺言書を作成している場合が多いため、遺産分割調停・審判事件の割合が低いことが分かります。一方で、1000万円以下の相続財産でもめるケースが多いことが見て取れます。財産が少ないことは、遺言書を作成しない理由とはならないことがわかると思います。
➁未来のことは誰にも予測はできません
現状、家族関係が良くても、将来、どのようになるのかはわかりません。親の目線からの関係と、現状の子供間の実際の関係は見えていない可能性もあります。人というのは、意外と細かいことを根に持っている場合があります。「子供の時から、親父は弟ばかりひいきしてきた。」と、亡くなった後に吐露し始める方を見ました。ご存命の間は、本当の心情を隠されているかもしれません。それでは、遺言書を書いたから、すべてうまくいくかというとそうではありません。上記のような例ですと、子供時代から蓄積された感情がありますので、難しいと思いますが、少なくとも相続時点での財産の帰属先は決まります。「遺留分」の問題にも発展する可能性がありますが、遺留分で主張できるのは法定相続分の2分の1です(例外もあります)。
(財産が少なくはないですが、事業継続にも影響します)
京都の老舗の造り酒屋さんで、相続が発生し、建物や工場は法人名義でしたが、敷地は父親の個人名義でした。弟が継承することに反対だった兄が、遺産分割調停を申し立て、遺産分割審判までもつれ、結局半分ずつの持分で兄・弟で登記しました。その後、兄は共有物分割請求をしましたが、現金がなかった弟は代償分割ができず、結局建物工場を解体して、敷地を第三者に売却して、換価分割を選択しました。当然、事業は継続できなくなり、法人は解散となってしまいました。
この事例は、遺言書があってもだめだった可能性がありますが、遺留分が半分で済みことを考えると、もしかしたら、何とかなった可能性もあったのでは?と思ってしまいます。
3.まとめ
まとめると、財産の額にかかわらず、遺言書を書いておくメリットはあります。できれば、早い段階で一つ作り上げ、その後の状況で内容を変更することはできます。公正証書遺言では、費用が掛かるというのであれば、自筆で作成を続け、ある程度納得いく時期に来た時に、公正証書遺言を作成することで、費用は抑えることができます。
亡くなった後の家族関係を円満に保つためにも遺言書の作成をお勧めいたします。