(論点)自筆証書遺言書保管制度について詳しく解説

2024年11月27日

自筆証書遺言を活用した相続手続きにおいて、従来は遺言書の保管や偽造・紛失を防ぐための対策が課題とされていました。そこで、2020年7月から導入されたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。この制度により、法務局が遺言書を保管し、検認手続きを経ずに遺言書を相続手続きに使用できるようになり、手続きが大幅に簡略化されました。以下では、法務局への自筆証書遺言書保管制度の手続き方法やメリットについて詳しく解説します。

目次

1. 自筆証書遺言書保管制度の概要

2. 自筆証書遺言書保管制度の利用手続き

3. 相続発生後の手続き

4. 保管制度を利用する際の注意点

5. まとめ


1. 自筆証書遺言書保管制度の概要

 自筆証書遺言書保管制度は、遺言者が自分で作成した遺言書を法務局で安全に保管するための制度です。遺言書を法務局に預けておくことで、偽造や改ざん、紛失のリスクを防ぎ、相続発生後のトラブルを回避できます。また、この制度を利用すれば、遺言書に対する家庭裁判所の検認手続きが不要となり、遺言の内容を迅速に執行することが可能になります。

2. 自筆証書遺言書保管制度の利用手続き

 この制度を利用するには、いくつかの手続きを踏む必要があります。具体的な流れは以下の通りです。

(1)保管申請の準備

自筆証書遺言書を法務局に保管してもらうためには、遺言者が以下の準備を行う必要があります。

遺言書の作成:自筆証書遺言書保管制度を利用するためには、遺言書を自筆で作成する必要があります。遺言書は、民法の規定に基づいて全文を遺言者自身が手書きし、日付と署名を記載し、押印することが求められます。

必要書類の準備:遺言書保管のために法務局へ提出する書類を準備します。基本的には、遺言書そのものと本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)が必要です。

(2)法務局への保管申請

遺言書を保管してもらうには、遺言者が法務局に対して保管申請を行います。具体的な申請手続きは以下の通りです。

申請場所:自筆証書遺言書保管制度の申請は、遺言者の住所地、もしくは本籍地の法務局で行います。どこの法務局でも受け付けているわけではなく、対応している法務局に事前予約をして出向く必要があります。

本人が出頭する必要あり:保管の申請は、必ず遺言者本人が法務局に出向いて行う必要があります。代理人による申請は認められていないため、本人確認が厳格に行われます。また、郵送での申請も不可です。遺言者の意思を確認し、本人が遺言書を提出することが、この制度の信頼性を高めています。

保管の手数料:法務局に遺言書を保管する際には、手数料がかかります。2024年現在、手数料は3,900円とされています。この手数料は保管申請時に支払います。

(3)保管証の発行

法務局にて遺言書の保管が完了すると、「保管証」が遺言者に発行されます。保管証は、遺言書が法務局に安全に保管されている証拠となり、遺言者が将来必要な場合に保管状況を確認できる重要な書類です。

3. 相続発生後の手続き

 遺言者が亡くなった後、相続人は遺言書の存在を確認し、必要な手続きを進めることができます。自筆証書遺言書保管制度を利用している場合、相続人は検認手続きが不要で、遺言書に基づいて速やかに相続登記などの手続きに移ることができます。

(1)遺言書情報証明書の請求

相続人は遺言者の死亡後、法務局から「遺言書情報証明書」を請求することができます。この証明書は、遺言書の内容を法務局が証明するもので、相続手続きにおいて法的に有効な証拠として使用することが可能です。遺言書情報証明書の請求には、相続人であることを証明するための戸籍謄本などの書類が必要です。

(2)検認手続き不要のメリット

従来の自筆証書遺言では、家庭裁判所の検認手続きを経なければならず、この手続きが完了するまで遺言書の内容を執行することができませんでした。しかし、法務局に保管された自筆証書遺言の場合、検認手続きが不要となるため、手続きが迅速に進むという大きなメリットがあります。これにより、相続人間の争いを未然に防ぎ、スムーズな相続手続きが可能となります。

4. 保管制度を利用する際の注意点

 自筆証書遺言書保管制度を利用する際には、いくつかの注意点があります。

①遺言書の訂正や変更

一度法務局に保管した遺言書を訂正や変更したい場合は、遺言者が新たな遺言書を作成し、再度保管申請を行う必要があります。法務局では遺言書の内容を直接訂正することはできないため、訂正が必要な場合は、新しい遺言書を作成する必要があります。

➁遺言書の撤回

遺言者は、生前であればいつでも法務局に保管されている遺言書を撤回することができます。撤回を希望する場合は、遺言者本人が法務局に出向き、撤回申請を行います。撤回が完了した場合、その遺言書は無効となり、新たに遺言書を作成するかどうかは遺言者の自由です。

③保管されていない遺言書の扱い

遺言者が法務局に保管していない自筆証書遺言書を残していた場合、従来通り家庭裁判所での検認手続きが必要です。このため、法務局での保管制度を利用する場合は、遺言書の保管状況を相続人に事前に伝えておくことが重要です。

5. まとめ

 自筆証書遺言書保管制度は、遺言書の安全な保管と相続手続きの簡略化を実現する有効な制度です。遺言者が法務局に遺言書を保管することで、検認手続きが不要になり、相続人にとってスムーズな相続手続きを進めることができます。また、遺言書の紛失や偽造のリスクを防ぐことができるため、遺言者にとっても安心できる制度です。制度を利用するためには、法務局への出頭や手数料の支払いが必要ですが、相続手続きの円滑化を考えると非常に有益な選択肢と言えるでしょう。

最新のブログ記事

令和6年12月18日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

司法書士試験に合格するためには、効果的な学習方法と徹底的な準備が必要です。私が合格する前年と合格年度に実施した学習法は、時間の使い方と効率的な復習を重視し、最終的には「回す道具」を整えることに集中しました。この学習法は、学習のインプットだけでなく、アウトプットを通じて知識を定着させることに焦点を当てたものです。

明治31年(1898年)7月16日から昭和25年(1950年)5月2日までの間における相続制度は、旧民法(明治民法)によって規定されていました。特に、この時代の相続制度は「家督相続」と「遺産相続」という2つの異なる制度が存在しており、家制度(家族制度)に基づく相続形態が特徴的です。

<