相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
「健全化」という視点で考える相続④ 不動産の健全化 ――「持っていること」が、本当に「資産」なのでしょうか

「この土地は、先祖代々受け継いできた大切な土地です。」
「この家は、親が一生懸命働いて建てた家だから、子どもに残したい。」
不動産には、預貯金とは違った意味があります。
そこには家族の思い出があり、先祖から受け継いできた歴史があり、長年暮らしてきた地域とのつながりがあります。
だからこそ、
「できるだけ子どもに残してあげたい」
と考えるのは、ごく自然なことです。
しかし、一方で、相続した不動産が次の世代にとって「負担」になってしまうことがあります。
誰も住まない実家。
遠方にある土地。
売却したくても買い手が見つからない土地。
兄弟で共有している不動産。
何代も相続登記がされていない土地。
管理する人が決まっていない空き家。
親にとっては大切な財産でも、子どもにとっては、
「どうしたらいいかわからない不動産」
になってしまうことがあります。
だからこそ、相続を考えるときには、
「何を残すか」だけではなく、「どのような状態で残すのか」
という視点が必要です。
それが、今回考えたい**「不動産の健全化」**です。
目次
- 不動産は「持っているだけ」で資産なのか
- 相続した実家が「負動産」になるとき
- 「残したい」という親の思いと、子どもの現実
- 共有不動産が家族の問題になる理由
- 不動産の健全化とは何か
- 元気なうちに考えておきたい不動産のこと
- まとめ――不動産を「残す」のではなく「つなぐ」
1.不動産は「持っているだけ」で資産なのか

「土地を持っている」
「家を持っている」
と聞くと、多くの人は「資産を持っている」と考えます。
確かに、不動産には経済的な価値があります。
しかし、相続を考えるときには、もう一つの視点が必要です。
それは、
「その不動産を、次の世代がどう使うのか」
という視点です。
例えば、親が地方に自宅を所有していたとします。
子どもは県外で暮らしていて、戻ってくる予定はありません。
親が亡くなれば、その家は子どもが相続することになります。
しかし、
- 誰も住まない
- 売却する予定もない
- 賃貸にもできない
- 管理する人がいない
- 固定資産税がかかる
- 草刈りや修繕が必要になる
という状態なら、その不動産は「資産」であると同時に「負担」になる可能性があります。
つまり、
不動産の価値は、金額だけでは決まらない。
ということです。
「いくらの土地なのか」だけではなく、
「誰が使うのか」
「誰が管理するのか」
「将来どうするのか」
まで考えて、初めてその不動産の本当の姿が見えてきます。
2.相続した実家が「負動産」になるとき

最近、「負動産」という言葉を目にすることがあります。
これは、一般的には、所有していることで維持管理費や税金などの負担が生じる一方、売却や活用が難しい不動産を指して使われる言葉です。
典型的なのが、相続した実家です。
例えば、
「親が亡くなったので実家を相続した。でも、自分は東京に住んでいる。」
というケース。
最初は、
「いつか帰るかもしれない」
と思って、そのままにしておく。
ところが、時間が経つにつれて、
- 建物が老朽化する
- 庭が荒れる
- 郵便物がたまる
- 管理の手間が増える
- 近隣から相談を受ける
- 修繕費が必要になる
など、さまざまな問題が出てくることがあります。
そして、いざ売却しようとしたときには、
「境界がはっきりしない」
「相続登記ができていない」
「共有者がいる」
「建物が古すぎる」
「買い手が見つからない」
など、新たな問題が発覚することもあります。
だからこそ、
不動産の問題は、「相続が発生してから考える」のではなく、「相続が発生する前から考えておく」ことが重要です。
3.「残したい」という親の思いと、子どもの現実
不動産には、親の思いが込められています。
「この家は、お父さんとお母さんが建てた家だから。」
「この土地は、祖父母から受け継いだ土地だから。」
「できれば、子どもに残してほしい。」
こうした思いは、とても大切なものです。
しかし、子どもの側には、子どもの人生があります。
仕事の都合で遠方に住んでいるかもしれません。
すでに自分の家を持っているかもしれません。
親の家を管理する時間がないかもしれません。
兄弟姉妹それぞれに家庭があり、誰か一人だけが管理することが難しい場合もあります。
ここで大切なのは、
「親が残したいもの」と「子どもが受け取りたいもの」が一致しているか
を確認することです。
これは、親の思いを否定することではありません。
むしろ、
大切なものだからこそ、次の世代が困らない形にして渡す。
という考え方です。
家を残すことが目的なのではなく、
その家に込められた思いを、どのような形で次の世代につなぐのか。
そこまで考えることが、不動産の相続対策では大切なのです。
4.共有不動産が家族の問題になる理由

不動産相続でもう一つ注意したいのが「共有」です。
例えば、親の自宅を、
「兄弟で仲良く半分ずつ相続すればいい。」
という考え方があります。
一見すると公平です。
しかし、その後、
「売るのか」
「誰かが住むのか」
「賃貸にするのか」
「修繕するのか」
「誰が管理するのか」
といった問題が発生します。
兄は、
「売って現金にしたい。」
弟は、
「思い出の家だから残したい。」
姉は、
「私は遠方だから管理できない。」
ということになるかもしれません。
最初は仲の良かった兄弟でも、意思決定が必要になるたびに意見が対立することがあります。
つまり、
共有は、相続時点では公平に見えても、将来の意思決定を難しくする場合があります。
もちろん、共有そのものが悪いわけではありません。
大切なのは、
「共有にした後、誰がどのように管理し、将来どうするのか」
まで考えておくことです。
5.不動産の健全化とは何か

では、「不動産の健全化」とは何でしょうか。
私は、
その不動産について、「誰が所有し、誰が管理し、どのように利用し、将来どうするのか」が整理されている状態
だと考えています。
例えば、
① 所有者が明確になっている
誰の名義なのか。
相続登記は適切にされているのか。
② 管理者が決まっている
誰が草刈りをするのか。
誰が修繕するのか。
誰が固定資産税などを負担するのか。
③ 利用方法が決まっている
住むのか。
貸すのか。
売るのか。
活用するのか。
④ 家族の意思が共有されている
本人はどうしたいのか。
子どもはどう考えているのか。
兄弟姉妹の意見はどうなのか。
⑤ 将来の出口が考えられている
「とりあえず相続する」
ではなく、
「5年後、10年後にはどうするのか」
まで考えておく。
こうして整理すると、不動産の健全化とは、
不動産そのものをきれいにすることではなく、不動産をめぐる「人・権利・利用・将来」を整理すること
だと分かります。
6.元気なうちに考えておきたい不動産のこと

では、具体的に何を確認すればよいのでしょうか。
まずは、難しい手続きの前に、ご家族で次のことを確認してみてください。
□ 自宅は誰が引き継ぐのか
今後も誰かが住む予定なのか。
□ 住む予定のない家はどうするのか
売却するのか、賃貸するのか、解体するのか。
□ 土地を誰が管理するのか
遠方に住む相続人が管理できるのか。
□ 不動産の名義はどうなっているのか
親名義なのか、祖父母名義のままになっていないか。
□ 境界や権利関係に問題はないか
いざ売却するときになって問題が発覚することがあります。
□ 共有にする必要が本当にあるのか
「平等だから共有」という考え方だけで決めないことも重要です。
□ 本人は、その不動産をどうしてほしいのか
最も大切なのは、所有者本人の意思です。
こうした確認は、相続が発生してからでは難しくなることがあります。
本人が元気なうちなら、
「この家はどうしたい?」
「この土地は誰かに使ってほしい?」
「売却しても構わない?」
と直接聞くことができます。
そして、本人の希望と子どもの希望が違うのであれば、元気なうちに話し合うことができます。
これもまた、「家族の健全化」につながる重要な作業です。
7.まとめ――不動産を「残す」のではなく「つなぐ」

不動産は、単なる財産ではありません。
そこには、
家族の歴史があります。
思い出があります。
先祖から受け継いだものがあります。
だからこそ、
「できるだけ残したい」
という思いが生まれます。
しかし、残すことだけを考えてしまうと、次の世代に大きな負担を残してしまうことがあります。
だからこそ、考えたいのです。
「この不動産を、次の世代にどのような状態で渡したいのか。」
使う予定があるなら、使える状態にしておく。
売却するなら、売却できる状態にしておく。
誰かが住むなら、その人が安心して住める状態にしておく。
残すのであれば、誰が管理するのかを決めておく。
そして、どうするか決められないのであれば、まず家族で話し合う。
それが、不動産を「健全化」するということなのではないでしょうか。
相続登記も大切です。
遺言書も大切です。
不動産の売却や活用も大切です。
しかし、それらはすべて手段です。
最も大切なのは、
「その不動産が、次の世代の人生にとってプラスになる状態をつくること」。
ではないでしょうか。
第1回では「相続対策の目的は節税ではない」と考えました。
第2回では「家族の健全化」。
第3回では「会社の健全化」。
そして今回は「不動産の健全化」です。
ここまで考えてくると、あることに気づきます。
相続を難しくしているのは、財産そのものだけではありません。
財産をめぐる「人と人との関係」が、大きな問題になることがある。
次回は、このシリーズの中でも特に重要なテーマ、
第5回「人間関係の健全化」
について考えます。
なぜ、家族は相続をきっかけに争ってしまうのでしょうか。
そして、相続が発生する前に、私たちは何ができるのでしょうか。
相続を「財産問題」だけではなく、**「人間関係の問題」として考えるところから、もう一段深い相続対策が見えてきます。
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