「健全化」という視点で考える相続⑥ 未来設計という考え方 ――「相続のために生きる」のではなく、「これからどう生きたいか」から考える

2026年09月30日

「相続対策をしなければ。」

そう思ったとき、最初に何を考えるでしょうか。

遺言書でしょうか。

相続税でしょうか。

不動産でしょうか。

預貯金でしょうか。

あるいは、子どもたちへの財産の分け方でしょうか。

もちろん、どれも大切です。

しかし、ここで一度、逆の順番で考えてみたいと思います。

「そもそも、これから自分はどんな人生を送りたいのか。」

例えば、

「できるだけ長く今の家で暮らしたい。」

「80歳になっても旅行を続けたい。」

「趣味を楽しみながら暮らしたい。」

「子どもには子どもの人生を歩んでほしい。」

「できるだけ家族に迷惑をかけたくない。」

「会社を次の世代に残したい。」

「先祖代々の土地を大切にしたい。」

「最後まで自分で決められる人生を送りたい。」

人によって、答えは違います。

そして、その「こうありたい」という未来によって、必要になる準備も変わってきます。

例えば、

「できるだけ長く自宅で暮らしたい」

のであれば、相続だけではなく、認知症への備えや財産管理、介護について考える必要があるかもしれません。

「会社を子どもに継いでもらいたい」

のであれば、事業承継や自社株式、家族との財産関係を考える必要があります。

「子どもたちに争ってほしくない」

のであれば、財産だけではなく、家族との対話や遺言について考える必要があります。

つまり、

必要な生前対策は、「どんな人生を送りたいのか」によって変わる。

これが、アイリスが考える「未来設計」という考え方の出発点です。

目次

  1. なぜ「相続対策」から始めると難しくなるのか
  2. 未来を決めるのは「財産」だけではない
  3. 「何を残すか」より「どう生きたいか」
  4. 未来設計から考えると、必要な対策が見えてくる
  5. 未来設計で整理したい5つのテーマ
  6. 未来設計は「計画」ではなく「選択肢」をつくること
  7. 一人で考えなくてもいい
  8. まとめ――未来を決めてから、対策を考える

1.なぜ「相続対策」から始めると難しくなるのか

「相続対策をしましょう。」

こう言われると、多くの方は、

「まだ先の話でしょう。」

と思うかもしれません。

あるいは、

「財産もそんなにないから、必要ない。」

と思うかもしれません。

相続という言葉には、

「死んだ後のこと」

というイメージが強いからです。

しかし、実際には、生前対策の中には「生きている間」の問題が数多くあります。

例えば、

  • 認知症になったら誰が財産を管理するのか
  • 判断能力が低下したら契約できるのか
  • 自宅を売却する必要が生じたらどうするのか
  • 介護が必要になったらどこで暮らすのか
  • 会社経営を続けられなくなったらどうするのか
  • 家族にどこまで支えてもらうのか

こうした問題は、相続が発生する前に起こる可能性があります。

つまり、

「相続対策」という言葉だけでは、人生の後半に起こるさまざまな問題を捉えきれない。

そこで必要になるのが、

「未来設計」という視点です。

2.未来を決めるのは「財産」だけではない

未来設計というと、

「老後のお金を計算すること」

だと思われるかもしれません。

もちろん、お金は重要です。

しかし、人生を決めるのはお金だけではありません。

例えば、

どこで暮らしたいのか

今の自宅なのか。

子どもの近くなのか。

高齢者施設なのか。

あるいは、住み慣れた地域で暮らし続けたいのか。

誰と暮らしたいのか

配偶者と二人で暮らすのか。

子どもと暮らすのか。

一人暮らしを続けるのか。

何をして過ごしたいのか

仕事を続けるのか。

旅行をするのか。

趣味を楽しむのか。

地域活動をするのか。

何を大切にしたいのか

家族との時間なのか。

自分らしさなのか。

社会とのつながりなのか。

経済的な安心なのか。

こうしたことも、人生の未来を決める重要な要素です。

だから、

「財産をどうするか」は、「人生をどうするか」の一部にすぎません。

未来設計では、財産だけではなく、

「自分はどう生きたいのか」

を最初に考えます。

3.「何を残すか」より「どう生きたいか」

相続対策では、

「子どもに何を残そうか」

という話が中心になりがちです。

しかし、その前に考えたいことがあります。

それは、

「自分自身の人生に、何を残したいのか」

ということです。

例えば、

「子どもにできるだけ多くの財産を残したい。」

という方がいたとします。

もちろん、それは大切な希望です。

しかし、

「そのために自分が我慢して生活する」

必要があるのでしょうか。

反対に、

「老後は自分のためにお金を使いたい。」

という方がいても、それは決して悪いことではありません。

人生100年時代。

長く生きることが当たり前になれば、

「老後に備えて、ひたすら財産を残す」

だけではなく、

「自分の人生を最後まで楽しむために、どう財産を使うのか」

という視点も重要になります。

「残すこと」だけが生前対策ではありません。

「使うこと」もまた、未来設計です。

4.未来設計から考えると、必要な対策が見えてくる

未来設計の考え方は、シンプルです。

まず、

「これから、どんな人生を送りたいのか」

を考えます。

その次に、

「その人生を実現するために、何が必要なのか」

を考えます。

そして最後に、

「そのために、どんな制度や専門家の力が必要なのか」

を考えます。

例えば、

「できるだけ自宅で暮らしたい」

↓

自宅の管理、介護、財産管理、認知症への備えなどを考える。

↓

必要に応じて任意後見、家族信託、見守りなどを検討する。

「会社を次の世代に残したい」

↓

後継者、株式、会社財産、経営権、家族への財産承継を考える。

↓

事業承継、遺言、株式対策、税務などを検討する。

「子どもに迷惑をかけたくない」

↓

介護、財産管理、死後の手続きなどを考える。

↓

任意後見、財産管理、死後事務委任、遺言などを検討する。

「子どもたちに争ってほしくない」

↓

家族関係、財産、本人の意思を整理する。

↓

家族との対話、遺言などを検討する。

このように、

未来 → 課題 → 対策

という順番で考えると、必要なものが見えてきます。

反対に、

制度 → 制度 → 制度

という順番で考えると、

「遺言を作ったほうがいい」

「家族信託をしたほうがいい」

「任意後見をしたほうがいい」

と、制度そのものが目的になってしまうことがあります。

未来設計では、

制度を使うために人生を考えるのではなく、人生の希望を実現するために制度を使う。

ここが重要な違いです。

5.未来設計で整理したい5つのテーマ

未来設計を考えるとき、私は大きく5つのテーマに分けて考えると整理しやすいと思います。

① 人

誰と暮らしたいのか。

誰に支えてほしいのか。

家族との関係をどうしていきたいのか。

② 暮らし

どこで暮らしたいのか。

どんな生活を送りたいのか。

介護が必要になったとき、どうしたいのか。

③ 財産

何を持っているのか。

何を残したいのか。

何に使いたいのか。

誰に引き継ぎたいのか。

④ 仕事・社会とのつながり

仕事をいつまで続けたいのか。

会社をどうするのか。

地域との関係をどうするのか。

退職後に何をしたいのか。

⑤ 最後の準備

判断能力が低下したらどうするのか。

亡くなった後の手続きをどうするのか。

葬儀やお墓についてどう考えているのか。

家族に何を伝えておきたいのか。

この5つを整理していくと、

「自分が何を大切にしているのか」

が少しずつ見えてきます。

そして、そこから必要な生前対策を考えていきます。

6.未来設計は「計画」ではなく「選択肢」をつくること

「未来設計」と聞くと、

「10年後、20年後の人生を全部決めること」

だと思うかもしれません。

しかし、人生は予定どおりには進みません。

病気になるかもしれません。

家族の状況が変わるかもしれません。

会社の状況が変わるかもしれません。

住んでいる地域の環境が変わるかもしれません。

だからこそ、未来設計は、

「未来を固定すること」ではありません。

むしろ、

「未来に何が起きても、できるだけ自分らしい選択ができるようにしておくこと」

なのだと思います。

例えば、

「認知症になったらどうするのか。」

「自宅を維持できなくなったらどうするのか。」

「子どもが遠方に住んでいたらどうするのか。」

「会社を継ぐ人がいなくなったらどうするのか。」

こうしたことを事前に考えておけば、問題が起きたときに慌てずに済むかもしれません。

未来設計とは、

未来を当てることではありません。

未来の選択肢を増やしておくことです。

7.一人で考えなくてもいい

ここまで読んで、

「そんなにたくさんのことを、自分一人で考えるのは難しい。」

と思われた方もいるでしょう。

その通りです。

未来設計は、一人ですべてを判断する必要はありません。

むしろ、

一人で抱え込まないこと

が大切です。

相続であれば司法書士。

税金であれば税理士。

不動産であれば不動産の専門家。

介護であれば介護の専門職。

年金であれば社会保険労務士。

法律問題であれば弁護士。

それぞれに専門分野があります。

大切なのは、

「誰に相談するのか分からない問題」を、一人で抱え込まないこと。

そして、

必要なときに、必要な専門家につながれる状態をつくっておくこと。

です。

ここは、次回のテーマにつながっていきます。

8.まとめ――未来を決めてから、対策を考える

ここまで5回にわたって、

相続対策

家族の健全化

会社の健全化

不動産の健全化

人間関係の健全化

について考えてきました。

一見すると、別々の問題に見えるかもしれません。

しかし、実際にはすべてつながっています。

家族の問題が、不動産の問題になる。

不動産の問題が、相続の問題になる。

相続の問題が、人間関係の問題になる。

経営者であれば、家族の問題が会社の問題になる。

だからこそ、個別の制度だけを見ていては、本当の問題が見えないことがあります。

そこで、

「自分はこれからどう生きたいのか」

というところから考えてみる。

これが、未来設計という考え方です。

相続のために人生を考えるのではありません。

人生をよりよくするために、相続や生前対策を考える。

この順番です。

「何を残すのか」だけではありません。

「何を使うのか。」

「誰と過ごすのか。」

「どこで暮らすのか。」

「何を楽しむのか。」

「誰に何を託すのか。」

「最後まで、どんな自分でいたいのか。」

こうしたことを考えた先に、

遺言が必要なのか。

家族信託が必要なのか。

任意後見が必要なのか。

不動産を整理する必要があるのか。

事業承継を考える必要があるのか。

あるいは、何もしないという選択をするのか。

そうした具体的な答えが見えてきます。

だから、未来設計とは、

「何を準備するか」を決めることではありません。

その前に、

「どんな未来を選びたいのか」を考えること。

なのです。

そして、未来を考えたとき、一つの大きな問題に気づきます。

未来設計には、法律だけでは解決できない問題があります。

税金だけでも解決できません。

不動産だけでも解決できません。

人間関係だけでも解決できません。

一人の専門家が、すべての答えを持っているわけではありません。

だからこそ、

「専門家同士が知恵を持ち寄ること」

が必要になります。

次回はいよいよ、このシリーズの最終回です。

第7回「知恵を紡ぐ専門家の役割」

未来設計を実現するために、

専門家は何をすべきなのか。

そして、

相談者が一人で専門家を探し回るのではなく、必要な専門家がつながって支える「ワンストップ提案」とは何なのか。

相続・生前対策を「手続き」で終わらせず、

一人ひとりの未来を一緒に考え、必要な知恵をつないでいく。

アイリスが目指す「未来設計」の考え方を、最終回でお伝えします。

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