(論点)遺産分割協議の前に特定しておくべきこと

2024年10月22日

遺産分割協議を円滑に進めるためには、まず「法定相続人の特定」と「遺産の特定」を正確に行うことが重要です。これらは、相続人間の争いを未然に防ぎ、法的なトラブルを避けるためにも不可欠な手続きです。それぞれについて詳しく解説していきます。

目次

1. 法定相続人の特定

2. 遺産の特定

3. 遺産分割協議を進めるために

4. 専門家のサポート

5. まとめ


1. 法定相続人の特定

 法定相続人の特定とは、相続に参加する権利を持つ人物を確定させる作業です。これは、相続の基盤となる重要なプロセスであり、全ての相続人が特定されていなければ、遺産分割協議が無効となる可能性があります。具体的には、被相続人(亡くなった方)が亡くなるまでに法的に認められた相続人を全て洗い出し、その相続人が誰であるかを確定することを指します。

1-1. 戸籍謄本の取得

 法定相続人を特定するためには、まず被相続人の戸籍謄本を取得する必要があります。日本の戸籍制度は、被相続人が生まれてから亡くなるまでの婚姻や離婚、子供の有無などが記録されているため、これを基に相続人を正確に特定できます。

 具体的な取得方法としては、被相続人が最後に住んでいた市区町村役場で「戸籍謄本」「除籍謄本」や「改製原戸籍」を申請します。これにより、現在確認できる子供以外に、婚姻関係外で生まれた子供がいるかどうか、また過去に養子縁組があったかなどの情報も把握できます。

1-2. 法定相続人の範囲

民法では、相続人の範囲が以下のように定められています。

配偶者(常に相続人となる)

子供(第一順位)

子供がいない場合、被相続人の父母(第二順位)

子供も父母もいない場合、被相続人の兄弟姉妹(第三順位)

 ただし、相続に関しては「代襲相続」という制度もあり、相続人が既に亡くなっている場合、その子供や孫が相続権を持つことがあります。この点も、戸籍謄本で確認が必要です。

2. 遺産の特定

 法定相続人が確定した後は、相続財産を特定する必要があります。これは、どの財産が遺産に含まれるかを明確にし、相続人がそれぞれ何を受け取るかを決定するための基礎となります。遺産には、不動産や金融資産、動産、負債などが含まれます。

2-1. 金融資産の確認

 まず、金融機関における取引口座の残高証明書を取得することが重要です。被相続人がどの金融機関と取引をしていたかを確認するためには、過去の通帳やクレジットカードの利用履歴、口座引き落としの明細などを手がかりに、該当する金融機関に残高証明書を請求します。

 残高証明書は、相続開始日時点での預貯金残高を証明する書類であり、遺産分割協議における重要な資料となります。また、被相続人が株式や投資信託を保有していた場合は、証券会社に口座の明細書や評価証明を依頼する必要があります。

 さらに、生命保険金や退職金の有無も確認が必要です。これらは、相続財産としてではなく、保険金受取人に直接支払われるものですが、相続税の課税対象となるため、遺産分割に影響を与える可能性があります。

2-2. 不動産の確認

 次に、不動産については、固定資産税評価証明書を取得する必要があります。この証明書は、市町村役場で取得でき、相続財産に含まれる不動産の評価額を確認する際に使用します。

 また、登記簿謄本も確認しましょう。登記簿謄本を確認することで、被相続人名義の不動産がどこにあり、どのような権利が付いているかを把握できます。特に、抵当権や地上権が設定されている場合、相続後の財産処理に影響を与えるため、事前に確認しておくことが重要です。

2-3. 負債の確認

 遺産には、資産だけでなく負債も含まれます。負債の確認を怠ると、相続後に思わぬ負債が発覚し、相続人が困ることになります。被相続人がどのような借入れをしていたかを確認するために、銀行や消費者金融、クレジット会社からの借入れ状況を調査しましょう。

 また、住宅ローンが残っている場合は、団体信用生命保険に加入していたかを確認します。この保険に加入していた場合、被相続人が亡くなった時点でローンの残高が保険によって清算されることがあります。

3. 遺産分割協議を進めるために

 これらの「法定相続人の特定」と「遺産の特定」が終わった段階で、ようやく遺産分割協議を進めることができます。相続人全員が揃って、相続財産をどのように分けるかを話し合い、合意が得られたら遺産分割協議書を作成します。この協議書には全ての相続人の署名と実印が必要です。

 もし相続人の間で意見が一致しない場合は、家庭裁判所での調停手続きや審判手続きに移行することになります。そのため、遺産分割協議を円滑に進めるためにも、相続開始前に遺言書を作成しておくことが望ましいと言えます。

4. 専門家のサポート

 相続の手続きは非常に煩雑であり、特に複数の不動産や金融資産、負債が絡む場合、専門家のサポートが必要になることがあります。司法書士や行政書士、税理士に相談し、遺産分割協議の進め方や法定相続人の特定、遺産の特定を適切に行うことが重要です。

 相続税申告が必要な場合、相続税の計算や申告についても税理士に依頼することができます。専門家のサポートを受けることで、相続手続きが円滑に進み、相続人間の争いを未然に防ぐことができるでしょう。

5. まとめ

 「法定相続人の特定」と「遺産の特定」は、遺産分割協議を進めるために不可欠なステップです。戸籍謄本や残高証明書、固定資産税評価証明書などを取得して正確に情報を集め、相続人全員が納得できる形で遺産を分割することが求められます。また、専門家のアドバイスを受けることで、複雑な手続きや法的リスクを避け、円滑な相続を実現することができます。

最新のブログ記事

令和7年5月14日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

相続登記の際、遺産分割協議書は非常に重要な書類となります。しかし、時折相談者から「やってもいない遺産分割協議についての協議書が送られてきた」といった疑問や不安の声が寄せられることがあります。このような場合、法令に違反している可能性もありますが、協議の認識に誤解がある場合も少なくありません。本稿では、遺産分割協議書が郵送された場合の対応方法や注意すべき点について、実際の事例を交えながら解説します。

相続が発生した際、遺産をどのように分割するかを決定するために、相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議書は、その合意内容を正式に書面で残すものであり、特に不動産の相続登記を行う際に必須の書類となります。しかし、この協議書の内容が不備であったり、相続人全員の同意が得られていない場合、後々のトラブルを招くことがあります。本稿では、遺産分割協議書を作成する際に注意すべき点について詳しく解説し、トラブルを未然に防ぐための対策を考察します。

相続が発生した際、不動産の所有権移転を行うためには、相続登記を行う必要があります。一般的な相続登記では、父親が死亡し、配偶者と子供が相続人となるケースがよく見られます。この際に必要となる添付書類は、法定相続分による登記と、二次相続対策として子供に所有権を移転する場合で異なります。特に二次相続に備えるための所有権移転には慎重な準備が必要です。本稿では、それぞれのケースでの必要な書類を整理し、どのように進めるべきかを解説します。

<