相続土地国庫帰属制度の最新統計を徹底分析|数字から見える日本の土地問題と今後の展望

2026年08月21日

令和5年4月にスタートした相続土地国庫帰属制度。

制度開始当初は「本当に利用されるのか」「審査が厳しすぎるのではないか」と様々な声がありました。

しかし、制度開始から約3年が経過し、法務省が公表する統計には、日本の土地問題を映し出す興味深い数字が並んでいます。

今回は令和8年5月31日時点の統計をもとに、

「どのくらい利用されているのか」

「どのような土地が申請されているのか」

「制度は実際に機能しているのか」

を数字から読み解いていきます。

目次

1.制度開始から約3年で5,545件の申請

2.申請は1日約5件のペース

3.申請の約4割が農地だった

4.宅地が35%を占める意外な結果

5.山林は思ったほど多くない

6.承認率は94%超という事実

7.国へ帰属した土地は2,600件を超えた

8.統計から見える今後の日本

9.司法書士として考える相続対策


1.制度開始から約3年で5,545件の申請

令和8年5月31日現在、累計申請件数は5,545件となっています。

制度開始日は令和5年4月27日ですから、およそ37か月で5,500件を超える申請が行われたことになります。

「国へ土地を返す制度」という特殊な制度であることを考えれば、決して少ない数字ではありません。

この数字は、日本全国で不要な土地に悩む相続人が相当数存在していることを示しています。

2.申請は毎月150件、毎日約5件

5,545件を37か月で割ると、

毎月約150件

となります。

さらに1日あたりでは約5件。

つまり、日本全国では毎日のように誰かが

「この土地を管理し続けることは難しい」

と判断し、国庫帰属制度を利用していることになります。

制度は決して一部の特殊なケースだけではなく、実務として定着し始めていることが分かります。

3.申請の約39%は農地

地目別では

  • 田・畑 2,169件(39.1%)
  • 宅地 1,916件(34.6%)
  • 山林 850件(15.3%)
  • その他 610件(11.0%)

となっています。

最も多いのは農地です。

約4割を占めています。

これは農業人口の減少を数字がそのまま表しています。

現在では子ども世代が都市部で生活し、農業を継がないケースが珍しくありません。

農地は売却にも制限があり、管理だけが残るため、国庫帰属制度のニーズが高くなっていると考えられます。

4.宅地が35%を占める意外な結果

もっとも驚くべき数字は宅地です。

宅地は1,916件。

全体の34.6%を占めています。

「宅地なら売れるのではないか」

そう思われる方も多いでしょう。

しかし実際には、

  • 地方の空き家跡地
  • 接道条件が悪い土地
  • 市街化調整区域
  • 人口減少地域

など、市場価値が低い宅地が多数存在します。

つまり、

「宅地=資産」

という時代は終わりつつあることが、この数字から読み取れます。

5.山林は意外にも15%しかない

山林は850件。

割合では15.3%です。

山林の方が不要土地として多い印象がありますが、実際には宅地の半分以下です。

これは、

  • 境界が不明
  • 崩落の危険
  • 管理道路

などの問題を抱える山林が多く、制度の対象になりにくいことも一因と考えられます。

つまり、

「返したくても返せない山林」

が一定数存在している可能性があります。

6.承認率は94%を超える

制度開始当初、

「ほとんど認められない制度ではないか」

という意見もありました。

しかし統計を見ると印象は変わります。

却下件数

80件

不承認件数

82件

合計162件です。

処分済み案件に対する割合を計算すると、

承認率は約94%

になります。

つまり、

制度要件を理解し、適切に申請された案件については、高い割合で認められていることが分かります。

「厳しい制度」というより、

「要件が明確な制度」

と考えた方が実態に近いでしょう。

審査終了案件に対する承認率:約94% 申請すればだれでも通るというわけではありません。

7.国へ帰属した土地は2,600件を超えた

実際に国庫へ帰属した土地は約2,600件となっています。

一方、

申請件数は5,545件です。

約半数しか帰属していないように見えますが、これは誤解です。

申請から承認までは数か月から1年以上かかる案件もあります。

現在審査中の案件が多数存在するため、

「帰属率が低い」

という意味ではありません。

統計を見る際には、この時間差も考慮する必要があります。

8.数字から見える日本の未来

今回の統計で最も印象的なのは、

不要土地が確実に増えているという現実です。

特に、

農地39%

宅地35%

この二つだけで全体の約74%を占めています。

つまり、

多くの相続人が困っているのは、

「山奥の土地」

ではなく、

生活に身近な土地なのです。

人口減少、高齢化、地方の空洞化が続く中、この傾向は今後さらに強まると考えられます。

相続登記義務化によって土地の所有者が明確になればなるほど、

「管理できない土地」

も表面化していくでしょう。

9.司法書士として考える相続対策

今回の統計は、

単なる制度利用状況ではありません。

これからの相続対策の方向性を示しています。

制度があるから安心なのではなく、

制度を利用しなくても済むような生前対策が重要です。

例えば、

  • 不要土地は元気なうちに売却を検討する
  • 相続人間で土地利用について話し合う
  • 遺言書で承継方法を明確にする
  • 相続登記を早めに済ませる
  • 利用予定のない土地は専門家へ相談する

こうした準備が、将来の大きな負担を減らします。

まとめ

法務省の統計から見えてくるのは、「不要な土地」が特殊な問題ではなく、日本社会全体が直面している課題であるということです。

制度開始から約3年で5,545件の申請があり、毎日約5件のペースで利用されています。申請の約4割は農地、約3分の1は宅地であり、承認率も約94%と高い水準にあります。

これらの数字は、相続土地国庫帰属制度が着実に利用されていることを示す一方で、人口減少や高齢化によって「土地を引き継ぐこと」よりも「土地をどう管理し、どう手放すか」が重要な時代になっていることを物語っています。

相続土地国庫帰属制度は最後の選択肢の一つです。しかし、本当に大切なのは、生前から土地の将来を見据えた対策を講じることです。数字を正しく読み解くことは、これからの相続対策を考える第一歩になるでしょう。

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