「健全化」という視点で考える相続② 家族の健全化とは何か ――相続で大切なのは「公平」だけではない

2026年09月24日

「兄弟で平等に分ければ、揉めないでしょう。」

相続の相談を受けていると、こうした考え方に出会うことがあります。

確かに、相続人全員が同じ割合で財産を受け取れば、一見すると公平です。

しかし、本当にそれだけで家族は納得できるのでしょうか。

例えば、長男が親と同居し、10年間にわたって介護をしてきた。

次男は遠方に住んでいたものの、親の会社を手伝ってきた。

長女は母親の病院への付き添いや生活の支援をしてきた。

このような家族に、

「法律上の相続分に従って、均等に分けましょう」

と言ったとしても、それぞれの心の中には、さまざまな思いが残るかもしれません。

相続は、法律や数字だけで完結する問題ではありません。

そこには、何十年という家族の歴史があります。

だからこそ、相続を考えるときには、

「誰がいくらもらうのか」だけではなく、「相続を終えた後も、この家族は健全な関係を続けていけるのか」

という視点が必要なのではないでしょうか。

第1回では、相続対策の目的は節税だけではないというお話をしました。

第2回では、その考え方をさらに進めて、**「家族の健全化」**について考えます。

目次

  1. 相続で「公平」に分ければ、本当に問題は解決するのか
  2. 家族には、それぞれの「見えない貢献」がある
  3. 相続争いは、財産だけが原因ではない
  4. 「正しさ」と「納得」は違う
  5. 家族の健全化とは何か
  6. 元気なうちだからこそできること
  7. まとめ――相続のゴールは、財産を分けることではない

1.相続で「公平」に分ければ、本当に問題は解決するのか

相続では、「公平」という言葉がよく使われます。

では、「公平」とは何でしょうか。

単純に考えれば、

同じ金額を受け取ること

かもしれません。

しかし、家族の状況が違えば、「同じ金額」が必ずしも公平とは限りません。

例えば、親の介護を10年間続けてきた子と、ほとんど関わってこなかった子がいたとしても、財産を同じ割合で分けることがあります。

もちろん、それが法律上問題のないケースもあります。

しかし、介護をしてきた側からすれば、

「自分はこれだけ親のために時間を使ってきたのに」

という気持ちが残るかもしれません。

反対に、介護をしてこなかった側にも、

「自分には自分の生活があった」

という事情があるかもしれません。

つまり、家族それぞれに「自分から見た正しさ」があるのです。

だからこそ、相続では、

「公平に分けること」と「家族全員が納得すること」は、必ずしも同じではありません。

2.家族には、それぞれの「見えない貢献」がある

家族の中には、外からは見えない貢献があります。

例えば、

  • 親と同居して家の管理をしていた
  • 病院への付き添いをしていた
  • 介護をしていた
  • 親の会社を手伝っていた
  • 遠方から定期的に帰省していた
  • 経済的に親を支援していた
  • 親の不動産を管理していた
  • 家族の問題を調整していた

などです。

こうしたことは、預金通帳には記録されません。

しかし、その家族にとっては確かな事実です。

一方で、親の側からすれば、

「長男には家を残したい」

「次男には会社を継いでもらいたい」

「長女にはこれまで世話になった」

という思いがあるかもしれません。

そこで重要になるのが、

本人が何を大切にしているのか。

ということです。

相続対策は、財産の一覧表だけを見ていては、本当の意味での対策にならないことがあります。

財産の背景にある「人」と「家族」を見ること。

これが、家族の健全化を考える第一歩です。

3.相続争いは、財産だけが原因ではない

「相続で揉めるのは、お金持ちの家でしょう。」

そう思われる方もいるかもしれません。

しかし、相続争いは、財産の多さだけで決まるものではありません。

むしろ、財産がそれほど多くなくても、

「兄だけが親から大切にされていた」

「昔から姉ばかり優遇されていた」

「弟は親の面倒を見なかった」

など、長年の感情が相続をきっかけに表面化することがあります。

つまり、

相続は、それまでの家族関係が表れる場になることがある。

ということです。

相続が始まったから家族が揉めたのではなく、

相続をきっかけとして、それまで蓄積していた家族の問題が表面化した。

というケースもあります。

だからこそ、相続対策を「財産対策」だけで終わらせてはいけないのです。

4.「正しさ」と「納得」は違う

相続を考えるうえで、もう一つ大切なのが、

「正しいこと」と「納得できること」は違う

という視点です。

法律には、相続人や相続分などについて一定のルールがあります。

そのルールを知ることは非常に重要です。

しかし、法律上のルールを説明しただけで、家族の気持ちまで整理されるとは限りません。

例えば、

「法律上はこの割合です」

という説明はできます。

しかし、

「なぜその割合なのか」

「本人はどう考えていたのか」

「家族はどう受け止めるのか」

という問題は、別に考える必要があります。

もちろん、法律や手続きを無視するという意味ではありません。

むしろ、

法律を土台にしながら、その家族にとって納得できる方法を考える。

そこに、生前対策の意味があります。

5.家族の健全化とは何か

では、「家族の健全化」とは何でしょうか。

私は、

家族それぞれの立場や思いを整理し、将来にわたってできるだけ良好な関係を維持できる状態をつくること

だと考えています。

決して、

「家族全員が同じ意見になること」

ではありません。

家族なのだから、意見が違って当然です。

財産の分け方について、全員が完全に納得することも難しいでしょう。

重要なのは、

違いがあることを前提として、それでも話し合える状態をつくっておくこと。

です。

そのためには、

  • 本人の希望を確認する
  • 家族の状況を整理する
  • 財産を把握する
  • 不動産を整理する
  • 事業があれば承継方法を考える
  • 認知症など将来のリスクを考える
  • 必要に応じて遺言を検討する
  • 必要な専門家に相談する

といった準備が必要になります。

つまり、家族の健全化とは、

「相続が起きたときに揉めないようにする」だけではなく、「相続について家族が話せる状態をつくる」こと

でもあるのです。

6.元気なうちだからこそできること

相続について話し合うのは、決して簡単ではありません。

「まだ元気なのに、そんな話をするのは縁起が悪い」

「子どもから財産の話をすると、お金を狙っていると思われそう」

「親が怒るかもしれない」

そう感じる方も少なくないでしょう。

しかし、本人が元気なうちであれば、選択肢はたくさんあります。

例えば、

「自分はこの家をどうしたいのか」

「この土地は誰かに使ってほしいのか」

「会社は誰に引き継いでほしいのか」

「介護が必要になったらどうしてほしいのか」

「家族にはどのように財産を残したいのか」

といったことを、本人の言葉で確認できます。

ところが、認知機能が低下してしまうと、本人の意思を確認することが難しくなる場合があります。

そして亡くなった後では、本人に直接聞くことはできません。

だからこそ、

元気なうちに、本人の「思い」を確認しておく。

これが家族の健全化において非常に重要です。

7.まとめ――相続のゴールは、財産を分けることではない

相続では、財産を適切に分けることが必要です。

法律を守ることも必要です。

税金について考えることも必要です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

相続が終わった後も、家族の人生は続いていきます。

兄弟姉妹は、その後も冠婚葬祭などで顔を合わせるかもしれません。

親族として関わり続けることもあるでしょう。

だからこそ、

「相続が終わったときに、家族も終わってしまう」

という結果だけは避けたいものです。

相続の本当のゴールは、財産を分けることだけではありません。

次の世代が、それぞれの人生を安心して歩いていける状態をつくること。

そして、

家族が相続をきっかけに壊れるのではなく、これからもそれぞれの人生を歩みながら、必要なときには支え合える関係を残していくこと。

それも、相続対策の大切な目的ではないでしょうか。

だからこそ、相続は「財産」だけではなく、「家族」という視点から考える必要があります。

次回は、さらに視点を広げます。

相続によって影響を受けるのは、家族だけではありません。

会社を経営している方にとっては、**「会社をどう次の世代につなぐのか」**という問題があります。

株式、経営権、不動産、後継者、従業員、取引先――。

経営者の相続は、家族の問題であると同時に、会社そのものの未来にも関わります。

次回は、

第3回「会社の健全化と相続」

として、相続という視点から「会社を健全な状態で次の世代へつなぐ」ということを考えていきます。

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