相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
令和6年4月1日相続登記義務化(遺産分割協議で財産をもらわなかったので相続放棄した?)

相談者の中で「相続放棄をしたから、債務は私には来ませんよね。先生。」とおっしゃられる方がいます。私が「家庭裁判所に相続放棄申述書を出されたんですか?」と尋ねると、出していないと答えられ、「遺産分割協議で遺産をもらわなかったから、相続放棄した。」と言ってました。これって相続放棄なのでしょうか?
目次
1.遺産分割前の相続財産についての法律関係
2.相続財産の遺産分割についての関連判例
3.遺産分割の効力
4.まとめ
1.遺産分割前の相続財産についての法律関係
相続財産の個々の財産の上に持ち分がある状態です。(共有と同じ状態)そして、遺産分割前におけるその持分の譲渡は有効となります。ですので、不動産の相続登記を法定相続分で行う場合には、遺産分割協議書と印鑑証明書を求められてはいません。
それでは、被相続人の債権(貸金など)・債務(借金など)は、どのようになるのでしょうか?これは、各相続人に当然に分割されます。この部分が、今回の議論の上で考慮しなければならない箇所になります。それでは、具体的にみていきましょう。

2.相続財産の遺産分割についての関連判例
①最判昭29.4.8:金銭債権
金銭債権(被相続人の貸金など)について、当然に分割される。つまり遺産分割の対象とはならないとあります。
他の財産の遺産分割前でも債務者にその相続分に相当する金銭の支払いを求めることができるということになります。
※ただし、これをしてしまうと、単純承認となり相続放棄はできなくなりますので、相続放棄を考えている場合には、請求してはいけません。
➁最判平4.4.10:金銭

金銭(現金・預金)について、当然には分割されない。遺産分割前にその金銭を保管する相続人に他の共同相続人が自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできません。
※このために、金融機関は被相続人の預金を凍結するわけです。
③最判昭52.9.19:特定不動産売却
共同相続人の全員の合意により遺産を構成する特定の不動産を第三者に売却した場合、その代金債権は、各相続人にその持分に応じて帰属し、各相続人は、遺産分割をすることなく、個々にこれを請求することができます。
なぜなら、特定の不動産(共有状態)のものを相続人全員の同意で売却し、①の金銭債権にしたため、分割前に各相続人の持ち分に応じた請求が可能になるわけです。
判例は、金銭・金銭債権といったプラスの財産についてその基準を示しています。
それでは、被相続人の債務はどう考えればいいのでしょうか?
3.遺産分割の効力
「民法909条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」
遺産分割協議がまとまれば、その内容で相続開始時にさかのぼって効力を生じます。しかし、この内容は、被相続人の債権者のような第三者の権利を害することはできません。
例えば、債務を長男が全部背負う代わりに、長男が財産を多くもらう遺産分割協議が成立したとします。この内容は、相続人全員の間では有効ですが、亡くなった父親の借金の債権者の権利は害せないと言っているのです。

「遺産分割協議で遺産をもらわなかったから、相続放棄した。」というのは、父親の借金の請求者の権利は害せないということになり、「相続放棄」ではないということになります。単に、相続人間で合意しただけの内容ということになります。
誤解されていた方もいたのではないでしょうか。
4.まとめ
①遺産分割前の金銭は当然には分割されない。
➁遺産分割前の金銭債権は当然に分割される。
③遺産分割協議で財産をもらわなくても、第三者の権利を害することはできないので「相続放棄」ではない。
以上です。注意していただきたいのは、遺産分割協議をして相続登記をした場合、自身の相続分を処分したものとみなされて、たとえ相続放棄を期間内に申述しても相続放棄はできなくなるので注意が必要です。必ず、相続放棄をしたい場合には、専門家のアドバイスを受けてください。



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