相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
相続問題の本当の原因は財産ではない? 司法書士が考える「境界線(バウンダリー)」という視点【第1回】

相続問題の原因は財産の多さだけではありません。司法書士として多くの相談に携わる中で感じるのは、家族の役割や責任、財産の管理についての「境界線(バウンダリー)」が曖昧な家庭ほど、相続時に感情的な対立が起こりやすいということです。本記事では、法律だけでは語れない相続問題の背景について、「境界線」という視点から考えてみます。
「うちは財産が少ないから揉めません。」
相続相談の場で、私はこの言葉を何度も耳にしてきました。
しかし、実際には数百万円の相続で深刻な争いになることもあれば、多額の財産があっても円満に手続きが終わるご家族もあります。
では、その違いは何なのでしょうか。
もちろん、相続問題の原因は一つではありません。
家族の歴史、感情、価値観、コミュニケーション、介護への関わり方など、さまざまな要素が絡み合っています。
その中でも、私が司法書士として長年相談を受ける中で感じていることがあります。
それは、「家族の境界線(バウンダリー)」が曖昧なご家庭ほど、相続問題が複雑になりやすいということです。
今回は、法律論だけではなく、家族の関係性という視点から相続問題を考えてみたいと思います。
目次
- 相続問題は財産だけが原因ではない
- 「境界線(バウンダリー)」とは何か
- 相続を自分事として考えられない理由
- 境界線が曖昧な家族で起こりやすいこと
- 生前対策とは家族の関係性を整えること
1.相続問題は財産だけが原因ではない

一般的には、「財産が多いほど相続でも揉める」と考えられています。
しかし、司法書士として多くの相続相談を受けてきた経験からすると、それだけでは説明できない場面を数多く見てきました。
財産の金額よりも、長年積み重ねてきた家族の関係性が、相続という場面で一気に表面化することがあります。
相続は、亡くなった日から突然始まる問題ではありません。
親子関係や兄弟関係、介護への関わり方、家族の役割分担など、それまでの積み重ねが相続の場面で現れることが少なくありません。
だからこそ、相続問題を考えるときには、法律だけでなく「家族の関係性」という視点も欠かせないと私は考えています。
2.「境界線(バウンダリー)」とは何か

心理学には「バウンダリー(Boundary)」という考え方があります。
日本語では「境界線」と訳されます。
これは、「誰の問題なのか」「誰が決めることなのか」「誰が責任を負うのか」を区別する考え方です。
例えば、
- 親のお金は親のお金
- 子どもの人生は子どもの人生
- 介護をしたことと相続権は別の問題
- 親の意思は親自身が決めるもの
こうした線引きが明確であるほど、お互いを尊重した関係を築きやすくなります。
一方で、この境界線が曖昧になると、「家族だから」という言葉のもとに、本来は話し合うべきことが曖昧なまま先送りされてしまいます。
3.相続を自分事として考えられない理由

私が相談の中で感じることがあります。
それは、多くの方が相続を「まだ先の話」「誰かがやってくれること」と考えてしまうことです。
親が元気だから大丈夫。
長男が何とかしてくれるだろう。
兄弟が話をまとめるだろう。
自分には関係ない。
その気持ちは決して特別なものではありません。
誰しも、できれば相続という出来事は先送りしたいものです。
しかし、相続人になれば、誰もが権利者であると同時に、手続きに関わる当事者でもあります。
私は、この「自分も当事者である」という意識が十分に育っていないことが、相続問題を複雑にする一因ではないかと感じています。
これは、単に知識が不足しているという話ではありません。
相続という現実に向き合うことへの心理的な抵抗や、「できれば考えたくない」という感情が影響していることも多いのです。
4.境界線が曖昧な家族で起こりやすいこと

境界線が曖昧な家族では、さまざまな誤解が生まれます。
「親のお金だから自由に使っていい。」
「介護したのだから多くもらって当然。」
「長男だから全部やるべき。」
「家族だから説明はいらない。」
どれも、明確なルールではなく、長年の思い込みや慣習から生まれた考え方です。
もちろん、その考え方自体が間違いだというわけではありません。
しかし、それを家族全員が共有していなければ、相続が始まった瞬間に認識の違いが表面化します。
その結果、争っているのは財産ではなく、「今まで我慢してきた気持ち」や「理解してもらえなかった思い」になってしまうのです。
5.生前対策とは家族の関係性を整えること

生前対策というと、遺言書や相続税対策を思い浮かべる方が多いでしょう。
もちろん、それらは非常に重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
私は、生前対策とは家族が相続を「自分事」として考え、お互いの役割や責任について話し合える環境をつくることでもあると思っています。
感情があるから難しい。
家族だから言いにくい。
だからこそ、生前に少しずつ対話を重ねることが大切なのです。
相続対策とは、書類を作ることだけではありません。
家族が健全な関係を築き、お互いを尊重しながら将来について話し合える状態をつくることも、大切な相続対策ではないでしょうか。
次回は、司法書士として実際に感じてきた「相続で揉める家族に共通する境界線の崩れ」について、さらに具体的に考えてみたいと思います。

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