相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
生前対策は「手続き」だけではない――司法書士・行政書士が考える、本当の生前対策

「生前対策をしておきたいのですが、何をすればいいですか?」
司法書士・行政書士として、こうしたご相談を受けることがあります。
そのとき、多くの方が思い浮かべるのは、遺言書や家族信託、任意後見、生前贈与などではないでしょうか。
もちろん、これらは大切な生前対策です。
司法書士・行政書士という立場から考えれば、生前対策の中心には「手続き」があります。
しかし、相続や生前対策の相談を長く受けていると、それだけでは十分ではないと感じることがあります。
なぜなら、手続きをするのは「人」であり、その手続きを受け取るのも「人」だからです。
そして、相続の場面で問題になることがあるのが、家族の人間関係です。
財産が多いから揉めるとは限りません。
むしろ、自宅と預金が少しある程度の家庭でも、長年の感情や家族関係が相続をきっかけに表面化することがあります。
今回から5回にわたり、「生前対策は手続きだけではない」という視点から、認知症対策、相続対策、家族とのコミュニケーション、エンディングノートや遺言書について考えていきます。
目次
- 生前対策は「手続き」から始まる
- 生前対策は大きく「認知症対策」と「相続対策」
- 手続きだけでは見えない「人間関係」
- 「財産が少ないから大丈夫」は本当か
- 生前対策で本当に大切なこと
1.生前対策は「手続き」から始まる

司法書士・行政書士として生前対策を考えた場合、まず頭に浮かぶのは法律上の手続きです。
たとえば、
- 遺言書を作成する
- 家族信託を検討する
- 任意後見制度を利用する
- 不動産の名義や財産を整理する
- 相続人を確認する
- 生前贈与を検討する
- 財産の管理方法を考える
などがあります。
これらは、将来起こる可能性のある問題に備えるための重要な方法です。
特に近年は、認知症などによって判断能力が低下した場合に備える「認知症対策」と、亡くなった後の財産の承継を考える「相続対策」の重要性が高まっています。
しかし、ここで一つ考えてほしいことがあります。
「手続きを整えれば、生前対策は終わりなのでしょうか?」
私は、そうではないと考えています。
2.生前対策は「認知症対策」と「相続対策」だけではない

生前対策を大きく分けると、私は「認知症対策」と「相続対策」の2つが中心になると考えています。
認知症対策とは、判断能力が十分にあるうちに、将来の財産管理や生活について考えておくことです。
一方、相続対策とは、自分が亡くなった後、家族が財産をどのように引き継ぐのか、どのような手続きが必要になるのかを考えておくことです。
ところが、実際の相続では、もう一つ重要な要素があります。
それが、
「人間関係」です。
3.手続きだけでは見えない「人間関係」

相続の相談を受けていると、「今まで何も問題がなかったから大丈夫」と考えている方に出会うことがあります。
しかし、「今まで何もなかった」ことと、「これからも何も起こらない」ことは同じではありません。
たとえば、前婚の配偶者との間に子どもがいるケース。
離婚してから一度も会っていない。
あるいは、本人とはほとんど付き合いがなく、亡くなった方を通してだけつながっていた。
このような場合、相続が発生して初めて、これまで存在していた家族関係の距離が問題になることがあります。
相続では、法律上の相続人全員が関係します。
「妹は嫁に出ているから関係ない」という話を聞くこともありますが、婚姻しているかどうかにかかわらず、法律上の相続人であれば、相続手続きに関わることになります。
つまり、家族の中で「自分には関係ない」と思っていた人が、相続が始まった途端に当事者になることがあるのです。
4.「財産が少ないから大丈夫」は本当か

「うちは財産が少ないから、相続で揉めることはないでしょう」
そう考える方も少なくありません。
しかし、相続トラブルは、必ずしも財産の多さだけで決まるものではありません。
自宅と預金が少しある程度で、相続税の基礎控除の範囲内に収まるような家庭でも、相続人同士の関係によって話し合いが難しくなることがあります。
たとえば、父親の相続の際には、家族が揉めないように財産を配分した。
母親には不動産と預金の一部、長男には預金の一部、妹には遺留分を意識した現金を渡した。
ところが、その後に母親の相続が発生すると、「母親の財産の半分は自分がもらう」と主張する。
なぜ、そのようなことが起こったのでしょうか。
父親の相続のときに生じたわだかまりが残っていたのかもしれません。
しかし、それは外からは分かりません。
本当の理由は、本人の心の中にしかないからです。
だからこそ、手続きだけを見ていては、本当の問題が見えないことがあります。
5.生前対策で本当に大切なこと

では、どうすればいいのでしょうか。
私は、相談者の方に、
「お盆に息子さん、帰ってくるんでしょう? 一度、話し合ってみてください」
とお伝えすることがあります。
相続が発生すれば、残された相続人が遺産分割について話し合うことになります。
そのとき、
「そういえば親父、この間、○○にしてほしいと言っていたよな」
という言葉が出てくれば、生前の本人の想いが、残された家族の話し合いの中に引き継がれます。
反対に、何も話していなければ、それぞれの「私はこう思う」という気持ちが話し合いの中心になってしまうことがあります。
だからこそ、元気なうちに話しておくことが大切なのです。
ただ、「相続について話し合いましょう」と言われても、何を話せばいいのか分からない方も多いでしょう。
そこで役立つのが、エンディングノートなどを使って、まず自分自身の希望を整理することです。
「自分は家族に何を望んでいるのか」
「財産をどうしてほしいのか」
「介護が必要になったらどうしたいのか」
「認知症になった場合、誰に頼りたいのか」
「自分が亡くなった後、家族にどうしてほしいのか」
こうしたことを自分自身で考えておかなければ、家族に伝えることもできません。
生前対策は、書類を作ることだけではありません。
自分の未来を考え、家族の未来を考え、そして自分の想いを家族につなぐ。
そのための準備まで含めて、私は「未来設計」と考えています。
次回は、生前対策の二つの柱の一つである「認知症対策」について、なぜ元気なうちに考えておく必要があるのかを考えていきます。
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