相続の相談でいちばん多い失敗は、
「税理士に行ったら登記の話ができず、司法書士に行ったら税金が分からない」ことです。
相続で本当に怖いのは「財産」より「人間関係」――司法書士が相続の現場で感じる、見えない問題

「うちは財産がそんなにないから、相続でもめることはないと思います。」
相続のご相談を受けていると、このようなお話を聞くことがあります。
確かに、財産が多ければ、相続人の間で財産の分け方について意見が対立する可能性は高くなるかもしれません。
しかし、相続の現場を見ていると、財産の多さだけが相続トラブルの原因ではないことを感じます。
自宅と預金が少し。
相続税の基礎控除の範囲内。
それでも、相続人同士の話し合いが難しくなることがあります。
その背景にあるのが、「人間関係」です。
特に、前婚の配偶者との間に子どもがいる、長年会っていない相続人がいる、兄弟姉妹の間に以前からわだかまりがある、といった場合には、相続という出来事をきっかけに、これまで表面化していなかった感情が出てくることがあります。
今回は、司法書士・行政書士として相続の手続きに関わる中で感じる、「手続きだけでは見えない相続の問題」について考えてみます。
目次
- 相続は「財産」だけの問題ではない
- 前婚の子どもがいる場合に考えておきたいこと
- 「妹は嫁に出ているから関係ない」という誤解
- 過去のわだかまりが相続で表面化することがある
- 相続トラブルを防ぐために、生前からできること
- 「財産」ではなく「家族」を見る生前対策
1.相続は「財産」だけの問題ではない

相続というと、
「誰がいくらもらうのか」
という財産の問題だと考える方が多いと思います。
もちろん、遺産をどのように分けるかは重要です。
しかし、実際の相続では、財産そのものよりも、
「なぜ自分はこうなるのか」
という感情が問題になることがあります。
「兄は親と同居していたから多くもらうのか」
「私は遠くに住んでいたけれど、相続人なのだから権利がある」
「親の面倒を見たのは自分なのに」
「自分は何も聞かされていなかった」
このような気持ちは、財産の金額だけでは説明できません。
つまり、相続では「財産」と「人間関係」が切り離せないことがあります。
だからこそ、生前対策を考えるときには、財産の一覧を作るだけではなく、誰と誰が家族なのか、どのような関係なのかを確認することも重要なのです。
2.前婚の子どもがいる場合に考えておきたいこと

特に注意しておきたいのが、前婚の配偶者との間に子どもがいるケースです。
離婚した後、長年その子どもと会っていない。
あるいは、ほとんど交流がない。
そのような場合、
「もう何十年も会っていないのだから、相続には関係ないでしょう」
と思ってしまうことがあります。
しかし、法律上の相続人であるかどうかは、現在付き合いがあるかどうかだけで決まるものではありません。
被相続人に子どもがいれば、その子どもは原則として相続人になります。
つまり、本人にとっては長年会っていない「家族」であっても、相続手続きでは重要な当事者になることがあります。
亡くなった方が家族の間をつないでいた場合には、その方が亡くなった瞬間に、それまで何とか保たれていた関係が変わることもあります。
だからこそ、
「今は問題がない」ではなく、「相続が起きたときに誰が関係するのか」
を元気なうちに確認しておくことが大切です。
3.「妹は嫁に出ているから関係ない」という誤解

相続のご相談で、今でも耳にすることがある言葉があります。
「妹は嫁に出ているから関係ないですよね。」
しかし、結婚しているかどうか、実家に住んでいるかどうかで、相続人としての立場が変わるわけではありません。
たとえば、父親が亡くなり、子どもが長男と長女の二人であれば、長女が結婚して別の家庭を持っていても、原則として長男と長女の双方が相続人です。
「嫁に出たから実家の財産には関係ない」
という家族の感覚と、
「法律上、相続人である」
という現実には、違いがあります。
そして、この認識の違いが、感情のもつれにつながることがあります。
本人としては、
「私は家を出たから何もいらない」
と思っていたとしても、何も話をしていなければ、別の相続人は、
「妹は何も言ってこないだろう」
と思い込んでしまうかもしれません。
しかし、相続が始まれば、法律上の相続人として話し合いに参加することになります。
だからこそ、生前に家族で話しておくことが重要なのです。
4.過去のわだかまりが相続で表面化することがある

相続の難しさは、「今の関係」だけではありません。
過去の出来事が、相続をきっかけに表面化することがあります。
例えば、父親の相続の際、家族が揉めないように、母親には不動産と預金の一部、長男には預金の一部、妹には遺留分を意識した金額を渡すような内容で整理したとします。
そのときは、何とか相続手続きが終わった。
ところが、後に母親が亡くなったとき、
「今度は母親の財産の半分をもらう」
と妹が主張した。
なぜ、このようなことが起こったのでしょうか。
父親の相続の際に何か思うところがあったのかもしれません。
「自分は納得していなかった」
「本当はもっと言いたいことがあった」
「兄ばかり優遇されたと思っていた」
そんな気持ちが残っていた可能性もあります。
ただし、それは外から簡単に判断できるものではありません。
事実は、その本人の心の中にあるからです。
だから私は、相続手続きだけを見て、
「この家族は仲が良さそうだから大丈夫」
と判断することはできないと考えています。
人間関係は、目に見えないからこそ難しいのです。
5.相続トラブルを防ぐために、生前からできること

では、どうすればいいのでしょうか。
私は、まず「話すこと」が大切だと思っています。
よく相談者の方に、
「お盆に息子さん、帰ってくるんでしょう? 話し合いをしてください。」
とお伝えすることがあります。
相続が発生した後には、残された相続人が遺産分割について話し合うことになります。
そのとき、
「ああ、親父、この間、○○になるようにしてほしいって言っていたよな」
という言葉が出てくれば、亡くなった方の想いが、残された家族の話し合いの中に引き継がれます。
もちろん、生前に話をしたからといって、必ず相続トラブルがなくなるわけではありません。
しかし、何も知らない状態で相続を迎えるのと、
「親はこう考えていた」
と知った上で相続を迎えるのとでは、大きな違いがあります。
生前の会話は、法律上の効力を持つ書類とは別の意味で、家族にとって大切な情報になるのです。
6.「財産」ではなく「家族」を見る生前対策

生前対策というと、
「財産をどう分けるか」
から考え始めることが多いと思います。
しかし、その前に考えてほしいことがあります。
「自分が亡くなった後、この家族はどうなるのだろう?」
ということです。
誰が相続人なのか。
長年会っていない人はいないか。
前婚の子どもはいないか。
兄弟姉妹の間に何か気になることはないか。
家族の中で、自分だけが知っている事情はないか。
そして、
「自分は家族に何を望んでいるのか」
を考える。
それが、本当の意味での生前対策の出発点ではないでしょうか。
遺言書や家族信託などの制度は、その想いを実現するための大切な手段です。
しかし、制度を作る前に、人を見る。
これが、司法書士・行政書士として相続の現場に関わってきた私が感じていることです。
相続は、亡くなった方の財産を分ける手続きです。
しかし、その手続きをするのは、残された「人」です。
だからこそ、
相続対策は、財産対策であると同時に、人間関係への対策でもある。
私はそう考えています。
次回は、こうした人間関係の問題を防ぐために、なぜ「生きているうちに家族で話すこと」が重要なのかを、もう少し具体的に考えていきます。
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