(論点)相続における「特別受益」、「持ち戻し」と「遺留分」の関係について

2024年06月21日

相続において特別受益と持ち戻し、遺言書による持ち戻しの免除と遺留分に関する事項は、法的に重要なテーマであり、家族内の公平性を保つために多くの配慮がなされる分野です。以下に、それぞれの概念と関連事項を説明します。

目次

1.特別受益と持ち戻し

2.持ち戻しの具体的な計算方法

3.遺言書による持ち戻しの免除

4.遺留分と持ち戻し免除の関係

5.遺留分侵害額請求の手続き

6.まとめ


1.特別受益と持ち戻し

(1)特別受益とは

 特別受益(とくべつじゅえき)とは、被相続人(亡くなった人)が相続人に生前贈与した財産や、相続開始前に特別に利益を受けた場合のことを指します。典型的な例には、結婚資金や住宅購入資金の援助、事業の立ち上げ資金などがあります。これらの贈与は、他の相続人と比較して特定の相続人が過度の利益を得ているとみなされるため、相続分の計算において考慮される必要があります。

(2)持ち戻しとは

 持ち戻し(もちもどし)とは、特別受益を受けた相続人が相続財産を公平に分配するために、その受益額を相続財産に加算する手続きです。これにより、全相続財産の総額を算定し、その上で各相続人の相続分を決定します。

 たとえば、被相続人が死亡時に残していた財産が1000万円で、生前に特定の相続人に300万円の贈与をしていた場合、相続財産は1300万円とみなされます。これを各相続人の法定相続分に基づいて分配します。

 持ち戻しを行う理由は、相続財産の公平な分配を図るためです。特別受益を考慮せずに遺産分割を行うと、生前贈与を受けた相続人が不当に多くの財産を手にすることになり、他の相続人にとって不公平になる可能性があります。

2.持ち戻しの具体的な計算方法

 持ち戻しは、特別受益を受けた時点での価額を基準に行われます。特別受益が持ち戻しされる際の価額は、相続開始時点での評価額を基準とし、特別受益を受けた相続人の相続分から控除します。

3.遺言書による持ち戻しの免除

(1)持ち戻し免除とは

 被相続人は遺言書を通じて、特定の相続人に対する特別受益の持ち戻しを免除することができます。これは、被相続人が特定の相続人に対して特別な事情や感情的な理由がある場合に、他の相続人の了承を得ることなく行うことが可能です。例えば、特定の相続人が被相続人の介護を行ったり、経済的な援助をしていた場合などに、持ち戻しを免除することでその相続人の貢献を認める形になります。

(2)持ち戻し免除の効果

 持ち戻し免除の効果は、免除を受けた相続人が、特別受益を受けた分を相続財産に加算せずに相続できることを意味します。これにより、他の相続人と比較してより多くの財産を得ることが可能になります。

 例えば、前述の例で、特定の相続人が300万円の特別受益を受けていた場合でも、遺言書で持ち戻しが免除されていると、その300万円は相続財産に加算されず、生前贈与を受けた300万円の財産については、遺産に持ち戻す必要が無くなります。

4.遺留分と持ち戻し免除の関係

(1)遺留分とは

 遺留分(いりゅうぶん)とは、相続人が最低限保障される相続財産の割合を指します。遺留分は、相続人が被相続人の意思に反して財産を全く受け取れない事態を防ぐための制度です。通常、直系尊属(親)や子、配偶者などが遺留分権利者となります。

 遺留分の割合は法定相続分の半分または3分の1(直系尊属のみが相続人の場合)であり、これにより相続人が最低限保障されるべき財産を確保します。ほとんどの場合が、その割合は、法定相続分の2分の1となります。

(2)遺留分に対する持ち戻し免除の影響

 持ち戻し免除が遺留分に及ぼす影響は、複雑です。遺留分は相続財産の公平な分配を保障するため、持ち戻し免除が遺留分権利者の権利を侵害する場合があります。例えば、特定の相続人に対して多額の特別受益があり、その持ち戻しが免除されると、他の相続人の遺留分が侵害される可能性があるのです。

 この場合、遺留分権利者は遺留分侵害額請求権の行使を行うことができます。遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害する範囲内で遺産をもらった相続人に対して請求を行います。この請求は、裁判上でも裁判外でも構いません。つまり、口頭での請求でも効力はありますが、後にもめたときの訴訟の対策として、書面で作成し内容証明郵便で意思表示することをお勧めいたします。請求の結果、遺留分を認めたり、裁判で認められた場合、民法改正前は、財産の返還でしたが、改正後は、金銭的な補償を求める手続きとなりました。

5.遺留分侵害額請求の手続き

 遺留分侵害額請求は、相続開始後に遺留分権利者が家庭裁判所に対して行います。この手続きにより、遺留分を侵害された相続人は、正当な相続分を取り戻すことができます。請求には時効があり、改正民法第1048条は,遺留分侵害額請求権の時効について,「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。 相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」となっています。

6.まとめ

 相続における特別受益と持ち戻し、遺言書による持ち戻しの免除、そして遺留分の関係は、相続人間の公平性を保つために重要な要素です。特別受益の持ち戻しは相続財産の分配を公平にするために必要な手続きですが、被相続人の意思により持ち戻しが免除される場合もあります。この場合、遺留分権利者の権利を保護するための制度が整備されており、遺留分侵害額請求によって最低限の相続分が保障されています。これらの制度は、相続において被相続人の意思と相続人の権利のバランスを保つために重要な役割を果たしています。

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