相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
「健全化」という視点で考える相続① 相続対策の目的は節税ではない ――「いくら減らすか」より、「何を残したいか」を考える

「相続対策をしていますか?」
そう聞かれたとき、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
「相続税がかからないようにしたい」
「子どもに財産を残したい」
「税金をできるだけ少なくしたい」
おそらく、多くの方が「節税」を思い浮かべるのではないでしょうか。
もちろん、相続税を抑えることは大切です。
しかし、相続対策の目的は、本当に「税金を減らすこと」だけなのでしょうか。
例えば、相続税を100万円減らすことができたとしても、その結果、兄弟姉妹の間で争いが起こり、何年も関係が悪くなってしまったら。
あるいは、節税のために不動産をたくさん残したものの、誰も使わず、管理できない空き家や土地になってしまったら。
会社の株式を相続人に分散させたことで、会社の経営が不安定になってしまったら。
それでも、その相続対策は「成功した」と言えるでしょうか。
私は、相続対策を考えるときには、「何を減らすか」だけではなく、「何を守り、何を次の世代へ残したいのか」から考えることが大切だと考えています。
今回から7回にわたり、「健全化」という視点から相続を考えていきます。
目次
- 相続対策=節税になっていないでしょうか
- 「税金を減らすこと」と「家族を守ること」は同じではない
- 相続で本当に問題になるもの
- 財産を「残す」だけではなく「整える」
- 相続対策から「健全化」という考え方へ
- 相続は「次の世代への橋渡し」
- まとめ――相続対策は「未来を整える」ためにある
1.相続対策=節税になっていないでしょうか

相続について調べると、
「相続税対策」
「生前贈与」
「生命保険」
「不動産による節税」
など、税金に関する情報が数多く出てきます。
そのため、
「相続対策をする=相続税を減らすこと」
というイメージが定着しています。
もちろん、税負担を適切に抑えることは重要です。
しかし、相続には税金以外にも、さまざまな問題があります。
例えば、
- 誰が自宅を引き継ぐのか
- 誰が親の介護をするのか
- 遺産をどのように分けるのか
- 不動産を誰が管理するのか
- 会社を誰が引き継ぐのか
- 兄弟姉妹の関係をどう維持するのか
- 認知症になった場合に誰が財産を管理するのか
- 相続人が遠方に住んでいる場合、どうするのか
こうした問題は、相続税の計算だけでは解決できません。
つまり、
「相続税の問題」と「相続そのものの問題」は、別のものなのです。
2.「税金を減らすこと」と「家族を守ること」は同じではない

相続対策で忘れてはいけないのが、「家族」という存在です。
例えば、父親が亡くなり、長男と次男が相続人だったとします。
財産は、
- 自宅
- 預貯金
- 収益不動産
があるとします。
税金だけを考えれば、どの財産を誰に移せば有利なのかを検討することになります。
しかし、実際には、
「長男は親と同居していた」
「次男は遠方に住んでいた」
「長男が長年、親の介護をしていた」
「次男は親の事業を手伝っていた」
など、家族にはそれぞれの事情があります。
法律上の相続分だけを見れば「公平」でも、家族から見れば「納得できない」ということもあります。
ここで考えたいのが、
「公平」と「納得」は、本当に同じなのか?
ということです。
相続は、数字だけでは割り切れません。
財産の金額だけではなく、そこに至るまでの家族の歴史や、それぞれの思いも関係しているからです。
だからこそ、相続対策を考えるときには、税金だけではなく、家族が将来にわたって健全な関係を維持できるかという視点も必要になります。
3.相続で本当に問題になるもの

相続が発生すると、「財産をどう分けるか」が問題になります。
しかし、実際には財産そのものよりも、財産をめぐる人間関係が問題になることがあります。
例えば、
「なぜ自分の取り分が少ないのか」
「兄だけが多くもらうのはおかしい」
「私は親の面倒を見てきた」
「弟は何もしていないのに同じだけもらうのか」
こうした感情が積み重なることで、相続人同士の関係が悪化してしまうことがあります。
そして一度こじれてしまうと、単純に財産を分ければ解決する問題ではなくなります。
だからこそ、相続が発生してから考えるのではなく、元気なうちから、
「自分はどうしたいのか」
「家族にはどうしてほしいのか」
「どの財産を誰に残したいのか」
「自分が亡くなった後、家族にはどうなってほしいのか」
を考えておくことが重要です。
遺言書を作ることも、その一つです。
しかし、遺言書を作ればすべて解決するわけではありません。
遺言書は、未来を整えるための手段の一つにすぎないからです。
4.財産を「残す」だけではなく「整える」

相続では、
「子どもに財産を残してあげたい」
という思いがあります。
それは、とても自然なことです。
しかし、「残すこと」と「残せる状態にしておくこと」は違います。
例えば、親が所有している土地があったとします。
親にとっては大切な財産でも、子どもにとっては、
- 利用する予定がない
- 遠方に住んでいる
- 管理できない
- 売却も難しい
- 固定資産税がかかる
ということがあります。
そうなると、「財産を残した」という親の思いが、子どもにとっては「負担を残された」という結果になってしまうこともあります。
これは不動産だけではありません。
会社も同じです。
「会社を子どもに継がせたい」と思っていても、子どもに経営する意思がなければ、その思いだけでは事業承継はできません。
つまり、
大切なのは、何を残すかだけではなく、残したものを次の世代が活かせる状態になっているか。
ということです。
5.相続対策から「健全化」という考え方へ
そこで、アイリスでは相続を考えるときに、**「健全化」**という視点を大切にしたいと考えています。
健全化とは、単に問題をなくすことではありません。
それぞれのものが、本来あるべき状態に整えられていることです。
例えば、
家族の健全化
家族それぞれの思いや事情を確認し、将来の争いをできるだけ避けられる状態にする。
会社の健全化
経営者に万一のことがあっても、会社が次の世代へ引き継げる状態にする。
不動産の健全化
誰が所有し、誰が管理し、どのように利用するのかが明確な状態にする。
財産の健全化
単に財産を増やすのではなく、本人や家族にとって意味のある形で整理する。
こうして考えると、相続対策とは単に「相続税を減らす作業」ではなくなります。
家族、会社、不動産、財産、人間関係を、将来に向けて整えていく作業なのです。
6.相続は「次の世代への橋渡し」

相続という言葉には、「財産を受け継ぐ」という意味があります。
しかし、本当に受け継がれるものは、財産だけでしょうか。
家族の歴史。
会社の理念。
親が大切にしてきた土地。
先祖から受け継いだ家。
家族の思い。
こうしたものも、次の世代へ受け継がれていきます。
だから私は、相続を単なる「財産の移転」としてではなく、
「これまでの人生を、次の世代へつなぐ橋渡し」
として考えることも大切だと思っています。
そのためには、亡くなった後のことだけを考えるのではなく、本人が元気なうちから準備しておく必要があります。
そして、その準備は早ければ早いほど、選択肢が増えます。
7.まとめ――相続対策は「未来を整える」ためにある

相続対策で大切なのは、
「いくら節税できるか」
だけではありません。
本当に考えたいのは、
「自分がいなくなった後、家族にどうなってほしいのか」
「自分が大切にしてきたものを、誰に、どのようにつないでいきたいのか」
ということではないでしょうか。
税金を減らすことも大切です。
遺言書を作ることも大切です。
不動産を整理することも大切です。
事業承継の準備をすることも大切です。
しかし、それらはすべて「目的」ではなく、より大きな目的を実現するための「手段」です。
その目的とは、
自分と家族が、これからも安心して人生を歩んでいける状態をつくること。
私は、それこそが相続対策の本当の目的の一つだと考えています。
だからこそ、アイリスでは相続を「健全化」という視点から考えていきます。
次回は、その中でも最も重要なテーマの一つである、
「家族の健全化とは何か」
について考えます。
相続で大切なのは、単に「公平に分けること」なのでしょうか。
それとも、「家族が納得して、その後も関係を続けていけること」なのでしょうか。
次回は、相続と家族関係について、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。
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