【第5回】主体性を育てる組織と、主体性を失わせる組織|社員が自ら考え行動する職場のつくり方
社員が自ら考え、行動してくれれば、仕事はもっと円滑に進むでしょう。上司が細かく指示を出す負担も減り、組織として新しいことに挑戦する余裕も生まれます。

「うちの社員は、指示しないと動かない」
「もっと自分で考えて行動してほしい」
経営者や管理職の方から、このような声を聞くことがあります。
社員が自ら考え、行動してくれれば、仕事はもっと円滑に進むでしょう。上司が細かく指示を出す負担も減り、組織として新しいことに挑戦する余裕も生まれます。
しかし、社員に主体性を求めるだけで、それが実現するのでしょうか。
これまでのシリーズでは、指示待ち人間が生まれる背景や、主体性と自発性の違い、主体性を求める上司がかえって部下の主体性を奪ってしまう矛盾、そして自分で選ぶ人生について考えてきました。
そこで今回は、さらに視点を広げてみたいと思います。
社員の主体性は、本人の努力だけで育つものなのか。それとも、組織のあり方によっても大きく変わるものなのか。
同じ人でも、ある職場では自分から考えて行動するのに、別の職場では指示を待つようになることがあります。
この違いを考えることは、社員の意識を変えるだけでなく、組織の仕組みや経営者自身の関わり方を見直すことにもつながります。
本記事では、主体性を育てる組織と、主体性を失わせる組織の違いを整理し、経営者や管理職が実践できる具体的な方法を考えていきます。
目次
1. 主体性は、社員個人の問題だけではない

社員が指示を待っているとき、私たちは、つい本人の意欲や能力に原因を求めてしまいがちです。
「もっと積極的になってほしい」
「自分の頭で考えてほしい」
「言われる前に行動してほしい」
もちろん、本人の経験や考え方、仕事への向き合い方が影響することはあります。
しかし、同時に考えたいのが、その社員が自分で考え、行動できる環境になっているかということです。
例えば、社員が自分なりに考えて仕事を進めたとします。
ところが、上司から「勝手なことをするな」と叱られたらどうでしょうか。
次からは、判断する前に上司へ確認しようと考えるかもしれません。
また、以前に自分の判断で行動した結果、失敗を厳しく責められた経験があれば、同じことを繰り返さないように慎重になるでしょう。
こうした経験が積み重なれば、社員は自分で考えることよりも、指示を待つことのほうが安全だと学習する可能性があります。
反対に、自分で考えて行動したことを認めてもらい、必要な助言を受けながら経験を積める職場では、主体的な行動が育ちやすくなります。
つまり、指示待ちの状態が続いているときには、本人の意識だけでなく、組織の側にも目を向ける必要があるのです。
ここで重要なのは、社員の責任をすべて組織の責任に置き換えることではありません。
本人に求めるべき努力と、組織が整えるべき環境。その両方を考えることが大切です。
2. 主体性を失わせる組織に共通する5つの特徴

それでは、どのような組織で社員の主体性が失われやすいのでしょうか。
① 指示されたことだけを評価する
上司から指示された仕事を正確にこなすことだけが評価され、自分で考えた提案や工夫が評価されない職場では、社員は余計なことをしないほうがよいと考えるかもしれません。
もちろん、指示どおりに正確に仕事をすることは大切です。
しかし、それだけを評価していると、改善や工夫に取り組む意欲が育ちにくくなります。
成果だけでなく、問題に気づいたことや、よりよい方法を考えたことにも目を向ける必要があります。
② 上司の判断が絶対になっている
社員が意見を述べても、上司が自分の考えを押し通してしまう。
あるいは、上司の意見に反対すると、協調性がないと評価される。
このような環境では、社員は自分の意見を伝えることに消極的になりがちです。
意見を聞くことと、必ずその意見を採用することは違います。
採用できない提案であっても、理由を説明し、考えたこと自体を尊重する姿勢が必要です。
③ 失敗を許容しない
仕事には、予想外のことが起きます。
十分に考えて行動しても、必ず成功するとは限りません。
ところが、失敗した社員を厳しく責めたり、失敗そのものを評価の大きなマイナスにしたりする組織では、社員は挑戦を避けるようになる可能性があります。
大切なのは、すべての失敗を容認することではありません。
防ぐべきミスと、改善につながる試行錯誤を区別し、失敗から学べる仕組みをつくることです。
④ 判断する権限が与えられていない
「自分で考えて行動してほしい」と言いながら、仕事の進め方や必要な手続きについて、何一つ自分で決められない。
これでは、社員が主体性を発揮できる範囲が限られてしまいます。
判断してよいこと、事前に相談すべきこと、上司の承認が必要なこと。
こうした範囲が明確になっていなければ、社員は判断するたびに不安を感じるでしょう。
主体性を求めるのであれば、それに見合った権限と責任を与える必要があります。
⑤ 経営者や上司自身が考えることを放棄している
意外に見落とされやすいのが、経営者や管理職自身の姿勢です。
社員に「もっと考えろ」と言いながら、経営者自身が社員の意見を聞かなかったり、問題が起きるたびに場当たり的な指示を出したりしていれば、社員もその姿勢から影響を受けます。
組織では、言葉だけでなく、日々の行動や判断の仕方も共有されていきます。
主体性を育てたいのであれば、まずは経営者や管理職自身が、考え、問い、学び続ける姿を示すことが重要です。
3. 主体性を育てる組織に共通する5つの特徴

主体性を失わせる組織がある一方で、社員が自ら考え、行動しやすい組織には、どのような特徴があるのでしょうか。
① 仕事の目的が共有されている
社員が自分で考えて行動するためには、何をするかだけでなく、なぜそれをするのかを理解する必要があります。
例えば、「この書類を作成してください」という指示だけでは、社員は書類を作ること自体を目的にしてしまうかもしれません。
一方で、「お客様が次の判断をできるように、必要な情報を整理するための書類です」と目的まで共有されていれば、よりわかりやすい構成にするなど、自分で工夫できる余地が生まれます。
目的が共有されていれば、状況が変化したときにも、何を優先すべきかを考えやすくなります。
② 意見や疑問を安心して伝えられる
主体性を発揮するためには、自分の考えを口にできる環境も必要です。
わからないことを質問できる。
問題点を指摘できる。
上司と異なる意見を伝えられる。
こうしたことが難しい職場では、社員が考えていても、それを行動に移せない場合があります。
心理的安全性という言葉がありますが、これは単に仲がよく、厳しいことを言わない職場を意味するものではありません。
必要な指摘や意見の違いがあっても、人格を否定されることなく、仕事について率直に話し合える状態を目指すことです。
③ 自分で判断できる範囲が明確になっている
すべての仕事を社員に自由に任せればよいわけではありません。
法令や安全に関わること、金銭的なリスクが大きいこと、顧客との重要な約束など、組織として慎重な判断が必要な領域もあります。
一方で、日常的な業務の進め方や小さな改善まで、すべて上司の承認が必要であれば、社員は自分で判断する経験を積めません。
そこで、社員が自分で決めてよいことと、相談・承認が必要なことを整理します。
判断できる範囲が明確になれば、社員は安心して行動しやすくなります。
④ 行動した結果を一緒に振り返る
主体性は、一度任せれば自然に育つというものではありません。
実際に行動し、その結果を振り返り、次の行動につなげる経験が必要です。
うまくいったときには、何がよかったのかを確認する。
期待した結果にならなかったときには、何が原因だったのかを一緒に考える。
上司が一方的に正解を教えるのではなく、本人が自分で考える時間をつくることが大切です。
こうした積み重ねが、次の場面で自ら判断する力につながります。
⑤ 社員を単なる作業者として扱わない
社員を、指示された仕事を処理するための存在として見るのか。それとも、考え、工夫し、成長する一人の人間として見るのか。
この違いは、日々の接し方に表れます。
社員の意見を聞く。
仕事の改善を一緒に考える。
本人の得意なことや関心に目を向ける。
仕事を任せる際に、期待する役割や目的を伝える。
こうした関わりは、社員が自分の仕事を単なる作業ではなく、自分が関わる意味のある仕事として捉えるきっかけになります。
主体性を育てる組織は、社員に一方的に変化を求めるのではなく、社員が力を発揮できる関係や環境をつくろうとする組織なのです。
4. 経営者・管理職が実践したい5つの取り組み

ここまでの内容を踏まえて、明日から取り組める具体的な方法を考えてみましょう。
① 指示を出す前に、目的を伝える
仕事を依頼するときには、作業内容だけでなく、その目的や背景も伝えます。
「何をするか」に加えて、「何のためにするのか」を共有することが、社員の判断を助けます。
ただし、毎回長い説明をする必要はありません。必要な背景を簡潔に伝えるだけでも違いが生まれます。
② 答えをすぐに教えず、考えを聞く
社員から質問されたとき、すぐに答えを教えることが最も効率的な場合もあります。
しかし、いつも上司が答えを示していると、社員は自分で考える機会を失ってしまいます。
時間に余裕がある場面では、次のように聞いてみましょう。
「あなたは、どうしたらよいと思いますか?」
「その方法を選んだ理由は何ですか?」
「ほかに考えられる方法はありますか?」
問いかけることで、社員が自分の考えを整理する機会をつくれます。
③ 小さな仕事から任せる
最初から大きな判断を任せる必要はありません。
仕事の手順を改善する、資料のまとめ方を工夫する、会議の進め方を提案するなど、小さなことから始めます。
本人が自分で考え、行動し、その結果を振り返る。
この経験を積み重ねることで、少しずつ判断できる範囲を広げていきます。
④ 失敗したときには、原因と改善策を考える
失敗が起きたとき、誰の責任なのかを明らかにする必要がある場面はあります。
しかし、責任を追及するだけでは、同じ失敗を防ぐ仕組みができないこともあります。
「なぜ起きたのか」
「どこで気づけたのか」
「次に同じことが起きたら、どうするのか」
こうした問いを通じて、本人の学びと組織の改善を両立させましょう。
もちろん、重大なルール違反や、繰り返される不適切な行動まで曖昧にしてよいわけではありません。必要な指導と、学びのための振り返りを両立させることが重要です。
⑤ 経営者自身が、社員の意見によって変わる
社員に意見を求めても、最初から多くの意見が出てくるとは限りません。
これまで意見を述べる機会がなかった職場では、社員が何を話せばよいのか戸惑うこともあります。
まずは、日常の小さな改善について意見を聞いてみる。
そして、よい提案は取り入れ、採用できない提案については理由を説明する。
ときには、社員の意見によって経営者自身の判断を変えることも必要です。
経営者が「自分の考えが常に正しいわけではない」という姿勢を示せば、社員も自分の考えを伝えやすくなるでしょう。
5. 主体性を育てることと、社員を放任することは違う

ここまで読むと、社員に任せることが重要であり、上司はあまり口を出さないほうがよいと感じるかもしれません。
しかし、主体性を育てることと、社員を放任することは違います。
経験の少ない社員に、目的も判断基準も伝えず、「自分で考えてやってください」と任せても、何をどうすればよいのかわからないことがあります。
また、権限を与えずに責任だけを負わせることも、主体性を育てる方法ではありません。
社員が主体的に行動できるようになるためには、必要な知識や技術を身につける機会と、適切な助言が必要です。
そのうえで、本人が考え、判断し、行動する余地をつくっていきます。
上司の役割は、すべての答えを先回りして示すことでも、何も教えずに任せきりにすることでもありません。
社員が自分で考えられるように支えながら、少しずつ自分で判断できる範囲を広げていくことです。
また、すべての社員が同じ速度で主体性を発揮できるわけではありません。
経験、知識、性格、置かれている状況によって、必要な支援は異なります。
だからこそ、一人ひとりの状態を見ながら、任せる範囲や支援の方法を調整する必要があります。
主体性を育てる組織とは、社員に一律の行動を求める組織ではなく、それぞれが自分の力を発揮できる環境を整える組織なのです。
6. 主体性のある組織は、経営者自身の姿勢から始まる
最後に、最も重要なことを考えてみたいと思います。
社員の主体性を育てるために、制度を整えたり、研修を実施したりすることは有効な取り組みです。
しかし、それだけで組織が変わるとは限りません。
制度上は社員に意見を求めていても、経営者が意見を聞かなければ、社員は次第に発言しなくなるかもしれません。
失敗から学ぶ方針を掲げていても、実際に失敗した社員を厳しく責めれば、社員は挑戦を避けるようになるかもしれません。
権限委譲を進めていても、社員が判断するたびに経営者が細かく口を出せば、結局は自分で決められない状態に戻ってしまいます。
組織のあり方は、掲げている理念や制度だけでなく、日々の行動によって形づくられていきます。
だからこそ、経営者自身にも問いかけてみてほしいのです。
すべてに完璧に答えられる必要はありません。
経営者も管理職も、一人の人間です。判断を誤ることもあれば、余裕を失うこともあります。
大切なのは、自分の関わり方が社員にどのような影響を与えているのかを振り返り、必要に応じて変えていくことです。
社員に主体性を求めるのであれば、まずは社員が主体性を発揮できる組織になっているかを考える。
そして、組織を変えようとする経営者自身も、主体性を持って行動する。
その積み重ねが、社員一人ひとりが考え、行動できる組織づくりにつながるのではないでしょうか。
おわりに|人を変える前に、環境を見直してみる
「指示待ち人間を、どうすれば変えられるのか」
この問いから始まったシリーズを通じて、考えてきたことがあります。
それは、主体性の問題を、本人の意欲や性格だけで説明することはできないということです。
もちろん、本人が自ら考え、行動しようとする姿勢は大切です。
しかし、その姿勢を育てるためには、周囲の関わり方や職場の環境も重要です。
自分で考えてもよい。
意見を伝えてもよい。
必要な助言を受けながら挑戦できる。
失敗から学び、次の行動につなげられる。
そうした環境があってこそ、社員は少しずつ自分で判断し、行動する経験を積むことができます。
そして、これは職場だけの話ではありません。
家庭でも、地域でも、さまざまな人が集まる組織でも、相手の考えを聞き、本人が選ぶ余地を大切にすることは、主体性を育てることにつながります。
人を変えようとする前に、その人がどのような環境に置かれているのかを考えてみる。
自分が相手の可能性を狭めていないか、振り返ってみる。
そして、相手を変えることだけを求めず、自分自身も変わっていく。
それは簡単なことではありませんが、組織をよりよい方向へ変えていくための、大切な一歩だと思います。
主体性のある組織は、主体性のある社員を集めるだけでは生まれません。一人ひとりが考え、行動できる環境を、組織全体でつくっていくことから始まるのです。
経営者や管理職の皆さんは、ご自身の職場を振り返って、どのように感じられたでしょうか。

社員が自ら考え、行動してくれれば、仕事はもっと円滑に進むでしょう。上司が細かく指示を出す負担も減り、組織として新しいことに挑戦する余裕も生まれます。
これまで、指示待ち人間が生まれる原因や、主体性と自発性の違い、そして主体性を求める上司が、かえって部下の主体性を奪ってしまう矛盾について考えてきました。
経営者や管理職の方であれば、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。
上司から指示される前に動く。自分で考えて仕事を進める。言われたことだけでなく、自分にできることを探す。